ベストフレンド
君とあいつとあの子。みんな友達だよ。
もちろん、貴女も……
「これで最後っと」
俺は山積みにされた看板の上に最後の看板を積み上げる。
「やっと……出来上がったね……」
床に置かれた筆とパレットを片付けながら、成松はそう言った。
「ありがとな。手伝ってくれて」
時刻は午前四時半を回っていた。外はいつの間にか明るくなっていて、空気澄んでいた。
「いいよ……私も手伝ってもらったし……」
たったの短時間手伝ったぐらいなのに、一晩も手伝わせてしまった俺は少し罪悪感を得た。
そもそも昨日の幽霊騒動から、恐怖感で作業が思うように進まず、時間がかかり過ぎたのだ。全てはあの教師が悪い。
「へんたぁい! 看板出来たぁ?」
廊下の方から聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
この声は木内だ。まだ五時にも満たないこの朝っぱらから何故木内が居るのかは不明だ。
「お前……何やってんだ?」
教室内に姿を見せた木内に俺はそう聞いた。
「いやあ。演劇の舞台設計図頼まれてさぁ。ずっと描いてたんだ」
そう言う木内のいつもは元気なアホ毛は、萎れていた。
「少し休んだら? 疲れてんだろ?」
アホ毛サインに気付いた俺は木内に気を使い、休憩を進めた。
「そんな事ない! あたしはまだ……やれ、る……」
「危なっ!」
そんな元気な姿を見せていた木内は、体にガタが来たのか力無く倒れ、俺はそれを受け止める。
「フラフラじゃないかっ!」
「大丈夫、だって……言ってるでしょ……」
腕の中に居た木内は今にも意識が無くなりそうな元気のない声だった。
「ダメだ! 少しでもいいから休め!」
「嫌だ……そんなの聞けるわけないじゃん……」
「何でそこまで頑張ろうとするんだよ!」
俺は腕の中に居る木内にそう怒鳴りかけた。
「…………それは、言えない……」
木内はそう言い残すと、意識を無くすかのように眠りについた。
演劇は俺たちのクラスには縁が無く、演劇の準備なんて一切の関わりは無い。
それなのに何故、木内は関係の無いことを完璧にやろうとするにだろうか……
俺はそう思いながら、木内を壁に寄りかからせて座らせ、成松から渡された毛布を全身にかけた。
「もしかしたら……木内さんはこの仕事を演劇の子達に頼まれたんじゃないかな……」
木内から出ていた大量の汗を拭いていた成松は立ち上がり、そう言った。
「どういう事だ?」
「……えっとね……木内さんいつも休み時間とか一人だから……頼まれたことをすれば友達が出来るかもって、いつも頼まれて、使われている事に気付いてないんだ……」
「つまりそれって……いじめられてるのか?」
成松は何も言わずに深く頷いた。
「この馬鹿……なあ、成松」
俺は木内を見ながらため息を吐き、成松を呼んだ。
「……ん? ……どうしたの?」
「これから時間あるなら……少し付き合ってくれないか」
俺は木内のポケットに入っていた演劇の企画書を取り出しながらそう言った。
「……うん! ……付き合うよ!」
起きたら絶対に怒鳴ってやるからな!
そう思いながら俺は鉛筆と定規を持ち、半分書きかけの設計図に手を掛けた。
「んん……ここは……?」
あれから二時間後、午前六時に木内は目を覚ました。
「お……おはよう。木内……」
設計図の内容はメチャクチャだった。
ロミオとジュリエットを見たことが無いのか、城は要塞化し空を飛んでいた。城の中央部分には内部から突き出すように出る主砲。キャノン砲が出ていて、今にもスター◯ゥーズが始まるかと思うぐらいの出来だった。
当然、全て消しゴムで綺麗に消し、成松と共に設計図を書き直した。
二時間と言う短時間で作ったせいで、疲れが倍増してしまっていた。
ちなみに成松は疲れから、いつの間にか寝てしまっていた。
「あれっ! 企画書が無いっ!」
木内はポケットや周辺を探し回る。
「これの事か?」
俺はため息を吐きながら企画書を木内に差し出す。
「変態っ! どうしてあんたが持ってんのよっ!」
「中身、見てみろよ」
木内は企画書を開き、信じられないと言う顔をした。
「これ……全部、あんたが?」
「ああ。そうだ。成松の手も借りたけどな」
当の本人は寝てるけど……
「別にっ! あんたなんかの力なんか借りなくても私一人でっ!」
「意地張るのも大概にしろっ!」
「––––え?」
