13話「振り回されデート」
商店街に着いて、俺たちはとりあえずウィンドウショッピングをすることとなった。凛《 りん》先輩はまるで恋人のように俺の腕に抱きついて歩いている。正直な話、これでは歩きづらいし、周りの人の目もあるから恥ずかしい。これをウチの学園の生徒に見られでもしたらたまったもんじゃない。絶対変なウワサが学園中を駆け巡って面倒なことになる。
「――あのー凛先輩? 歩きづらいんすけど……」
なので俺はいい加減にこれに追求してみることにした。
「えーいいじゃん別に。こっちのほうが恋人っぽくみえるよ?」
どうやらやめてくれる気はさらさらないようだ。唇を尖らせ、そんなとんでもないことを言ってくる。
「いや、それだとマズいでしょ……」
あなたはそれでいいかもしませんが、俺はそれではダメなんです。これが修二《 しゅうじ》にでもバレたら、速攻で拡散されるに決まってるんだから。そしたら周りの友達にも誤解されるし、あと誤った事実が真実とされるのは当人としてはムカつく。
「ああっー! これ、かわいいー!」
凛先輩はマイペース全開で、俺の言葉も聞かずに服屋の外に置いてある服を見つけるや否や、すぐにその店へ向かった。もちろん俺の腕を引っ張りながらなので、俺はそれにつられて思わず転けそうになっていた。
「うわー! かわいいなぁーほしいーなぁー?」
そう言いつつ、凛先輩はおねだりするような目で俺を見つめる。まるでおもちゃを買ってほしいとねだる子どものように。
「うわっ! 高っ!」
とりあえず値札を見てみると、驚愕の値段がそこにあった。一気に万札が何枚も飛ぶような、とても学生が買えるような値段ではなかった。表の商品でこれだけということは、中に入ったらどれだけ高いものがあるのだろうか。もう既に店に入る前の段階でビビってしまい、入ってみる気すらなくなる俺だった。
「買いませんよ、凛先輩」
こんな高いもの予算オーバーすぎる。昨日のこともあって、ただでさえお金を貯めておきたいのに、こんな高いもの買えるわけがない。
「ちぇー、ま、いいけどさ」
そんなことを言いながら、残念そうに凛先輩はその服を元の位置へと戻す。もしかして凛先輩はホントに俺が買ってくれるとでも思っていたのだろうか。俺は凛先輩の財布じゃないんだぞ。そんな疑いの目を凛先輩に向けながら、俺たちはウィンドウショッピングを続けることにした。
「――凛先輩、そろそろ腹減ってきたし、ファミレスでも行きましょうよ」
それからしばらく時間が過ぎ、気づけばもう昼前となっていた。腹もいい感じに減ってきているので、そう凛先輩に提案する。
「あっ、いいね!じゃあいこ!」
相変わらず腕を組みながら俺たちは近くのファミレスへと入った。入ってもなお腕を組むのをやめないので、店員さんは確実に俺たちをカップルだと思われていることだろう。それはさておきその店員さんに案内されるがまま席へと着いた。こういう時は隣に座ってくるかと思ったが、凛先輩は意外にも対面で座ってきた。そして俺たちはメニューでも見ながら注文するものを決め、店員さんに注文する。よっぽど凛先輩はデート感を出したいのか、俺と同じものを注文した。それが格段この店限定の珍しいメニューでもないのにだ。別に俺は気にしないけれど、凛先輩がよほどこのデートが楽しんでいることは伝わってきた。
「―――少々お待ちくださいませ」
俺たちの注文を聞き終えると、店員さんはそう言って軽くお辞儀をし、キッチンの方へと向かっていった。
「これからどうするんですか? もう行くとこないと思うんですけど……」
店員さんが席から離れていった後、俺はこれからの予定を訊いてみる。商店街なんて割りと高い頻度で行っているから、特に真新しいものもなくすぐに終わってしまう。もう今の時点でほぼ全てのお店を回ったと言っても過言ではないだろう。そしてココらへんにはもう『デート』なんてものにふさわしい施設はない。さあ、どうしたものか。
「また、ぶらぶら歩いて回るってのは?」
「えー……もうそろそろ限界だと」
露骨に嫌そうな声で、それを却下する。それに目的もなく歩くのも、正直あまり面白みを感じられない。
「んー……あっ、じゃあ、午後からは南のビル街のほうに行こうよ!」
考えるような仕草をして、そんなとんでもないことを言ってしまう凛先輩。
「は?」
あまりにも衝撃的な発言に、俺は思わず聞き返してしまう。
「だーかーらービル街に行こうよ!」
エンジェルスマイルで悪魔みたいなことを言う凛先輩。たぶんこの感じからすると凛先輩はマジで言っているようだ。
「え、まじっすか……」
もちろんビル街なら若者の娯楽施設があるのは間違いないが、その反面お金がかかることも間違いない。クリパが控えている今、出費は出来る限り抑えたい。それに、ここからそこへ行くには当然バスを利用しなければならない。距離的にも結構離れているので、時間もかかる。だからあんまりノリ気ではなかった。
「なんか煉くんノリ悪いなー……そんなんじゃモテないぞー?」
俺の反応に、不満そうにしながらそんなことを言う凛先輩。
「んー……分かりました。じゃあ、行きますよ」
しばらく考えて、俺はもう諦めることにした。もうどうにでもなれだ、なるようにしかならんだろう。それにそんなこと言われたら、男らしく行ってやろうじゃないか。凛先輩とのデートの時点で、出費がかさむのは予想できていたことだし。なんならこれを明日美のせいにして、お金でも取ろう。
「――ありがとうございました!!」
それから俺たちは注文した食べ物を平らげ、ファミレスを後にした。ここの代金は俺の頼みもあって、割り勘となった。凛先輩もそれを快く受けれいてくれ、『俺のおごり』なんて無茶ぶりとはならなかったのは幸いだった。もちろん凛先輩ならそんなことをしても、冗談で終わるとは思うが。それから近くのバス停へと向かい、そのままここから南の方にあるビル街へと向かった。