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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
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42話「修二の思いつき」

  12月30日(木)


 朝を告げる小鳥たちの鳴き声が聞こえる中、俺は惰眠だみんを貪っていた。今、俺は非常に疲れている。なぜなら冬休みに入ってから昨日まで、家族サービスのために明日美あすみにあちらこちらへと連れ回されっぱなしだったからだ。いくら約束をしたとはいえ、いっても1日、2日程度。もしくは間に休みを入れてくれると思うだろう。しかし明日美は昨日までフルにあっちへ行ったり、こっちへ行ったり……それに付き合わされっぱなしな俺には当然疲労も溜まってくる。しかもその支払は全て俺、よって財布はすっからかん。もういよいよどこへ行くこともできなくなったので、今日はようやく完全に休みとなった。だから俺は疲れた体を癒やすために眠っていたのだが、その安眠を奪うアホがいた。まぎれもない修二しゅうじのバカ野郎だ。俺は眠たい目をこすりつつ、そのバカからの着信通知に呆れながらも、何かあってはいけないので真面目に電話に出る。すると――


「おう、れん! 元気か!?」


 なんていつものバカげた声で、うっとしいぐらいのテンション高めで話かけてきた。


「全然……用は?」


 まだ頭が覚醒していない俺は、最低限度の言葉で返す。


「ああ、今日さー夜の10時から学園で肝試しやるから来いよ!」


 俺が寝ぼけていることを差し引いても、修二の言っていることは全く理解できなかった。あまりにも説明不足で、その上唐突。もっと人に分かるように説明してくれ。


「はぁ? なにいってんのお前……」


「だから、10時から学校で肝試しやんの!」


「……なんで?」


 相変わらず理由を説明しない修二に、寝ぼけながらも会話を続けていく。どうして学校で肝試しをするのか、俺が欲しているところはそこなのだが。


「……お前、もしや寝起きか……分かった、後でメールで送っとくからみろ」


 でも結局、そのところは説明されないまま、修二は俺が寝起きだということを察し、一旦ここで切り上げ電話を切るようだ。


「……おう」


 疑問が残るまま俺はそう返事をし、携帯を置く。寝起きからか頭がぼーっとしていて、あくびがでる。このまま二度寝しようかとも思ったが、どうせメールでまた起こされることは目に見えている。ここは素直に起きた方がいいだろう。俺はそう決め、ベッドから起き上がる。するとすぐに、携帯に着信が来る。今度はメール。ということはつまり――


『今日の夜10時に学園で肝試しを行う。詳しいことは学園で話す。服装は一応制服で』


 それは修二からのメールで、そう書いてあった。


「はぁ? 肝心なところがねーじゃねぇーか」


 あのアホの頭には『説明』という文字はないようで、理由を一切書いておらず、その内容なら先程の電話で聞いているし、あまり意味のないメールだった。そんなメールにため息をつきながら、


『なんで今日にそんなことするんだ?』


 と打って送り返してやった。俺が知りたいのはそこなのだ。なぜ今日、突然にそんんなことをおっ始めるのか。肝試しと言えば夏の風物詩。でも今は冬で時期外れ。チョイスが謎すぎる。アイツの頭の中がどうなっているのか、見たいぐらいだ。そんなことを考えていると、メールの返信が来た。


『理由? お前今日は30日だぞ、もう今年も2日しかねぇーんだ! 今年最後にみんなで楽しくやろーうぜ! 日にちについては、明日は忙しいだろうから今日にしておいた、まあ、急で悪かったな』


 と書いてあった。つまり修二は年末にバカ騒ぎしたいから、それに付き合えってことだろう。まあ夏にはやってなかったし、それに久しぶりにみんなにも会えるだろうから悪くはないか。


「ん、誰だ?」


 メールを見ながらそんなことを考えていると、今度はなぜか知らない人から電話がかかってきた。俺はこんな朝にイタ電か、あるいは間違い電話か、はたまたこの間のアレかと色々と勘ぐりつつ、恐る恐る興味本位でその電話に出てみることにした。


