霊帝VS管理神+魔王~お気楽珍道中の始まり~
メラニーが実力の1%も出していない事を知った魔王。
色々と端折ってこの世界を丸ごと消せば魔神もいなくなってはい、終わり!と提案するも魔王ルーシはアトラと一緒にメラニーを倒そうとするが失敗。
メラニーはこの世界を消してしまうのか?
メラニーの不敵な笑みを見た魔王の少女ルーシは背筋が凍りついた。
先ほどの戦いで本気の力だったと思っていた相手がまだ力を出し切っていない事。
しかも1%の力も出していない。
「あ、あのルーちゃん?
メラニー様は、私達、神の世界では霊帝様と言って、全ての神様の中で一番偉い存在なの」
「はぁぁぁぁぁっ!?」
メラニーの正体をアトラから聞いて思わず声が上がる。
「言っとくが、聖帝、天帝でも権威は霊帝と同じだからな。 三神帝の中でまともに仕事してるのが俺だから、偉いだけだ」
元の口調に戻ったメラニーがそう言って、歩き出しアトラの玉座に迫る。
それを見たアトラは座っていた玉座を素直にメラニーに明け渡し、メラニーが足を組んで座る。
「さて、ルーシ・フェル・フォールエンジェと言ったな?」
先程とは違う声音で喋る彼女に、ルーシは畏怖し、跪いた。
「霊帝である俺に不意を突いての攻撃、その後の戦いの運び方、実に見事だった。
並みの神ならば、負けていただろうな」
メラニーの言葉を聞きながら、ルーシは額の汗が止まらずにいた。
彼女は実感したのだ。
今、目の前にいるメラニーはアトラとは格が違い過ぎる程の神だという事と同時に本能的に勝てないというのがわかる。いや、わかってしまったのだ。
そして、彼女は思う。
(神に刃を向け、遠慮なく魔法をぶっ放し、タメ口で会話をし、身体を侮蔑した我に命はあるだろうか・・・・・・)
不敬罪は死罪・・・・・・魔王であるルーシはそれも知っている。
「さすがは魔王を名乗るだけの力はあると言った所か、俺のリミッターが壊れていなければ、俺とて危うかった所だ。
どうした? 先程からずっと黙っているが、調子が悪いのか?」
「れ、霊帝様・・・・・・ルーちゃん、失神しそうになってますよ?」
言葉を連ねるメラニーにアトラが言った。
「え?」
「ルーちゃん、霊帝様の圧倒的威圧感でビビりまくりで、もうライフポイントが0になりそうなんです。 私は慣れてますから大丈夫ですけど」
横で聞いていたアトラがそう言った。
「え、えーっと・・・・・・アトラ、この場合、お前に任せていいか?」
「威圧感出しまくって相手のライフポイントを0にしたフォローを私に押し付ける気ですか?」
「質問を質問で返すなよ。
悪かったよ・・・・・・俺に不意打ちしてくる奴なんて、そうはいないからな」
はしゃぎ過ぎたと呟くメラニーだが、ルーシはまだ固まったままである。
「やれやれ、困ったな・・・・・・威圧感を少し出しただけでこれとは・・・・・・なぁ、アトラ、この世界って本当に要る? 消していい? と言うか、その方が魔神討伐とかしなくて楽なんだけど?」
その言葉を聞いた瞬間、我に戻ったルーシが口を開いた。
「お、お待ちください!
霊帝様にとってこの世界は数多ある世界の一つで、似たような世界の一つかもしれませんが、我、いや、私にとって、この世界はかけがえのない世界でございます故、そのご決断は早々かと思います」
先程とは打って変わり、かなり丁寧な口調になるルーシ。
「聞きづらいから、普通に喋ってくれ。
ほれ、もう威圧感なんか出してないから。 な?」
メラニーはそう言って笑みを浮かべながら、アトラと一緒に彼女の話の続きを聞く。
「元々、この世界は現状のような魔族が人を襲うという事はなかった。
ちょっとした戦争があったとしてもそれは人と人、国と国の戦争でした」
ルーシの長い話を要約する。
魔族は人とは違い、同族で争うことはなく、平和に暮らしていた。
人も魔族とは争う事はなく、人の国同士での争いだけで終わっていたが、魔神が出現してから、魔族は人を襲うようになった事。
魔人を崇める魔族、人を含む他種族が出現し、大地が荒廃していき、ルーシの城がある地域もいつしか暗雲と雷雲が立ち込めるようになった事。
今は国家間での争いはなく、魔神の対処を全種族をもってあたるという事が決まり、その準備中との事だった。
「それで?
