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ドラグーンキャリアーズ  作者: そらふぃ
3/3

宇宙へ

「ふー、久しぶりの星は、やっぱりいいもんだな」


静止衛星軌道上にある宇宙港から、軌道エレベーターにのり、

約一日かけて惑星エアリムの大地に立ったわけだ。


ここ一週間ほどは宇宙港を点々とし、

貨物を運んでいたために、

まともに星の大地に立つことは少なかった。


なので、こうして大地に立ち、空気を吸うことがとても清々しい

しかし、いつまでもこうしている時間はなく、

翼を広げ、合同就活イベントのある

セントラルパークへ向けて飛び立つ。


空を飛べるのは、飛竜種の特権とも言え、

こうした移動の際に空を飛べるのは、本当に良かったと思える。


目的地まで一直線に向かえ、地上を行くよりずっと速いため、

今まで幾度となく助かった。


また、空を切り、空を飛ぶ心地は

他では絶対に味わえない。


そして、二時間ほど空の旅を楽しみ、

セントラルパークの正面玄関に着地する。


企業用の出入り口に回り、受付を通り、中に入る

既に、他の大手キャリアーズ企業は、

大きなブースを構えていた。


しかし、こちらは個人経営、

会場で貸してもらえる、机と椅子しか用意ができない。


「……流石に、これは悲惨だな」


独り言をポツリつぶやく。


その時、入口から大勢の就活者が入ってきた。


そして、まさに戦とも呼べる就活合戦が始まった。


大手は優秀な人材を引き抜こうと、

就活者は、大手に入ろうと、

それぞれが必死なのである。


また、その場で書類審査、簡易面接をして、

即時採用もありえるこの会の形式が、

さらに、それを加速させているのだろう。


ちなみにを言うと、俺はこの就活に失敗した。


開催日前日に飲み明かして、

当日に来れなかったという失態をしたからだ。


もっとも、成績はトップクラスだったので、

独立起業して、何とか今は食いつないでいる。


そんな風に、色々な思いを馳せつつ、

大手のブースを、遠目に眺める。


言わずとも、個人経営のブースなど、

就活者が来るわけが無い。


ここだけでなく、近くにある個人経営のブースも、

だいたいそのような感じであった。


「どうだい?今年の調子は」


近くのブースの竜人から、声をかけられる。


「まあ、例年通りだね、ぼちぼち待つしかないか」


のんきな答えを返す。


個人経営のブースは、

毎年ほとんど同じところが来るので、

しかも、キャリアーズ同士で会うこともあり、

けっこう知り合いが多かったりする。


それから、四時間ほど経つと、

就活者も、大方の就職先が決まったようで

会場内の人は少なくなっていった。


この時間帯に残っているのは、

経験から言うと、『売れ残り』

つまり、あまり優秀ではない者がほとんど、

しかも、それでも、諦められない者ばかりである。


こちらとしては優秀な人材が欲しいところだが

なかなかそうはいかない。


なので、ここに残っている中で

やる気のあるものを引き抜くのが一番だと、経験から言える。


そういう点から言うと、むしろ、

個人経営のキャリアーズは、ここからが勝負だ 。


しかし、なかなか個人に就職しようとするものは少なく、

例年誰も来ないというのが大体なのだが。


「あ! キョウスケ先輩!」


突然に声をかけられる。


顔を上げると、一人の竜人がそこに立っていた。


翼はあるが小さく、小柄な身体、

翼竜種の特徴が見受けられた。


そして、顔には見覚えがある。


「ん? まさか、コウヤ…… か?」


目の前の竜人は嬉しそうに笑う。


「覚えててくれたんですね!

