表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Destino  作者: 一二三六
プロローグ
31/120

30話「お仕事……?」

 生徒会室に着くと、つくし先輩が先に部屋の外で立っていた。どうやら、待たせてしまったようだ。


「すいません、待ちました?」


「ううん、全然。じゃあいっこか」


「でも、何するですか?」


「見回りだよ。ま、殆ど、クリパを回るのと一緒だよ」


「へぇー、そんなんでいいんだー」


 正直、それを聞いて腹ごしらえした自分を後悔していた。そんなことなら、食わなきゃよかったな。


「うん、じゃあ今度こそいこっか」


 そういって俺たちは『階段で』下の階へと向かう。つくし先輩はクリパのパンフレットを見ながら、どこに行くかを決めているらしい。たぶん、普通なら問題が起きやすい所から行くのだろう。


「あっ、ねぇ、まずここいこうよ、これおいしそー!!」


 つくし先輩は俺にそのパンフレットを見せて、その部分指をさして言った。


「えっ? ちょっと仕事は?」


 待っていた言葉とは違うのが来て、思わず戸惑ってしまう。その発言は、明らかに生徒会の見回りする人間のそれじゃない。確実にそこいらにいる一般生徒のそれで、完全に遊ぶ気満々だ。


「大丈夫だよー、たぶん明日美や凛が全部解決しちゃうし。多分私は力不足だし」


「そんなことはないと思いますけど……」


「でも、いいの、行こうよーここ、すっごくおいしそーだよ!!」


「じゃっ、じゃあ行きましょうか……」


 なんとなくつくし先輩が俺を手伝わせた理由がわかった。これは実質的に『一緒にクリパ回ろうよ』と言っているのだ。しかもあの『俺への罰』という権限を使えば、誰にも邪魔されずにその目的が果たせる。意外にもつくし先輩は策士であった。そんなことを考えつつ、俺はつくし先輩に勢いに押されてつくし先輩がいう店へ行くことにした。それは校門から学校までの道に並ぶクレープ屋さんだった。結構遠いなと思いながらも、階段を下りていく。


「――煉くんは何にするの?」


 クレープ屋に着いてすぐに、先輩はそんなことを訊いてきた。


「んー、無難にバナナクレープっすかね」


 俺はそれに、メニューを見ながら無難なものを選ぶ。こういう一番普通なものが安定だろう。


「じゃ、私はいちごクレープで」


 それからその店員に扮した生徒は早速クレープの生地を作り始める。生地をおたまで取り、プレートに流していく。そして、専用の棒でまるでプロのようにうまいこと円を描く。それからちょっと焼いたらひっくり返して、反対側を焼く。時間になったら後は具を乗せて、クリームをかけて巻くだけ。


「はい、どうぞー!」


 そう時間がかからないうちに、手際よく2人分ができた。俺たちは代金を払い、そのクレープを受け取って、どこか適当なベンチに座りそれを食べることに。


「――うわーっ! おいしいー!」


 まずつくし先輩がそのクレープを一口食べると、すぐに幸せそうな表情をしてそれを褒めちぎる。それにつられ、俺も自分のクレープを食べてみる。すると、その先輩の反応もうなずけるほど、それはとてもおいしかった。生地は柔らかく、口当たりがとても良い。普通に店で出してもおかしくないレベルのそれだった。


「バナナクレープもおいしいっすよ!」 


「いいなぁー……あっ」


 俺がバナナクレープのおいしさを伝えると、先輩は羨ましそうに俺のクレープを見ながら何かを思いついたようで、目をつぶって口を大きく開ける。これはまさか――


「え、先輩……?」


 その先輩の意外にも大胆な行動に、俺は当然戸惑ってしまう。そもそもそういうのは凛先輩の領分だし、ここは人目もあるから恥ずかしい。


「あーん」


 つくし先輩は意地でしてもらいたいようで、口を開けたままそんなセリフを言いながらこちらへと寄ってくる。この状況に耐えられず、仕方なく俺は自分のクレープをつくし先輩の口へと持っていく。


「んんー! こっちもおいしいねぇー!」


 とてもおいしそうな顔をして、それを食べている先輩。その表情に、恥ずかしさが感じられないことに、違和感があった。


「そ、それはよかった」


 俺の方は完全に恥ずかしく、ちょっと照れ気味でそう答える。


「あっ……これって……」


 やはり先輩はこの行為の重大さに気づいていなかったようだ。急に頬を赤らめて、恥ずかしそうにして口を手で抑えている。


「先輩、それは言わないでおきましょう……」


 それに、先輩は小さく頷く。関節キスなんて、思っても口にはできない。たぶん言ったらつくし先輩とこれからもっと気まずくなる。


「つ、次行きましょっか!」


 とりあえずこの気まずい空気を打破するために、俺はそんな提案をしてみる。


「そ、そうだね! いこいこ!」


 ムリにでもテンション上げてさっきのことを忘れようとする2人であった。俺たちはそんなノリで、とりあえず校内へと戻ることにした。



「――あっ、先輩とちょっといいっすか」


 それから目的地もなくブラブラと歩いてる時のこと。先輩がパンフを見ながら歩いているのを静止させ、俺は階段の踊り場の方向へと足を進める。ようやく俺の本来の目的を果たせる時が来たようだ。そこには女子生徒が男子2名に絡まている光景があった。確実にこれはナンパだろう。だが、面白いのがナンパされているのが本校の女子生徒で、しているのが付属の男子生徒ということだ。こいつらは自分の立場を分かっているのだろうか、と呆れながらも俺はその男子生徒を止めるべくどんどんと向かっていく。


