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Destino  作者: 一二三六
プロローグ
29/120

28話「クリパ初日!」

 12月23日(木)


 本日、いよいよみんなが待ちに待ったクリパが始まる。とはいっても今日は終業式を兼ねた前夜祭のようなもので、本番は明日となる。でも祭ということに変わりにはなく、みんなテンションが上がっていることだろう。もちろんそれは俺にも言えることで、今日はいつもより早くに目が覚めてしまった。いつものように制服に着替え、リビングへと向かう。やはりリビングには相変わらず誰もおらず、食事と書置きと弁当だけがあった。書置きにはいつも通り、『先に行ってるね』と書いてあった。流石にクリパの当日だ、忙しいのだろう。終業式もあることだし。そんなことを考えながら、寂しく食事を済ませ、さっさと学校へと向かうことにした。


「――あっ、れんくん、おはよー!」


 いつもの並木道、やはり人がいた。だが、その人物が意外だった。


「おはようございます、つくし先輩。珍しいですね、1人なんて」


 つくし先輩ただ1人であったのだ。いつもならりん先輩と一緒なはずなのに、その姿は見えなかった。まさかどこかに隠れているのかと思い、辺りを見回してみたが、どうやら本当にどこにもいなさそうな感じだ。でも明日美あすみが早く出たということは、当然副会長のつくし先輩も早く行かなければならないはず。それが俺には疑問だった。


「うん、今日ホントはもっと早く行かなきゃいけなかったんだけど、忘れちゃっててー」


 そんな重大なことを、いつものまったりとしたスローペースで話す先輩。


「えっ、急がなくていいんですか?」


「大丈夫だよー凛が『急がなくてもいいよ』って言ってくれたから」


 なんか先輩のことだし、逆に急いだら危なそう。転んだり、何かにぶつかったり、なんかそんな風景が容易に想像できる。


「そうだったんですか」


「うん、それに煉くんと話したいことがあって、どうせだから待ってたんだぁー」


「話したいこと?」


「うん、だから一緒に行こうよぉー」


「ええ、いいですけど――」


 そう言って俺たちは学園へと歩き始める。なんか、こうしてつくし先輩と2人きりで登校するのは新鮮だ。もしかすると初めてかもしれない。それこそやっぱりいつもは凛先輩も明日美もいるから。なかなか2人きりになる機会、というものがないように思える。


「煉くんさ、昨日のことでおかしいと思ったことない?」


 そんなことを考えていると、ふと先輩が話しかけてくる。どうやら、昨日のことで話があったようだ。


「えっ? おかしいとこ? ………特には」


 そう言われて、昨日のことを思い返してみるが、特に思い当たる節はない。生徒会3人と俺、という4人でまあ絵面はおかしかったけど、そういうこと言いたいんじゃないんだろうし。それを除くと、もう後気にかかるところなんてなかったような。


「えー、ホント? この時期に生徒会が無かったこと変だと思わなかった?」


「ああ、それですか。それは別れた後、明日美が教えてくれたんで」


「あ、なんだ、そうだったんだーそう、私たちあの日サボっちゃったの。煉くんはもちろんその理由を知ってるよね?」


「ええ、明日美から聞きました」


「そっか、だったら休みに入ったら、家族サービスしっかりするんだよー?」


「えっ?」


「明日美は意外と寂しがり屋だからさ。煉くんに会えなくて寂しがってたんだよー? いっつもどこか抜けてる感じだったし、ため息も多かったし」


「へぇー、そうだったんすか」


 たしかに明日美は寂しがり屋なところがある。小さいころはよく2人で寝ていたし、登下校もずっと一緒だったし。特に、うちの両親が仕事の関係で家をあけることが多いからなんだろうな。共働きで、どっちもいないことも多くなっていったし。


「まぁ、生徒会長に就任して初めてかなり忙しくなったから、しょうがないんだけどさー」


「そうっすね、着任して初めての大仕事ですもんねー」


「そのせいで疲れもたまってるみたいだしねぇー」


「じゃあ、クリパ終わったら気晴らしに一緒にどっか行きますよ」


 慰安旅行、なんて大したものじゃないけど、なんか疲れを癒やしてあげられるようなプランでも考えてみようかな。それにそれ抜きにしても、日頃家事を全部任せっきりだし、たまには感謝の意味も込めてどこか連れてってあげなきゃね。


「おっ、それいいね!!」


「でしょー?」


 そう言って、俺とつくし先輩は笑い合っていた。


「あっ、そうだ煉くん。昨日の罰としてさぁー今日生徒会手伝ってよ!」


 つくし先輩は思い出したように、昨日のことをぶり返してくる。


「えぇー……? だって昨日散々やったじゃないですかぁー……」


 あれは俺にとって最高の罰、いやもはや『辱め』だったと思える。顔から火が出そうなくらい恥ずかしかったし、周りからのヘイトも溜まった。俺にデメリットばかり与える、いい罰だったけど。


「凛と腕組んで、明日美と手を繋いで、私はなんもやってないもん!」


 つくし先輩はどこか凛先輩や明日美に嫉妬しているかのようにそう言ってきた。


「うげっ、そうきたか……」


 そう言われてしまっては断りようがない。待たせたのは事実だし、その権利はつくし先輩にも平等にあるはずだ。しっかしまいったなぁー生徒会の手伝いって、今度は肉体的疲労が凄そうだ。


「もちろんだけど、拒否権はないからね」


 ホントに思うけど、生徒会の幹部って強引な人が多い気がする。それに理不尽。類は友を呼ぶってやつなんだろうか。


「はい、分かりましたよ……じゃあ、今日の午後に生徒会室行けばいいですか?」


「うん、じゃあ、それで」


「てか生徒会、そんなに忙しいんすか?」


 部外者の俺を手伝わせるレベルって相当な気がする。でも、確か生徒会って結構人いたような気が。主に生徒会の3人目当てで入った人とか多いから、人手不足ってことはないと思うけど。頼んだら喜んでやりそうなやつらばっかだろうし。


「ううん、当日は明日美や凛に置いてかれるだろうから、一緒に見回る人が欲しくて」


 なるほど、そういうことか。先輩は運動苦手だから、運動得意な凛先輩たちには置いてかれてしまうのか。1人じゃ、寂しいから俺にいてほしいと、そんな感じかな。でも俺から言わせてもらえば、ドジっ娘な先輩を1人するのは危険だと思う。悪い野郎に捕まりそうだし、1人でにトラブル起こしそうだし。これは手伝わざるを得ないな。


「まあ、しょうがないっすね……それは」


「うん、みんな速いんだもん」


 それから雑談しながら、生徒会玄関へと着いた。つくし先輩は生徒会室に用があるのか、ここでお別れとなった。だがそれからの先輩の行動に俺は目を疑った。なんと、あの生徒会副会長さんが『エレベーター』を使用して行ったのだ。もちろん暗黙の了解とは言え、パスワードを知っていれば使うことはできる。それに生徒会室は最上階、階段で上り降りするのはかなりの労力がいる。でも生徒の見本となる生徒会の人間が使用しているのは意外だった。それに明日美とかならば、絶対に使わないだろうからなおのこと。なんだろう、意外にもつくし先輩にも悪魔な部分はあるんだな、と思いながら俺は『階段』を使って教室へと向かった。

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