先輩がブース構えてるって聞いたんで、

ずっと探してたんですよ!」


嬉しそうに、尻尾を揺らす。


コウヤとは、連合船科大学の時に知り合い、

一年だけだが面倒を見た後輩だ。


なかなか優秀で、個人起業するときに、

良かったら入らないかと誘っていたのだ。


まさか、本当に来てくれるとは夢にも思わなかったが。


「それで、ウチに入るつもり…… なのか?」


「もちろんです!」


間を空けず即答される。


しばらく頭が混乱気味だったが、

とりあえず席に着かせ、面接込みの書類審査をする。


即採用なのだが、一応するのが決まりなのだ。


「コウヤ サーズウェル、エアリム専科高校卒、連合船科大学卒

間違いないね、では、即時採用させていただいきます」


そう告げると、コウヤの顔に笑みが溢れる。


「ありがとうございます、一生懸命頑張ります、

よろしくおねがいします」


笑顔で頷き、握手を交わす。


「では、三時間後の午後七時に、

軌道エレベーターステーション前に来てください」


そう告げ、コウヤと別れる。


その後は、一人採用でき、イベントには用が無いので

ブースを片付け、自分も軌道エレベーターステーションに向かう。


やっと新入りが来て、しかも優秀、なおかつ知り合いともなれば、

今回は大物を釣り上げたと言える。


片付けで多少時間がかかったが、

午後七時までには、軌道エレベーターステーションに到着できた。


正面玄関で待っているとコウヤが荷物を抱え、走ってやってきた。


「遅くなってすみません、

全財産詰めてたら、少しかかりまして……」


荷物と言っても、キャリーケース二つ分しか持っていない。


多分、就職した時のために卒業すると直ぐに荷物を整理し、

必要最低限にしておいたのだろうと予想がつく。


「七時少し前だし、大丈夫だ、

しかし、荷物……ほんとにそれで全部なのか?」


「はい、直ぐにでも上にあがれるようにと思いまして」


少し汗の滲んだ額を拭い、キャリーケースを置く。


最寄駅が少し遠いので、走ってくれば仕方のないことだろう。


コウヤが息を整えるのを待ち、それから話を始める。


「じゃあ、すぐにでも、と言いたいところなんだが、

とりあえずは、静止軌道ステーションで、物資を揃えてからになる

俺はすぐに上がるが、コウヤは明日に上がってきてもいいぞ?

