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Destino  作者: 一二三六
2.諫山渚
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63話「2人の思惑が交差する時」


1月17日(月)


 ただでさえ学生にとって憂鬱ゆううつな月曜日だと言うのにも関わらず、今日は朝から曇り空であった。厚い雲のせいか若干あたりも薄暗く、それだけで気が滅入って来てしまう。しかも予報では雪まで降るそうだ。そんな予報にさらに気が重くなる中、俺はいつものように朝の準備をして家を出る、もちろん傘を持って。そしてもはや見慣れた感じの諫山いさやま姉妹との3人の登校となった。だけれど今日はまたいつもの並びとも、最近の並びとも違う、諫山姉妹に俺が挟まれる形となっていた。そしてどういうわけか、一番外側を歩くみおが俺の方へと寄って歩いているので、それをぶつからないように避けようとするとどうしてもなぎさとの距離が縮まってしまう。おそらくこれは澪が『仕掛け』てきているのだろう。昨日の喫茶店での話、澪は俺と渚をくっつけようとしている。ただやり方が双子だから似通っているというか、もっと違う形はなかったのだろうか。たぶん渚も渚で思惑があるから、その2人の妥協点がこれなのだろうが、如何せん周りからの目が痛い。まるで俺が両手に女をはべらせているみたいになっていた。そんな気まずさを感じる、登校風景であった。そしてそれからさらに時が流れ、お昼。ここでも澪の策略が炸裂さくれつする。


「――あれ、澪は?」


 いつもの流れなら3人で食べる、もしくは澪と2人で食べるはずの昼食。だが今日に限っては澪の姿がなかった。いつも2人セットみたいなところがある諫山姉妹なのに、今は渚だけしかいないという珍しい状況になっている。


「お手洗いだって」


「ふーん、そっか」


 そんな渚の言葉を聞いて、俺は何か嫌な予感がしてきた。もうそれがここ最近で直感的にわかるようになってきた。だいたいこういうパターンはそんな感じがする。もちろん、それが確実にあっているとも言えないし、俺はとりあえず渚と適当に話でもしながら、澪の帰りを待ってみることにした。


「――なぁ……それにしては遅くねーか……?」


 だけれども一向に待っても、澪が帰ってくる気配はなかった。そうなると、もういよいよ俺の予測が確実性を帯びてくる。


「そうねぇー……」


 ただまさか待ってる相手を放って、俺たちが昼食を先に食べるわけにもいかないだろう。渚も同じ思いなようで、俺たちはそれからもお弁当を食べずに澪の帰りを待っていた。そんな折、俺と渚の携帯の着信音が同時に鳴る。それでもう俺にはだいたいその相手がわかっていたが、確認すると


『急用が出来たから、2人で食べて』


 という文章が澪から送られてきていた。ただ澪は渚のやったことを単に真似ているからなのか、はたまた偶然双子だから似てしまうのか定かではないがその手法にはやはり既視感があった。これで間違いなく、それは澪の策略だということを確信を持ってそう言えるようになった。これもその計画の1つなのだろう。


「だってさ。しょうがない、食べようぜ」


 まさか澪がそんな考えを持ち、行動に出ているとはつゆも知らないであろう渚に、俺はそう提案をした。もはや食べずに澪を待っている理由はない。このまま澪の思惑に乗るというのもちょっと癪だが、渚との2人きりの時間を過ごせると考えると、俺にとっても悪い話ではなかった。


「そ、そうね」


 そんなわけで俺たちは2人きりで昼食を食べ始めることとなった。それはいつもとなんら変わらない風景で、特にとりとめのないものだった。そして思うのだが、これではたして『くっつける』という作戦が果たせるのだろうか。渚の時もそうだけど、単にご飯を食べているだけでそんな期待するようなイベントなんてまるで起こらないと思うのだが。そんな疑念を抱きつつ、俺は自分の弁当を消化していく。


「――渚、米粒ついてんぞ」


 そんな弁当を食べている最中、渚がまるでいつかの澪みたいに米粒を自分の唇の横らへんにつけて気づかないでいるのがわかった。それに、俺は渚の米粒がついているところと同じところを自分の顔で指して、場所を教えてあげながらそう指摘する。


「えっ、どこどこ?」


 なのにも関わらず、動揺しているのかその正反対のところを触って焦りながら探している渚。その姿は悪く言えば滑稽こっけいで、良い言い方をすれば可愛らしかった。俺にそんな米粒が顔についている状況を見られて恥ずかしいのか、頬が徐々に赤く染まっていく。そんな姿も愛おしくてたまらなかった。


「こーこっ、落ち着いて食べろって」


 でもこのままじゃらちが明かなそうだったので、俺はそう言いながら取ってやることにした。そしてその取った米粒を捨てるのも何だかもったいないので、自分の口へと運んでいく。


「あっ……」


 そんな様子を見ていた渚が何か言いたそうな顔をするが、すぐに口をつぐんでしまう。


「ん、どした?」


 でも俺にはその仕草の意図するところがわからず、渚にそんなふうに質問をしてみる。


「ううん、なんでもない……」


 だけれど、渚は恥ずかしそうにしながらも俺の質問に答えることはなかった。結局、その質問の答えがわからず仕舞いで、なんか気持ち悪い感じだが本人が『なんでもない』と言うのだからしょうがない。


「そっか。でも子供じゃないんだからちゃんと気をつけて食べろよ?」


 なので俺はまるで親が子供にしつけるように、注意した。渚の普段の行いを見ていれば、今回のそれはたまたまだろうというのは容易に想像できたが、やっぱりそうやってご飯粒をつけたままにしているのは、はしたないだろう。


「う、うん……気をつける……」 


 そんな俺の説教じみた注意に、意外にも渚は小動物みたいに縮こまって可愛くなっていた。それは決して怒られてシュンとしているとかではなく、やはり恥ずかしさでそうなっているみたいだった。俺はその姿に、さっきまでの注意なんて忘れて素直にかわいいと思ってしまった。それは思わず頭を撫でたくなってしまうほどで、俺はそれを必至に理性という壁で抑えていた。なんというかそれにしても澪のおかげもあってか、やはり渚とのこんな些細な幸せな時間が増えることは俺にとって多大なるメリットとなっていた。これで誰の邪魔も入らずに、渚と一緒にいられるのだから。それに渚の策略は、澪の意思によって簡単に破綻はたんしてしまうのだ。だからいくら澪と俺を一緒にいさせようとも、澪が来ないのでは意味がない。そして逆に澪の策略によって俺は渚と一緒にいられる。ならば、俺は甘い蜜を吸うかのように、澪に甘えてしまってもいいのかもしれない。そうすれば、いずれ俺の『ほしいもの』が手に入るかもしれないのだから――


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