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青空のパレット  作者: あるみゃ
悲しみの青
9/29

夏のコンクール

お前の力になりたい。俺は始めてそう感じた……

「優……」

  俺は優が座っている椅子の前に椅子を起き、そこに座っていつも通りの朝食タイムを摂っていた。

「何?」

  優の目は俺を見るというより、何処か遠い物を見ているという目だった。

「今日は俺から離れることを禁じる!」

  俺はこう言う決断に踏み切った。

  そう。昨日の陽菜を呼んだ件だ。

「えっ? えっと……それは……少しこま––––」

「優っ!」

「はい……」

  優の言葉を途中で打ち消すと、優はすんなり受け入れた。

「っで? どこ行く? 優の行きたい所選べよ」

「えっ?」

「いや、たまには優と何処かに行かなきゃなって思っただけで、別に相手にされてないからとかじゃないからな!」

  何このツンデレ的な言い方……凄くバレバレじゃん。

「ヤキモチ……?」

「違うわ!」

  こんなやりとりでも何か楽しい。

  昔こんなこと思ったっけ……

「あ、海……海行きたい!」

「えー? 海? 遠––––じゃなかった。はいはい。行きますよ」

  優の睨む攻撃に俺は逆らうことができなかった。

  まったく。どっちがやり返しを食らってるんだか……

「で? どこの海に行くんだ?」

「いつもの場所……」

「あそこか……そうだな。久しぶりに行くか!」

  俺がそう言いながら優に最後の一口を食べさせると、飲み込んだ後に「うん!」っと元気良く返事をした。

 

  電車で三十分という少し遠い場所の海は夏なのに人っこ一人居なかった。

「人が……居ないな……」

「でもおじさんは居るよ!」

  ちなみに所持品は財布だけといったほぼ手ぶらに近い状態だ。

  海に来たのは別に泳ぎに来たわけでもない。なので人が居ても何も困らないのだ。

「おじさん! 久しぶり」

  優は一生懸命焼きそばを焼いている男性に話しかけた。

「おお! 優ちゃんじゃないか! あいつに会いに来てくれたのかい?」

  この男性は師匠の父親で、今はこの海を経営している。

「はい。そうです……」

「そうかい。お墓はちゃんと掃除しておいたからな」

  そう。この海に来た理由それは、師匠のお墓参りに来たのだ。

  師匠はこの場所で病気に掛かり倒れ、病院に搬送されたが死に至った。

  師匠はこの場所が好きで、週に一度は必ず俺たちを連れて遊びに来ていたこともあり、墓地は海が一望できる丘の上に作った。


「いいのか? こんなところに花なんかお供えして。風で吹き飛ばされるぞ?」

  この丘は結構風が強く風力発電にはもってこいの場所。そのため、花が吹き飛ばされやすい。

「いいんだよ。お供えする気持ちが大切だから」

  優の中ではそう言う理論が正解らしい。

  俺には強がっているようにしか見えないが……

  優は墓石に向かって手を合わせた。

  俺もそれに続いて手を合わせる。

  ずっと昔、丁度この場所で師匠が小学生の俺にこう言った。

「お前の周りで困っている人が居たら必ず助けてやりなさい。もし優が困ったら、その身を捧げても助けてやりなさい」

  小学生だった俺は何も分からずに頷いてしまったが、今はその言葉が分かった。

  なので、陽菜を助けることや優の怪我を自分のせいだと悔やむことができたのかもしれない。

  この広い世界でもし師匠が生きているのなら伝えたい。

  ありがとう。っと––––


 

