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第一部 とある日の新聞記事より

 皆は王都中央に置かれている銅像が誰のものか、勿論知っている事だろう。

 そう、トルーガ・ヒスマリオンその人である。


 彼は百年も前の人物だが、今でも語り継がれ知らない者はいない。

 では、それはなぜか。それは、彼が大英雄だからに他ならない。


 現代でも当社の記事で毎年執り行われるランキングでは、

 子供につけたい名前ランキング一位。

 会ってみたい有名人ランキング一位。

 夫にしたい人ランキング一位。

 など、他にもいくつものランキングに名を連ねている。

 これだけでも、今の世の人々にも好かれているのが良く解るいい例だと言える。


 ではどういった経緯で、彼がそこまで皆に好かれたのか。

 今日は誰もが良く知る彼の物語を、改めてここで語りたいと思う。




 それは百年も昔のお話です。

 その時代には、百年経った今でも語り継がれる勇者がおりました。


 その勇者は生れた時から皆の期待を一身に受け、立派に成長していきます。


 成長した勇者はまず修行のために、氷の砂漠と恐れられ、人間は誰一人として近づきもしない、あのナウルグエ地方に足を踏み入れます。

 常人ならば一時間で死に至るとも呼ばれるその場所で、勇者はなんと一年もの歳月をそこで過ごしました。

 そこで行われた修行は壮絶なものであったのでしょう、勇者は痩せ衰えて人里に戻ってきました。


 そうして修行を終えた勇者は、今度はかつて魔族達が住まう大地と、人々が住まう大地とを分けていた森へと旅立ちます。

 そこにはガドラースと呼ばれる魔獣が、魔族領に攻め入ろうとする人族を次々と食べていく番狼として、何匹も放たれていました。

 しかし勇者は、それをものともせずに全て打ち倒すと、今度はそこに居を構え、逆に山を越えようとする魔物や魔族を次々と打ち倒していったのです。


 勿論人族はそんな勇者に加勢しようと、色々な国が軍隊を送りました。

 けれども皆、勇者に追い返されてしまいました。


 あまりに素気無すげなく追い返されたものですから、諸国の王は勇者に対して怒りを覚えました。

 しかし、時の賢者スフォル様にこう言われ、その怒りを納めたと言われています。



 「勇者は一般人を巻き込まないために、誰一人傷つけない様に、一人で人里離れた山奥に居を構え戦っておられるのです。それは我々を邪険にしているのではなく、何よりも深い優しさなのです」



 その言葉を聞いた王たちは涙を流し、遠い地で一人戦う勇者に謝罪と激励の籠ったふみを連名で送りました。


 そうして勇者は、誰にも助けを求めることなく魔族と戦い続けると、最後に魔王が現れました。

 魔王は卑劣にも人の姿に化けて勇者の前に現れますが、その慧眼をごまかすことはできませんでした。

 勇者に見破られた魔王は、真の姿を現し勇者と戦いました。

 そこでは熾烈な戦いが繰り広げられましたが、最後には勇者が聖なる棍棒で魔王を打ち破ったのです。


 こうして世界は救われ、彼は最強の勇者、救世主トルーガ、救世の大英雄などと呼ばれ、百年にも渡る月日を忘れ去られることなく、語り継がれるようになりましたとさ。めでたし、めでたし。




 地方によって多少の差異は出てしまうが、おおよそこのような物語である筈だ。

 皆知っていることを何を今更と、そう思う人物がこれを読んでいる者の中にはいる事だろう。

 されど何故、この物語をここで語ったのか、それは銅像の話に戻る。

 

 勇者没後、直ぐに建てられたのが冒頭で述べた銅像であるが、あれから百年。

 現国王はそれを祝い、彼の銅像を金像にし、さらに宝石の鎧を付けようという計画を打ち立てた。

 もちろんそれは国庫から、つまり我々の税から捻出されるという事だ。

 しかし、それを反対する者はこの国にはいないだろう。

 それは彼がこの国を、引いてはこの世界を救ってくれたからだ。

 彼がいなければ人自体が、今この世に存在していなかったと言っても過言では無いのだから。


 だからこそ、トルーガ・ヒスマリオンの素晴らしさをここに記し、その計画がいかに尊いことなのかを改めて皆で共有してほしく、ここに筆を執った次第である。


 そんな彼の金像は来年の六月に完成を予定されている。

 完成の暁には是非、今日の内容を思い出しながら、見物に行ってみるのもいいかもしれない。

 かくいう私も、家族みんなで見物に行く予定だ。


 文:トルーガ・トリアトリラ

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