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運営さんに会おう

※2017.10.16 誤字を訂正しました。

 傍らの少女が両手で耳を塞いでいるのが見える。また、近くにいた他プレイヤーが何事かとこちらを伺っているのも見える。

 でもそんなこと知ったことか。

 捲し立てている最中に理性など彼方に飛んで行っていた。

 

「申し訳ありません。件のログアウトできない渡辺裕介様でいらっしゃいますか」

 

 運営のサイトウと名乗った男から確認された。

 

「そう言っているでしょう! 何度も聞き返さないでください!」

 

 一度、理性という蓋が外れた後は沸点が低くなってるのを実感している。ここまで感情的になったのは数年ぶりだ。


「この度は大変申し訳ありません。現在、原因究明を行っている最中――」

「一体いつ戻れるんですか!」

 

 サイトウの言葉を遮る。

 

「ですから、現在原因をですね」

「だから、いつになったらログアウトできるんですか!」


 堂々巡りとはこのことである。

 

「おじさん、落ち着いて」


 傍らの少女が声を掛けて来た。心なしかその言葉には怯えが混じっている気がする。

 そんな少女の姿を見て冷静さを取り戻す。

 すぅー、はぁーと深呼吸をしてサイトウと名乗る人物に提案する。


「このまま話しをしても堂々巡りになると思います。できればそちらの責任者がこのゲームにログインしていただいて直接説明をしてもらえませんか」


「……少々、お待ちください」


 運営内部で俺の提案について話し合っているのだろう。

 

 ――数分後。


「渡辺様 先ほどの件、承知いたしました。直ぐに私、サイトウがログインしまして直接説明をさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 俺も了承した。

 説明用の資料準備に時間が掛かるというので、直接会うのはきっかり1時間後ということになった。


「というわけで、運営の人と直接話しをすることになった」

「すごいわね、神様と直接会ってお話しできるなんて。ちょっぴり羨ましいわよ」

「――それはそうとすまなかったな。怖い思いをさせて」

「んーん、私も同じ立場だったら怒ると思うし、気にしないでよおじさん」


 合ってからものの十数分しか経っていないが、この少女が良い子であることを実感した。

 怖がらせた罪滅ぼしから、ちょっとした提案をしてみる。

 だがその提案を示す前に確認したいことがあった。


「ところで君の名前はなんていうんだ?」

「私? ビスケよ。ビスケ・フランケット」

「呼び捨てでも構わないか」

「いいわよ別に」


 俺はビスケに思いついた提案を提示してみることにした。


「なぁビスケ。俺、このゲームのことについて詳しく知らないし、できれば運営の人との会話を取り持ってくれないか」


 ビスケの表情がぱぁっと輝く。


「いいの? 私が神様と謁見してもいいの?」

「寧ろ、お願いしたいくらいだ」

「するする。取り持っちゃう」


 ビスケは心底嬉しそうだった。

 その姿を見て俺も嬉しくなった。

 

「神様に合えるなんてなんて光栄なの。私、この日を記念日にしてもいい」

「いくらなんでもはしゃぎ過ぎだろ」

「そんなことないわよ。それこそお洒落しなくっちゃ」

「お洒落ねー」


 ビスケはフリルの付いたスカートの裾を持ち上げながら思案する。

 ボリボリ。俺は藪蚊に噛まれた背中を掻きながらビスケを眺めていた。すると


「お洒落っていうならおじさんだよ! 服ぐらい着なよ! いつまで下着姿でいる気?!」

「だって俺、服持ってないし」

 ボリボリと背中を掻きながら答える。


「仕方ないわね、私の家に来なさいよ。お父さんの服があるから貸してあげる」

「いいのか?」

「神様と会うのに下着姿なんて私が承知しないわよ!」


 俺はビスケに手を引かれ、ビスケの家へと向かうことになった。

 

「――ここがビスケの家か」

「そうよ」


 目の前にはレンガ造りの一軒家。まるで中世のヨーロッパを想像する。

 

「さぁ入って。今はお姉ちゃんもいないし、さっさと着替えて神様に会いに行くわよ」

「お、おう」

 

 俺は圧倒されながら、ビスケの家に入った。

 

 俺に差し出されたのは麻で編まれたごく普通の洋服一式だった。

 

「サイズはたぶん合うでしょう。お父さんもおじさんと同じような体形だったし」


 着てみるとサイズはぴったりだった。まるで元から自分の洋服であったかのようにサイズがフィットする。

 

「よかった。サイズは合ったようね」

「ありがとうな。ビスケ」

「ふふん」

 

 ビスケは若干照れくさそうだった。

 何はともあれ、俺も一般人化したことだし、運営のサイトウとやらが来るまでのんびりさせてもらうとするか。

 

「それはそうと、親父さんたちは仕事中か?」


 俺は何気なくビスケに尋ねた。

 

 俺にお茶を淹れているビスケは悲し気な声でぽつりと漏らした。

 

「お父さんもお母さんも居ないわよ。私に居るのはお姉ちゃんだけだもん」

「居ないって」

「モンスターに殺されたのよ。この村に来る前にね」

「そっか、悪いことを聞いたな」

「気にしないでよ」

「それでお姉さんは?」

「今は酒場で働いてるよ」


 それ以降ビスケは無言になった。何となく俺も無言でお茶を啜る。ビスケの入れてくれた紅茶はとても美味だった。

 まるで現実世界のように温かさを感じているとどこかホッとしている自分に気が付いた。

 

 ――壁掛け時計を見ると、もうそろそろサイトウと会う時刻になっていた。

「さてと、サイトウというおっさんに会いに行くとするか」

「違うでしょおじさん。相手は神様なんだから礼儀正しくしてよ」

「いやいや、俺はプレイヤー()だし、どちらかというと俺の方が神様だぞ」

「何よそれ」


 俺とビスケは笑いながら家を後にした。

 サイトウに指定されたのは村の郊外。

 なるべく他ユーザーの人目に付きたくないという思惑だろうと推測する。

 

 俺とビスケが会話を楽しみながら指定された場所に向かうと人影が見えた。

 

「あれがサイトウとかいうおっさんか」


 俺はボイスチャットからサイトウは俺と同い年、あるいは俺よりも年上のおっさんだと踏んでいた。

 

「あれが神様……」


 横にいるビスケは恍惚の表情で暗闇に見える人影を見ていた。

 

「あなたがサイトウさんですか?」

 

 俺は人影に向かって声を掛けた。

 

「はい。私が運営チーム統括のサイトウです」

「?」


 聞こえてくる声が妙に甲高い。

 

 サイトウと名乗る第2のおっさんが村の明かりの前へと姿を現した。

 

「?!」


 俺とビスケは同時に固まった。


 俺たちの前に現れたサイトウと名乗るおっさんはフリフリの紫と白の衣装に身を包んだ、所謂、魔法少女の恰好をしていた。

 手には猫の手を模ったスティックに挙句の果てには猫耳と尻尾まで生えているというオプション付き。

 その恰好は語尾に「にゃん」と付くことが容易に想像できるいで立ちだった。

 

 隣にいるビスケが放心していた。その口からは

 

「あれが、あんなのが神様だなんて……。嘘よ、嘘……」


 そう、運営チーム統括のサイトウはネカマだった。

プロットも無く書き始めたので色々迷走しそうです。

それでも応援していただけると幸いです。

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