  コンクールまであと十日。

  優の絵に辿り着きたい。その一心だった。



  そんなこんなで色々あり時間をずらして九日後。

  いや、別にタイムマシ〇的な物を使ったわけではなく。成り行き的にだ。

  コンクールを翌日に控えた七月下旬。

  俺は完成した絵を見て少し疑問を浮かべていた。

  絵の内容は海と丘。タイトルは『海に浮かぶ墓』といった少し印象の悪いタイトルだ。

  そう。これは九日前に行った師匠のお墓をモデルにして描いた絵だ。

  別にタイトルや絵、色に疑問を浮かべているわけではない。

  お墓に入れる文字に疑問を抱いているのだ。

  師匠の本名を入れるか、作った名前を入れるかだ。

  もし、師匠の名前を入れるなら説明の時に著作権がどうとか〜っと言われてしまいそうだ。

  しかし、せっかくモデルで作ったのならこのお墓に師匠の名前を刻み込みたいという選択肢もある。

  だが、師匠は全国的に名の知れた美術家だ。もしここにお墓があると知られたら、墓荒らしが絶え間なく起こる可能性も考えられる。

  だが、しかし! バチんっ!

「痛っ!」

「どっちでもいい」

  後ろから優に思い切り丸めた紙で殴られた。

  人の心を読む能力でも持っているのだろうか……

「でもさあ……」

「別に一部が分かってもどこの海かは分からないよ」

「あ、そうか……」

  俺は優の助言を受け入れ、何も書かれていない墓石部に師匠の名前をしっかり描き込んだ。

「よし! 完璧!」

  俺にしては改心の出来だ。

「まあまあね……」

  それにしても優の評価は辛口だった。

  これでも全国二位なのに……

  ––––って、え?

「優、今どうやって俺を殴ったんだ?」

  優は丸めた紙で確かに俺を殴った。

「えいっ」

  何と優は左手で丸めた紙を握ってまたしても俺を殴った。

「お前……左手が……」

  優の左腕は何故か完治していた。

  これは夢だろうと思い、自分の頬を思い切りつねってみる。

  痛い……きっと痛すぎるほど嬉しいとはこう言うことなのだろうか。

「あのね……今まで家に居なかったのは、その……ずっとリハビリに行ってたんだ……」

  優はもじもじしながらそう言った。

「優……」

  その言葉を聞いた瞬間俺の目から大量の涙が溢れ出て来た。

「でもやっぱり左手じゃ思い通りに絵が描けないから……しばらくは蒼太に任せて……いいかな……」

「ああ! 断る理由が見つからねえよ!」

  ダメだ! それ以上言うと目から鼻水が止まらなくなってしまう!

「ありがとう!」

  そう。その言葉で俺は……

 

  始めて人の喜びを涙で分かち合えた。

  それにしても不思議な点が一つ。

  どうしてこの十六年間生きてきて治らなかった左手が、たかが半年のリハビリで治ったのだろうか……

  不思議だ……


  そしてついに翌日という日がやって来てしまった。

「ほら、優! 早く支度しろ!」

  いつもと違う朝食。いつもと違う朝仕度。

  まさか介護人生から解放される時が来ようとは。

  とは言え、解放されたのはいいけど……

「うう……箸が扱いにくいよ……蒼太ぁ……」

「どうして俺の名前を呼ぶ……」

  左手に不慣れなのか全然食べ物が掴めてない。

  そんなこんなで俺の名前を呼び昨日の晩は助けを求めて来たのだ。

「練習しないと一生出来ないぞ」

  とは言うのだが……

「うん……」

「ああ! もう分かったよ!」

  優が食べ物を落とすのを見ているといても立ってもいられなくなってしまう。

  俺的にはビシッとやりたいつもりなのだが、何故か体が先に動いてしまうのだ。

  ちなみに食べさせるのにはもう慣れた。何度もやってれば別に恥ずかしい何て感情は吹き飛ぶ。

「ごちそうさま」

  そうこうしている内に朝食を終えた。

「着替えぐらいは自分で出来るよな……?」

  優を介護する中で一番慣れなかった着替え。

  俺は証言しよう。

  毎日、俺の例のあの人が半分起きようとしていたと。

「うん……着替えぐらいは自分でできるよ……」

  そう言いながら優は着替えのため部屋の中へ入って行った。

  よかった。あの人を制御しなくてよくなったんだ!

