黄昏の灰色
悲しいのは私だけ。ううん。きっとこの絵の具も悲しいのかもしれない……
「優っ! 起きろっ! 遅刻するぞ!」
俺はぐっすりと深い眠りに落ちる優の体を揺さぶる。
「蒼太……もう食べられないよ……」
なんの夢を見ているんだ……
早起きは三文の徳。俺はその言葉に従い、今日はいつもより一時間早く起きて、余裕を持って学校に行こうと思った。
だが忘れていた。今日から優がいることに。
せっかく早起きしたのに優には介助が必要なのでほとんど意味がない。
「っ! 蒼太……だめ……そんな。激し!」
だからなんの夢を見てるんだぁぁぁっ!
てかそんな事よりっ!
「優っ! 起きろって! 早くしないとあの鬼教師がっ!」
俺は激しく揺さぶり、優を全力で起こそうとした。
「そ、蒼太ぁ……私まだ初めてだから……もっと優しく……」
これは寝言だ。夢なんだっ!
俺はそう思いながら首を左右に強く振った。
「ええい! やむを得んっ!」
大声でそう言いながら俺は優をお姫様抱っこして急いでリビングまで連れて行き、椅子に座らせた。
「ほら……優……口、開けろ……」
スプーンを持つ手を激しく震わせながら優の口の前に運ぶ。
「蒼太……? どうしたの? 顔が赤い……」
まだ眠っているのか半目の状態で俺を見る優。
「し、仕方ないだろっ! 高齢者ならともかく同年代にご飯食べさせるのは少し慣れてないんだよ!」
ちなみに昨日の晩は気絶寸前まで行きました。
「私も少し恥ずかしい……」
そう言いながらも優はスプーンに食らいつく。
「蒼太? ここに優ちゃんの制服置いておくわね」
そんなやり取りの中、おばさんが俺の横に優のセーラー服を置いた。
「こ、これをどうしろと?」
「何言ってるんだい。優に着せる以外に何があるんだい?」
身体中から冷や汗が溢れ出る。
「これを? 優に?」
俺はセーラー服と優の顔を二度見た。
「それとも蒼太が着るかい?」
「俺はそんな趣味ないです……」
「じゃあ優にお願いね?」
「わ、分かったよっ! やればいいんだろ!」
こうなったらやけくそだっ!
俺はそう思いながら急いで優に朝食を食べさせ、最後の一口が終わると優の部屋へと足を運んだ。
「よし……完璧……」
目をアイマスクで覆い、完全に視界を遮って正座する。
「ゆ、優。やるぞ……」
心臓の心拍数を上げながら、最初の第一声をあげる。
「う、うん……優しくね……」
そういう意味ではない。
「まあ最初はスカートから行こう」
俺は手探りでスカートを取り、床に広げて置いた。
真ん中だけ広げてその上に優が入り、そのまま俺が腰まで上げるという作戦だ。
我ながら良い策だ。
「蒼太……早く……」
真っ暗闇の視界から優の声が聞こえる。
「……優? 入ったか?」
「うん……入ったよ……?」
「じゃ、じゃあ動くぞ……」
「う、うん……」
優の確認が取れて、俺はスカートを上げる。
あ、セリフだけ見るとなんかまずいね。
「あ、あれ? 感覚がないけど本当に入ったのか?」
スカートを履かせた感覚は全くなく、何もないのに上げた感覚だった。
「うん……このアイマスク綺麗に入ったよ? 丁度いい……」
「優……何やってる……?」
「……え? 蒼太もアイマスク付けてるから私も付けたの?」
「優さん寝ぼけてらっしゃる?」
「私はいつでも正常」
今、一瞬優が親指立ててドヤ顔してる姿が浮かんだよ……
「てか違うよっ! 着替えてんだよっ! このアイマスク外すぞっ!」
俺は怒りからアイマスクを外そうとした。
「……いいよ?」
「……え? そんなあっさり……?」
「うん……蒼太がいいのなら……」
「優……」
優の言葉に俺はアイマスクに手をやり。
「いや。止めとく。まだ大人の階段をエスカレーターにしたくないから……」
しっかりベルトを締めた。
「いいから早く制服着て学校行くぞ。本当に時間無いから」
「……分かった」
そのあと何とかなりました。
「悪りぃ! 遅くなった!」
俺は優の手を引っ張り、いつもの交差点に息を切らしながらたどり着いた。
「あ、桜くんおはよー!」
いつもの交差点で陽菜がいつもの様に手を振って出迎えてくれた。
「優ちゃんもおはよー!」
「……お、おはよう……」
優は相変わらず人見知りで、瞬時に俺の後ろに隠れる。
「挨拶はあとだな……とにかく走ろうっ!」
右手で優の手を引っ張りながら、左手で陽菜の背中を押した。
時刻は八時。よっしゃっ! 余裕で間に合う!
「わわっ!」
陽菜こけた。
「あ、タンポポだ。可愛!」
その拍子にタンポポを見つけ––––
「陽菜そろそろ……」
「あ、ねこちゃん!」
そして猫を見つけ––––
「こっちだよぉ!」
そして近くの猫じゃらしで猫を手懐け––––
「わぁ! 君の友達?」
大量の猫に囲まれる。
それから十五分後にやっと抜け出し、学校へと走った。瞬間だった。
「きゃっ!」
「お嬢様っ!」
走り出した拍子に誰かにぶつかり、甲高い叫び声と女性の声が耳に響いた。
「す、すみません……」
俺は後ろを振り向き、地面に倒れる少女に目をやった。
ん? 外国人?
その少女は金髪のツインテールに真っ赤な瞳をして地面に倒れていた。
「お嬢様! お怪我はありませんか?」
メイドさんらしき人物が倒れる少女を起こす。
「申し訳ありません。私の不注意でした……」
少女は俯きながらそう謝罪した。
その時。首筋には痣が見え、手には灰色の絵の具のような物が付着していることに気付いた。
「い、いえ! 自分の不注意です!」
どう見ても小中学生ぐらいの背の小ささなのに気を使われるとは思わなかった。
「あなたはお優しいのですね。ではご機よ––––っ!」
その瞬間。少女は動きを止め、俺の後ろに目をやった。
「ど、どうしてあなたがここに……東京へ行ったはず––––」
その目線の先は優だった。
「も、申し訳ありません。急用ができたのでもう行きますね。では––––」
少女はそう言いながらメイドさんと早足でどこかへ行ってしまった。
何だったのだろうと、俺は去る少女の背中を見ながら頭の中に疑問符を浮かべていた。
「って! 学校!」
そのあと全速力で走ったが栗須のせいで校門が綺麗に閉じられていた。
早起きは三文の徳。ではなく。
––––優。猫。廊下。
早起きは三文の損だった。
こんにちは! みゃんたです!
リニューアル中にあるまちゃんが寝落ちして今は僕一人でリニューアルしてます。
眠いです。
物語は変えませんが関係上タイトルが変わってしまいました。誠に申し訳ありませんでした。