「もしもし、煉くん?」


 だけれどそのどれにも属さない、意外な人物――岡崎おかざきからの電話であった。


「おう、岡崎か。てか、俺の番号って教えてたっけ?」


 たしか俺の記憶が正しければ、岡崎とは番号交換をしていないはず。だから彼女が俺の番号を知ってるのが不思議だった。


「あーえっと、木下きのしたくんに……教えてもらった……」


「あ、マジか……ん、まあいいや、で、どうしたの?」


 またアイツか。どうして修二のアホは俺との約束は守れないのだろうか。あれほど本人の了承なしに番号を教えるなといったはずなのに。今回は岡崎だからよかったものの、恐らくあいつもそう判断したんだろうけれど、今日会ったらあいつに念を押して言っとかなくては。と、修二にイライラしながらも俺は岡崎に用件を訊く。修二から教えてもらって電話してきた以上はなにか俺に用事があるのだろう。


「あぁ、えーと、今日の肝試し行くの?」


 何を話すかと思えば、例の肝試しのことだった。岡崎がそのことを知っているということは、修二のヤツうちのクラスメイト全員に声をかけたか。岡崎と修二がそんな肝試しを誘うほど仲がいいとは思えないし、とにかく頭数を稼ぐためにまずクラスメイトに声をかけたって感じかな。


「うん、せっかくだし行こうかなと、それに家にいても暇だし」


「そっか……行くんだ……」


 でも俺の答えにどういうわけか、岡崎はどこか残念そうな声で返事をする。


「あっ、ああ、そっかそっか、岡崎ってお化け――」


 その反応にちょっと疑問に思ったが、すぐに線が繋がった。でも、


「キャッァァァー――――!」


 その理由を俺が言い切るのも束の間、本当に鼓膜が破れるんじゃないかと思えるほどの叫び声をあげる岡崎さん。今回は耳元だったから余計にダメージが大きい。忘れていた。岡崎は『お化け』とかそういった単語に過剰に反応し、叫ぶことを。あぁ、耳いてぇ……


「あっ!? ゴメン! 大丈夫!?」


「大丈夫……えーと、岡崎は……ホラー系が苦手なんだよな」


 岡崎を安心させつつ、俺は慎重に言葉を選びながら会話を続けていく。どうやら『ホラー系』というのは大丈夫みたいだ。うーむ、基準が全くわからない。


「べっ、別に怖くなんか……ないもん!!」


 それにもうバレバレだと言うのに、無理に強がってみせる岡崎。でもそういう態度を取られてしまうと俺の悪戯いたずら心はくすぐられてしまうもので、


「ふーん、んじゃ今日は来るよな? 怖くないんだもんな?」


 と彼女を煽って、来させるように誘導しようとしてしまう。


「うー、煉くんのいじわるぅ……」


 それに対して、岡崎は泣きそうな声で返事をしてくる。またその反応が俺の心をくすぐられてしょうがなかった。


「どっちなんだよ……」


「か弱い乙女をいじめるなんてサイテー!」


「どうすりゃいいんだよ……」


「でも、行くよ……」


 そんなツッコミが続いた後、ゴニョゴニョしながら岡崎が何かを口にする。『行く』というのまでは分かったが、最後の方は何言っているのか全然わからなかった。


「えっ、なんて?」


「行くよ! 肝……試しに……」


 行く決意はしたものの、その声が震えている。やっぱりまだ行くのにおびえているようだ。俺が誘導したからそうなったものの、


「いいけど、あんま無理するなよ?」


 一応心配だったので、そう付け加えておく。


「大丈夫だから! じゃあ、また学園でね!」


「おっ、おう……」


 てなわけで、岡崎の参加が決定した。というか、この電話はなんだったのだろうか。俺の出欠を聞いて、俺がからかっただけなのだが。まあ、岡崎の番号というプレゼントはあったけれど。


「あ、そうだ」


 それでふと思い出した。夜に出かけるのだから、当然ウチのおさの承諾が必要となるわけだ。親が海外にいていない今では、明日美がその役割をになっている。だから俺は今日の事を言いに行かなければ。どうせ黙っていったら怒られるのがオチだろうし。それに今回は学園が絡んでるから、なおのこと生徒会長の明日美の了承は必要だろう。そんなわけで、俺は朝飯食べるついでに下にいるであろう明日美の元へと向かった。

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