「おい、お前らなにしてんだ」


 威嚇するような声で、ちょっと睨みをきかせ、そいつらに話しかける。ここでこいつらにナメられてはいけないし、下に見られたくない。


「あん? 何だっていいだろ」


 片方の気の強そうな男子生徒がガンを飛ばしながらそう言ってくる。だが付属生だからか、身長は俺よりも低く、チビが必死でいきがっているようにしか見えない。


「おい、こいつ、本校の人だぜマズイんじゃ?」


 もう1人の男子は、俺の制服姿で本校生だと気づき、怖気おじけづいているようだ。足が震えているようにもみえる。よくそんなんで本校生をナンパしようと思ったな。もっとも、気の強い男子に誘われて、断れなかったということもあるのだろうけど。


「大丈夫だって、そんなの」


 完全に慢心しきっている気の強そうなそいつは余裕ありげな顔をしていた。その表情が結構ムカつく顔で、法なんてものがなかったら、普通に殴ってるレベルだった。あとこのおごっている感じも、ムカついてくる。


「なぁ、この子困ってるみたいだけど?」


「困ってるわけねぇーだろ。これから俺たちと遊ぶんだからよ、なぁ?」


 そう言って、合図を送るが当の女子生徒はそっぽを向いて、ガン無視。


「はぁー……なあ、痛い目合わせたくないから、さっさと消えてもらえないか?」


 いくらこいつにムカついていようとも、立場がある。手を出してはいけない。こいつの後ろに誰がいるかは知らないが、これで面倒な事に巻き込まれるのは御免だし、つくし先輩もいるから、明日美あすみに知られる可能性がある。そうなったら、説教コース間違い無し。それだけは嫌なので、あくまでも話し合いで解決しようと試みる。


「ッチ、うっせーな、痛い目合うのはお前だよ!!」


 どうやらおバカさんなようで、そいつは軽く舌打ちをして俺に殴りかかってくる。俺はそれをうまいことかわして、すかさずその腕を手に取り、それをひねりながら背中に持っていく。そして足を引っ掛け、転ばせてヤツを地面に押さえつけてやる。


「あ、イテテテッ!」


 声を荒らげながら、哀れな姿をさらけ出す男子生徒。結局は自分の力を過信したただのアホだったわけだ。こういうのって付属生の中じゃ割りと強くて、思い上がってるやつなんだろうな。ホント、哀れなやつだ。身の程を知れ。


「おい、こいつあの秋山煉じゃ……」


 足を震わせていた男子が、どうやら俺のことに気づいたようだ。ただ『あの』って『どの』なのだろうか。付属生の中で俺は一体、どんなウワサが流れているのだろうか。まさか修二じゃないだろうな……ありえるかも。


「ッ!? ヤバイ、逃げるぞ!!」


 俺がそのウワサについて気になって、力を緩めたスキにいかつい方は抜け出し、ビビったのか、そそくさと逃げて行ってしまった。この反応では、俺の付属生での扱いがものすごく気になってしまう。俺はそんな恐れられるようなことをした覚えは一切ないのだが、誰が何を言ったんだろう。


「大丈夫? 困ってるみたいだったけど」


 男子生徒が見えなくなったところで、俺は絡まれていた女子生徒に話しかける。


「はい、大丈夫です! あ、あの、もしかしてあの秋山あきやまれんさんですか?」


 この子も『あの』という言葉を使っている。ただこの女子生徒は本校生。たぶんアイツらとは別件で俺を知っているのだろう。


「え、そうだけど……?」


「本当ですか!?  あのッ、あっ、ありがとうがざいました!」


 その女子生徒はちょっと恥ずかしそうに、だけど嬉しそうにしながら足早に去っていった。自分で言うのもおこがましいことこの上ないが、たぶんあの子は所謂いわゆる『ファンの子』なのだろう。反応からみるにそうだろう。ただいい意味でも悪い意味でも『秋山煉』という名前が有名になっているのはちょっといただけない。そんなことを思っていると、後ろから大きな、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「コラッー!! 誰だー騒ぎを起こしてるヤツはー!!」


 この騒ぎがりん先輩の耳に入ったのか、割りと近いところから凛先輩の叫び声がしてくるのだ。


「マズイ、凛先輩だ! 先輩、逃げますよ!」


「えっ!?」


 俺はつくし先輩の手を握り、全速力で逃げ始める。たぶん捕まったら確実にめんどいことになる。もちろん事情を話せばわかってくれるだろうけど、あの先輩のことだから事情を訊かずに自分の言いたいことだけ言ってくるだろう。やっぱりそれは避けたい。なので俺は人のいなそうな特別教室棟に向かい、適当な教室をみつけて、そこに入ってやり過ごすことにした。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