  と、半分馬鹿なことを言っている内に時刻は七時半。これは大変だ。

「優! 早くしないと学校遅れるぞ!」

  扉越しに居る優に大声で言った。

「蒼太ぁ……」

  そんな弱り果てた声を出しながら扉を開く優。

「どうした––––って、おい! な、何やってんだ?」

  扉のその先には下着的な物が見え隠れしている優が居た。

「ちょっ! おま! 早くボタンを閉じて!」

「片手じゃ閉められない……」

「そんなこと言っても今俺も目隠ししてないから無理だっ!」

  自分の手で自分の目を隠すのが精一杯である。

「でもどうしよう……」

  優の困り果てた声だけが目の前から聞こえる。

  こっちの心もちゃんと読んでください!

「ああ! もう! おばさん助けてっ!」

  最終手段のおばさんを呼び、何とか事態は収まった。

 

  コンクールは学校から通じての出展となる。

  学校全体でのコンクール出場希望者が多かったのだ。

  なので学校全体でコンクールに出場するみたいなものだ。

  とは言っても学校の人間にまで自分の絵を見せたくはない。

  自慢じゃないが全国二位なので。

  それと、俺の隣には一位がいるので何か恥ずかしい。

  なので絵に新聞紙を巻きつけて居る。

「そう言えば桜くんって前回のコンクールで全国二位だったんだね」

  陽菜が俺の前で教室全体に聞こえるぐらいの声でそう言った。

  こういう空気読めない人も居るらしい。

  もともと声がでかいからわざとではないのは分かっている。

  だが、ここで言うことではないと分かって欲しかったりもする。

  だって隣に一位が……

  クラス全員が俺のほうに駆け寄ってくる。

「絵を見せて」とか「お前何者だ?」とか。

  そんなこと言われて相当困ってる時に、陽菜の次の言葉が出た。

「うわあ。優ちゃんは一位だよ!」

  全員の目線は俺から一気に優に移る。

  だが優は困り果てた素振りも見せず、ただ呆然と席に座っていた。

  「あれ? でも優ちゃんに絵は描けないよね?」

  クラスの一人がそんな事を言い出した。

  まさかっ!

「私の絵は蒼太が描いてる」

  その瞬間、「やっぱり桜の方がすげえじゃん」とクラスの何人かが言いながらまるで闘牛の群れかと思うぐらいこちらに駆け寄ってくる。

  やはり優は人を売りやがった。

  その後は何とか絵だけは死守することは出来たが、体はボロボロになった。

  優からは「どうしたの?」と言う言葉を掛けられたが、「ほとんど貴方様のせいじゃないですか?」っと心の中で返してやった。

  ちなみに絵は無傷のまま投稿し、明日からは夏休みに入ると思うと心が躍った。

  結果発表は始業式であり、上位三位に入ると全校生徒の前で表彰する。

  前回の俺は相も変わらず、優秀賞に入り、東京から優が最優秀賞に入った。

  毎年のコンクールで優の名前が最優秀賞に入っているのを見るとニヤけが止まらなかった。

  今回は『柏木蒼太』といった、まるで芸名のような名前でエントリーしている。

  ちなみにこの名前は結婚した時、性別が逆転したみたいで、もどかしくてたまらなかった。



「ん? 誰か来てるのかな」

  学校が終わり、家に帰ると玄関で優が靴が増えていることに気付いた。

「どうしたの?」

  一瞬の出来事だった。

  その靴を見ると優の声かけを遮るくらい頭の中に、何かが流れ込んで来たのだ。

「葵……どうして、ここに……」

  流れ込んで来たのは幼い頃の物語だった。

  それと誰のかも思い出せない靴が一足。

皆さんこんにちわ! あるみゃです!

今回は長くしろとのことなので要望に答えて結構長く書いてみました!

実際のところあまり長くねえし……

とかみゃんたろうさんが隣でぶつぶつ言ってますが気にせずに書きました。

ここまで読んでくれたみなさまありがとうございました!

ここまで感想の方が一つも来て無いので少し悲しい限りです。

まだまだ続きますが、応援と御読書よろしくお願いします!

では、またいつか!


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