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Destino  作者: 一二三六
プロローグ
36/120

35話「岡崎と俺の幼馴染」

 なぎさたちの教室に向かうと、俺の読み通り人は大していなかった。なので、俺は安心して渚の教室へと入っていく。


「いらっしゃいませー」


 教室に入ると、ちょうど渚とみおが出迎えてくれた。服装はもちろんウェイトレス姿。渚はスタイルがいいから、かなり似合っている。もちろん澪の方も小柄なりに、可愛らしく仕上がっている。ただ澪がウェイトレス姿で接客しているのは意外だった。恥ずかしがり屋だし、大丈夫なのだろうか。


「よ、渚、澪」


れん、どうしたの? 女の子なんかと一緒に」


 渚は後ろの岡崎おかざきを見ながら、ちょっとニヤニヤして訊いてきた。


「あー、こいつは俺のクラスメイトの岡崎栞しおりだよ。理由わけあって一緒に回ってんの」


「ふーん、そうなんだ。初めまして、私、諫山いさやま渚。んで、こっちが妹の澪」


 渚はいつものように気さくに自己紹介をする。


「は、初めまして……」


 澪は相変わらずの恥ずかしそうに顔を赤らめて、軽くお辞儀をしていた。


「初めまして、渚さん、澪さん」


 岡崎は初めての相手に、特に緊張することなく、いつもの感じで対応する。結構、岡崎も社交的のようだ。


「さんづけじゃなくて、『渚』でいいよ」


「えっ、でも初対面の人に呼び捨てってちょっと……」


 岡崎は今まで一緒にいて、すげー謙虚な人だなと思う。あんまり自分の意思を示さないし。相手をちゃんと敬っている。


「んー、じゃあ好きにしていいよ。じゃあ案内するね」


 そういって渚と澪は席へと俺たちを案内してくれた。案内してくれたテーブルはいつもの勉強机を2つくっつけただけの、結構チープなそれだった。一応それを隠すためなのかは定かではないが、テーブルクロスをかけ、机の中心に花瓶が置いてあった。でもこれはこれで学園の行事っぽさが出てて、俺はいいとは思うけど。


「そういや、男どもは? なんか女子しかいないみたいだけど」


 教室内を見渡すと、接客しているのはウェイトレスの女子生徒ばかりで、では料理担当か、と思って厨房の方を見ても男子生徒は全くいなかった。


「あー、男子たちは買いだし要員よ。今何人かが行ってるはずよ」


 なるほど野郎共は雑用担当ってわけね。まあ実際、こういうお店なんて女の子の衣装を見に来てるみたいなところはあるし、男どもは需要なしだろう。3組ってパッとしたやついないし、みんなそういうの嫌がるだろうし。


「へーそっか。大変だねぇー」


「はい、どうぞ、メニューだよ」


 渚と会話しているうちに、澪は水とメニューをもってきれくれたようだ。メニューには、クリパの出し物にしてはわりと種類が豊富であった。これもやはり料理ができる渚のクラスだからだろうか。出来る人が教えてあげれば、他の人たちも作れるようになるだろうし。


「んー……じゃあ、オムライスにしよっかな」


 俺は一通りメニューを見た後、無難に渚の得意なオムライスを頼むことにした。


「あっ、じゃあ私もそれで」


「かしこまり! じゃあ、ちょっと待っててね!」


 すると、渚は若干やる気を見せながら厨房へと向かった。


「煉くんって、確かお姉ちゃんのオムライス好きだったよね」


 澪は料理は不得意なので、ここに残るようだ。そしてそんな他愛もない話を投げかけてくる。


「んー、まあ、あいつの作る料理の中では好きなほうかな」


 渚は料理が得意で、その中でもオムライスは下手すりゃ明日美よりおいしい一品だ。何度かそれを食べさせてもらったことがあるが、俺の好みの味に近く、だから好きな方だ。


「でも、煉くんも自分で作れちゃうもんね」


「いや、渚が作ったほうが断然うまいと思うよ」


「へぇー、秋山くん、料理できるんだ」


 俺と澪の会話を聞いていた岡崎が、横からそんなことを言ってくる。


「まぁ、人並みには、ね」


「煉くんの作る料理はすごく美味しいんですよ」


 澪は俺がそう言ってるのにも関わらず、ハードルを上げてくる。ただ明日美直伝だ、というだけなのに、そんな褒められてもこっちが困る。


「へぇー、食べてみたいなー」


「や、たいしたことないから、ホントに、渚の方が全然うまいし」


 そんな期待する眼差しに思わず俺は照れてしまう。普段から褒め慣れていないから余計に。なのでそれから俺は話題を別の方向にズラし、雑談に花を咲かせて、渚が作るのを待っていた。


「――はい、おまちどうさま。オムライスよ、召し上がれ」


 それからそう時間が経たないうちに、渚は2人分を作り上げ、それをお盆に乗せてもってきた。俺はお決まりの挨拶をして、早速そのオムライスを食べ始める。一口食べて、その思い出と同じ味に安心し、満足する。やっぱり渚の作る料理はおいしい。普段食べ慣れている明日美と比較しても、甲乙つけがたい程のクオリティ。中には渚の料理目当ての人もいるんじゃなかろうか。アイツ、ファンクラブも持ってるし。そんなことを思いながらふと岡崎の方へと目をやると、どうやら岡崎もそれを気に入ってくれたようで、おいしそうに食べていた。やはり自分の好きなものを、紹介した相手も気に入ってくれると、嬉しい気持ちになる。


「――ありがと、うまかったよ」


 それからそう時間が経たないうちに平らげてしまい、満腹感に浸りながら席を立つ。そして入り口付近で支払いを済ませ、諫山姉妹に見送られて教室を後にする時、俺は渚にそうお礼をする。味は言わずもがなだし、それにボリュームもあって腹も満たされた。


「それはどうも」


 渚も渚で、わざとらしくお辞儀をしてそんな返答する。だがその顔はちょっと照れているようにも見えた。


「あっ、そうだ渚、カムカム」


 その照れ顔で、ふとあることを思い出し、渚を手招きする。


「ん?」


 渚は不思議そうな顔をしながら、その指示に従い、顔を近づけてくる。


「ウェイトレス姿、ちょー似合ってんぞ」


 なんてボソッとウィスパーボイスで本音混じりの冗談を耳打ちして、からかってみる。実際、マジでかわいい。たぶん、これ目当てで来ている渚のファンも、この中にはいることだろう。それほどに似合っていた。でもそれを普通に伝えてしまうと、ガチっぽくなって恥ずかしいから、それを冗談っぽく伝えてみた。


「なっ……うるさい!」


 それに速攻で顔を真っ赤にして、思いっきり俺の足にローキックをかます渚。


「いったっ! 褒めてんのにそれはねーだろ!?」


 冗談じゃないくらいにマジで痛かった。確実に褒めた人間にする行為じゃない。照れ隠しなのはわかるけど、ちょっとは加減してくれ。


「うるさい! さっさと帰れ、バカ!」


 マジで澪みたいに、お盆で顔を隠して恥ずかしがってる渚。やっぱ双子の姉妹だと思いながら、渚に追いやられる形で教室を後にする。俺の期待通りの反応をしてくれたし、満足満足。さて、次はどこうへ行こうか。そんなことを考えながら、俺は廊下を歩き始めていた。

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