世界を消せば、魔神も消えるから問題はないだろう?」
メラニーは上に立つ者としての意見を言った。
「魔神をこのままにすれば、この世界どころか、他の世界全部にどんな影響がでるかわからない。いや、もう出てるかもしれない、俺は世界一つの事より、世界全部の事を考えて言っている」
メラニーの言葉を簡単に表すなら、蚊を絶滅させる事で世界の平和が保てるなら安いものだという極端な考えであった。
「霊帝様、さすがにそれは・・・・・・」
「この世界をこの状況にまでしたお前にも問題があるから、お前も一緒に消えてもらうぞ」
アトラが具申をするも、メラニーは管理を怠った罪としてアトラと一緒にこの世界を消す事を躊躇なく言い放った。
「う・・・・・・だけどそれは、何度も中間報告書で・・・・・・」
「その中間報告書の記載の仕方に問題があったわけだ。
俺が何億、何千億と言う書類の中から、緊急性が強い案件だけを見ているだけだと思ったか?
些末な事でも覚えているし、アトラがそこの魔王と茶飲み友達になったなんて報告書もちゃんと見ているぞ?
確か、第12436579次中間報告書では魔王と一緒に買い物にも行ってたな?」
「そ、そんな事まで覚えてるんですか!?」
「当たり前だ。
俺が霊帝になってから管理神クラスの報告書は俺が直接、目を通す事になったし、ある程度の越権行為は黙認していたはずだが?」
メラニーが霊帝になってから、管理神の謁見行為、今回みたいな事態の対処に、異世界からの人間の召喚や、戦神達の無申請での出撃要請などは黙認していた。
「それでも・・・・・・我はこの世界を守りたい・・・・・・この世界に生きる者の長の一人として」
ルーシがそう言って立ち上がり、メラニーを睨みつける。
「私もそうです。
この世界を管理する神として、私は守ります! 例えそれが、霊帝様の意向に歯向かう事だったとしてもです!」
アトラもそう言って、ルーシの横に並び、メラニーを睨んでいた。
「そうか・・・・・・ならば裁定を下すしかあるまい・・・・・・」
にやりと笑いながらそう言ったメラニーに対し二人は身構える。
「慈悲もないとは、さすがは駄乳神の上司じゃ、まともな思考をしとらんな」
「ルーちゃん、私、結構まともな方だよ? 管理神としては」
二人はそう言って立っていた場所から消える同時に、メラニーの両脇から挟み込むような形で拳を振るう。
バキィーンッ!
玉座が砕ける音が響くが、そこに彼女はいなかった。
「お前ら落ち着け!」
メラニーは先程まで二人がいた場所に立っていた。
「次は仕留めるぞっ!」
「ルーちゃんっ!」
二人が一緒に動くと同時に彼女もまた動いた。
『っ!?』
「あぁ、もうっ! ほんとに消すぞ!」
アトラとルーシの額にメラニーの人差し指が付いていた。
((うごけない・・・・・・))
額に指が触れていただけなのに、トランクスの剣を人差し指で受け止めた悟空の如く二人は動けずにいた。
圧倒的な力の差。
これが管理神と霊帝と呼ばれる神の決定的な力の差である。
「いいか、よく聞け。
やろうと思ったら、アトラに呼ばれて、事情説明を受けた時点でこの世界を消しているんだよ」
言われてみればそうだ。という顔をするアトラ。
「あと、人の話は最後まで聞けと教わらなかったのか?」
今すぐ消すとも言ってないが、あの状況では、その言葉が出てもおかしくない状況だった。
「ルーシ、さっきと違い、ちゃんと動けるようになっただろう?」
先程の威圧感で動けない時とは違い、ちゃんと動けるようになっていると気づくルーシ。
「俺の威圧感に慣れたからじゃない、少しだけお前の感覚を引き上げたんだ」
先程よりも畏怖の念を感じなかったと気づくルーシ。
「アトラ、ルーシ、霊帝として裁定を下す。
お前ら二人とも、俺と一緒に魔神討伐に来てもらう! 以上っ!」
それが霊帝、メラニーが下した決断であった。
それを聞いた二人はと言うと・・・・・・
『はあぁぁぁぁっ!?』
霊帝、メラニーの裁定が下り、再び地上に降り立った。
「やっと戻ってこれた・・・・・・」
溜息交じりに呟くメラニー。
「な、なんで私まで・・・・・・」
泣きそうな顔のアトラ。
「こん感じでいいかのぉ・・・・・・」
正体が魔王とばれない様に人と魔族のハーフぽく変装しているルーシ。
彼女達が降り立った場所は、メラニーが盗賊達を倒した場所から3日ほど歩いた所にある村だった。
「誰かのせいでかなりの時間を食ったな」
村の中を歩きながら呟くメラニー。
「誰のせいですか? 誰の?」
ぷくーっと頬を膨らませて言うアトラ。
「我のせいではないのは確かじゃ」
『ルー(ちゃん)も一枚噛んでるよ!』
ルーシの言葉に、突っ込みを入れる。
「気の持ちようじゃ! これから魔神討伐にいくんじゃろ?
些細なことはなしじゃ!」
無い胸を張るルーシにがっくりと頭を下げたまま溜息をつく二人。
そしてメラニーは思う。
(これ、俺一人の方が楽だったかも知れない・・・・・・)
読んでくれてありがとうございます。
徐々に更新していきます。
続きが気になる方は評価、ブクマ、レビューなどしていただけると作者のモチベが上がります・・・・・・多分w