どうする?」


一応問いかける 。


「いえ、僕も今上がります、荷物はこれだけですし、

寮は今日付で払い下げますから」


「そうか、わかった、じゃあついて来て」


キャリーケースを一つ手伝い、ステーション内に向かう。


自動ドアが自分たちのために開いてくれる。


ドアをくぐると、巨大なホールに出る。


エスカレーターが多数設置され、

受付カウンターやソファーが並び、

ソファーは軌道エレベーターの発射を待つ人々でいっぱいだった。


静止軌道ステーションは、惑星に二、三あるのが一般的だが、

やはり、宇宙の玄関口ということもあり、

ここ第二ステーションへの軌道エレベーターでも、

大体はこのように人々でいっぱいだ。


軌道エレベーターのケーブルは八本設置されているものの、

六時間ごとにしか発着しないためこのようになるのは仕方が無い。


「初めてというわけではないですけど、

ここは、いつでもすごい人ですね」


コウヤが感想を述べる。


宇宙への魅力というのは万人共通であり、

コウヤもまた、

これから宇宙へ上がれるという興奮が見受けられた。


「じゃあ、とりあえずチケットをとってくるから、

たぶん、九時発の便になると思う、少し待ってて」


そういって、キャリーケースをコウヤに渡し、受付へ急ぐ。


人は多かったが、軌道エレベーターで帰ってくる家族や知り合いの

出待ちをする人もいたりするので、席自体は簡単に取れた。


指定席チケットを二枚購入し、ホールへ戻る。


コウヤは、手近にあるソファーに座って待っていた。


「なんとか、席は取れたよ、九時まであと一時間半程だから、

まあ、適当に暇つぶしててね」


そう告げ、ソファーに座り、携帯端末を取り出す。


形こそ一般に普及しているタッチ式携帯端末に似ているが、

こちらは惑星ごとに設置されている基地局を通じて、

恒星間通信や、恒星間ネットワークを利用できる。


もちろん、惑星間通信や衛星にアクセスしたり、

惑星間ネットワークには、普通の端末と同じように

これだけでことを済ませられる。


サーバーに登録してある自分のワークホームという

仕事で使うページにアクセスし、仕事がないか探す。


今後大きな依頼があるが、それまでの期間は暇になる。


なので、

この星からの仕事の依頼がないかチェックすることにした。


ワークホームのページには依頼が無かったので

ワークホームから、個人経営している

キャリアーズに宛てた依頼が集まるページに飛ぶ。


このページには数多くある星系の惑星から、依頼が寄せられる。


キャリアー個人のワークホームに直接依頼が届くこともあるが、

大体はこのページから依頼を選び、

受注し、仕事をするといった感じである。


端末の画面を指でスライドし、

数ある依頼から良さそうなものを探す。


しばらく後、[分子トランジスタの運搬]

という依頼を受注することにした。


依頼物品は宇宙港に有るとのことなので、

このまま上にあがって、積み込んで行くだけでよさそうだ。


「そうだコウヤ、一応わかってると思うが、

準備してからは、すぐに宇宙に出る、

覚悟はできてるな?」


「もちろんです」


ここで、できていないと言われてもどうしようか困るところだが、

やる気は十分なので問題なさそうだ。


「そうだ、少し屋上に行かないか?

もうしばらくはここには戻れない、

しっかりと故郷を見ていく方がいいぞ」


コウヤに、そう提案する。


実際、自分もこの星が故郷なので、

自分も見ておきたい気持ちもあった。


「わかりました、では行きます」


ソファーから立ち上がり、

壁際のエスカレーターから、屋上展望台に上がる。


時刻は既に八時を過ぎていたが、

街の明かりがとても綺麗だった。


上を見上げると、数々の星が瞬いている。


自分はこの星たちを点々と飛び回り仕事をしているのだと、

改めて思う。


「違う星では、やっぱり、違う空、星が見えるんでしょうね……」


コウヤが呟く。


「この星は、やっぱり好きですが、

これから、いろんな星へ行けるのかと思うと、

ドキドキが止まらないです……

キョウスケ先輩、本当に採用してくださって、

ありがとうございます」


急に改まってお礼を言われると、なんだか照れくさい。


しかし、自分がキャリアーになって、

この星を離れるとき、今のコウヤと同じような感情だったと思う。


「……最初の頃を思い出すな、

本当にいつも新鮮な気持ちだった。

その気持ち、大切にしろよ」


コウヤの頭を鷲掴みにし、荒っぽく撫でる。


あまり嫌そうにしないところが可愛げがある。


「わかりました、キョウスケ先輩」


穏やかな声でコウヤは答える。


それを聞いて、自分は頷きながら、

再び空を見上げる。


視界の端には軌道エレベーターが見えている。


はるか天空のその上まで伸びるこのエレベーターは、

どこの惑星でも、一際存在感を持っているなと思う。


「いけない、搭乗手続き時間だ

急いで行くよ」


エスカレーターに乗り、搭乗手続きカウンターに向かう。


コウヤのキャリーケースをセキュリティチェックに通し、

荷物を預け、問題なく手続きを終える。


搭乗口から軌道エレベーターに搭乗し、発射を待つ。


そして午後九時、発射のアナウンスがかかる。


リニアモーターで加速され、

大気圏内では大体時速500kmまで出る。


「しばらくはこのままですね……」


「着くまで寝ててもいいぞ?」


軌道エレベーターでステーションに行くのには一日かかるが、

その間はとてつもないくらい暇なのだ。


なので、搭乗する時には睡眠薬がもらえる。


それで無理やりだが眠ることで、

エレベーターでの長い長い時間をやり過ごそうというわけだ。


「では、僕は寝ます。おやすみなさい」


そう言うと、睡眠薬を飲み、アイマスクをして

コウヤは何も言わなくなった。


エレベーターには残念なことに窓があまりついていない。


ただ、外を見られたとしても、

見えるのは青か白だけなので

窓があるかどうかは、さほど問題ではない。


いよいよ退屈を過ごすのが嫌になってきたので

コウヤが飲んだものと同じ薬を取り出し、

水で胃へ送り込む。


意識がいつ途切れたのか定かではないが

次に目を覚ましたのは静止軌道ステーションまで

あと三分というアナウンスが流れたくらいだった。


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