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余談 敗北の魔王のめでたくない話



 それは突然の出来事だった。


 いままで順調に人間どもを追い詰めていたはずなのに、いつの間にか境界線上の森は奪われ、配下は次々と殺されていった。


 それは何故か、私は直ぐに部下に命じて探らせた。


 すると、そこにいるたった一人の人間が、その全てをやってのけたのだという。

 何を馬鹿な事を……。私はにわかには信じられなかった。


 だから部下の中でも特に信頼の厚い、牛魔人と触手魔人を送り込み、その様子を遠くから伺った。

 するとどうだ。その人間はあっさりとこの二人を打ち倒した。

 だが、そこまではまあいい。いや、良くはないが強いものに弱いものが倒されるのは自然の摂理。これも私の采配ミスが起こした失態というだけだ。

 しかし、この人間はあろうことか、その二名を食いだしたのだ!

 あのおぞましい光景を、私は今でも鮮明に覚えている。

 化け物。そう私は確信した。


 そんな化け物に直接挑むのは危険だと、魔族幹部達との会合で決まった。

 しかし、それではどうやって倒すのかという話の段階で、一人が暗くなった場を和ませるためにこんな事を言いだした。



「あれだけ食欲旺盛なら、毒を仕込んだ食材を家の前に置いておけば食うのでは?」

「「「「「「HAHAHAHA!!」」」」」」



 そのジョークは見事受けて、皆明るい表情に戻った。

 私もしょうがない奴めと一度は笑いもしたが、取れる手は何でもやってみようと考え直し、その案をダメもとでやってみることにした。


 するとあんな怪しい食材を、アイツは臆することなく口に放りこんだ。

 馬鹿め! あれには劇薬が塗りこんであるのだ! さあ、血反吐を吐いて死ぬがいい!

 しかし、ソイツは一瞬顔をしかめただけで、平気な顔をして全部平らげた。

 なんて奴だ。まさかあの毒に耐性を持っていたとはな。そんなものを最初に渡してしまうなんて、我々も運が悪い。

 けれど、何でも食うのが解ったのは幸いだ。

 我ら魔族領には、ありとあらゆる毒が何千種とあるのだ。

 それを食べさせ続ければ、耐性の無い毒にも当たる事だろうさ。

 ふふふふ、はははははっ!


 そうして、我々とアイツの持久戦が始まった。

 品を変え毒を変え、何度か試してみるもすべて空振りに終わっていた。

 そんなある日、あろうことか茶が欲しいなどと注文を付けてきた。

 な、なんて厚かましい奴なんだ……。

 だがよかろう、液体もいけるとなると、さらに毒の幅も広がるというものだ。

 となれば、私でも死んでしまうアレを茶葉に仕込んでみるか。

 くくくくっ、欲を出したことを後悔させてやる。


 だが我々の期待をよそに、奴は相変わらずピンピンしていた。

 それどころか、注文の内容が日を追うごとにドンドン厚かましくなっていく。

 なあにが、不死鳥の肉が食ってみたいだ! てめえもう不死じゃねえか! 死なねえじゃん! もうただの鶏肉でも食ってろよ!

 そうして不死鳥の肉を装った鶏肉を、これが不死鳥か~などと食った時には笑ってやった。

 ぶはははっ、それはただの鶏肉だ! ばーかばーか!

 そうして何とか心の均衡を保っていたが、それも限界だった。



「魔王様! こんなことをいつまで続けるおつもりですか! これでは只の食料配達です!」

「わかっている!」



 食材調達に、あちこち行かされた部下たちの不満が募っていく。

 もう、限界か……。

 そうして、私はこの手で直接引導を渡す決意をした。

 だが念の為に今日できたての、最高傑作の毒を仕込んだ牛肉をプレゼントしてみよう。それで死んだら御の字、死なずとも弱ってくれるやもしれんしな。


 私は皆の期待を背負って、奴のアジトに踏み込んだ。

 できるだけ舐められない様に振舞ったのだが、奴は嬉しそうに私を家の中に招き入れた。なんなのだ、こやつは?

 だが妙に優しげに接してくるし、もしかしてこいつとは仲良くやっていけるのではと思い始めていた。

 だが、そんなときにコイツはお茶を入れてやると言いだした。

 その言葉を聞いた私は、背筋が凍った。

 なぜなら、こいつに渡したお茶の中で一種類だけ、私でさえ死に至らせる毒が有るのだ。

 その瞬間、私の中でもっとも不吉な考えが過った。

 もしかして、全てコイツの計算だったのではないかと。

 今まで引っかかったふりをして、どうやってか毒を無効化して、我々を手の平の上で転がしていたのではないだろうか?

 そんな中に、ノコノコと私が来てしまったのだとしたら……。

 ………か、考え過ぎだな。こんなアホ面にそんなことができる訳がない。

 だがもしあのお茶が出てきたのなら、私も腹をくくろう。


 そうして待っていると、ようやくアイツは茶を持ってそれを私の前に置いた。

 ───!? これはまさしくあの茶葉を使ったもの。

 ……やはり我々は踊らされていたようだな。よくもよくもよくも!

 私の中で、今まで堪えていた怒りが吹きだした。



「やはり、これが何か知っていたんだな!」



 私は戦闘形態に移行して、巨大化していく。そして、奴を踏み潰そうと家ごと破壊する。しかし、奴はすでに家の外にいた。

 ちっ、すばしっこい奴め!

 それから私に一発食らわせてくるが、その跳躍は大したものだが、今の私を倒せるほどの拳は持っていないようだった。

 ならと、私はさらに猛攻撃を仕掛けて奴を殲滅せんとする。

 しかし、どれもノラリクラリと躱されてしまった。

 その結果にほぞを噛んでいると、奴は何を思ったかその辺に生えている木を引っこ抜いた。

 大方それで私を倒すつもりだろうが、無駄なこ…と……──なんだあれは!?

 私の特殊な目で注視すると、何が起こっているのかはっきりと見えた。

 奴の体から沸き起こった聖なる力が、木にドンドン吸収されていき、魔族が最も苦手とする力が宿った木が出来上がる。


 まずいっ、あんな膨大な聖なる力を食らったら私でもっ──

 私は、直ぐに逃げ出そうとした。

 しかしそれより早く、奴の振り上げた木が私の脳天に打ち付けられたのだった。






 そうして魔王は、世界を手に入れることなくお亡くなりになりましたとさ。

 めでたくない、めでたくない。


 追記:毒入り牛肉は勇者がおいしく頂きました。

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