俺は目を丸くする木内の体を抱きしめた。
「そんなんで他人に迷惑掛けて、他の奴を心配させて何の意味がある……」
「そんな事……あんたには関係ないじゃん……」
「関係ねえ訳ねえよ……俺たちは友達なんだから……」
「……え?」
「友達なんて作らなくていい……寂しくなったらいつでも俺や翔の所に行けばいいんだ。誰もお前を貶したりしないから」
「……そうだよ……私も今日から木内さんのお友達になりたいな」
そんな事を言っていた俺の背後から、目を覚ましたのか成松が笑みを浮かべながらそう言っていた。
「二人とも……グスっ……」
「あ、泣いてんのか?」
俺は木内を体から離し、笑いながらそう聞いた。
「泣いてなんか……ないもん……」
木内は必死に涙を拭きながら、隠そうとしていたが、号泣しているせいで、全く隠せていなかった。
ただ、木内のアホ毛は次第に元気を取り戻し、天井を指していた。
「よっしゃあっ! 鶫! これからよろしく!」
木内は涙を拭き、大声で成松の名前を呼んだ。
馴染むの早いな……こいつ。
「……うんっ!」
成松も元気よく頷きながら、返事を返した。
「じゃあ、出席確認するぞぉ!」
午前七時四十五分。
栗須先生は教卓の上に手を置き、出席確認を始めた。
「成松!」
先生は大声で成松の名前を呼んだ。
「成松は居ないのかぁ?」
しかし、成松は返事さえしなかった。
いや、なかったのではない。正確にはできなかったのだ。
「じゃあ。木内! って––––」
先生は木内の名前を呼び、席に目を向けた時、少しだけ笑った。
「二人とも。流石にホームルームだけは受けろよ」
先生は呆れ返った声で言い、笑いながら手元の出席名簿に丸を書いた。
木内と成松。二人は肩を寄せ合って仲良く寝ていた。
「と言うか。お前も寝なくて大丈夫か? クマすごいぞ……」
翔の声が何故か耳の中で反射するように木霊して聞こえる。
「……ああ」
多分これは反射的の返事だろう。
「一応聞くが……お前昨日一睡でもしたか?」
「……ああ」
「してないんだろうがっ! ほら。寝とけ!」
「……ああ」
頭の中で何も考えられず、反射的な返事しか出来ない。
俺は翔の言うことも聞かずに、立ち上がって仕事に行こうとした
「おい。そんな返事しながら仕事に行こうとするな……」
翔は仕事に行こうとする俺の服を掴んだ。
「みんな頑張ってるのに俺だけ休むわけにはいかない……」
俺の言葉に翔はため息を吐いてこう言った。
「お前は十分頑張った。お前が倒れたら仕事増えるだろうが! 仕事より先に自分の体を心配しろ!」
翔に怒られた俺は、自分の席に戻り、机の上に顔を伏せた。
てか言ってることがデタラメだよ……
と言うわけで、俺も睡眠する事になった訳だが。
「寝過ごした……」
いつの間にか帰りのホームルームも終わり、午後六時半を回っていた。
「てか何で誰も起こしてくれないんだよぉ!」
頭を抱えながら一人、教室の真ん中で絶叫する。
「私は居るよ?」
聞き覚えのある声がし、机の脇に目をやると、そこに優が座り込んでいた。
「おはよう」
「優……って、お前居たんなら起こせよ……」
普通にそうなる。
「だって気持ちよさそうに寝てたんだもん」
いや、そんなキリッとした顔で言われてもなあ……
「てか、みんなは?」
「み、みんな? ぶ、文化祭の準備が終わったから帰ったんじゃないかな……」
優が動揺した声でそう言った。
帰っているわけがない。他の机にはカバンが乗っていたり、掛かっていたりしている。
「さ、さて。そろそろ帰ろうか……」
優はカバンを肩に掛け、颯爽と教室を出ようとした。
「おい。ちょっと待て優」
俺が優を止めると、優は肩を震わせた。
廊下の方に目線を向けると、茶髪の髪が一本窓枠から飛び出していた。
あれ絶対に木内だろ……
「おい。そこに隠れてる奴出てこい」
俺は溜息を吐き、そう言うと一斉にクラス生徒が色々な所から出てきた。
「おいおい。空気読めよ蒼太ぁ」
翔が掃除用具箱から姿を現し、俺に罵声を浴びせた。
「仕方ねえ。みんなやるぞ!」
翔とその他生徒は、翔の合図で何かを取り出した。
ぱぁんっ! と言う音と共に一斉に色々な方向からリボンや紙が飛んできた。クラッカーだ。
「誕生日おめでとぉっっ!」
クラス生徒達は俺にそう言いながら、拍手を浴びせる。
「な、何これ?」
確かに今日は俺の誕生日だが、他の人に祝われる義理など無いはずだ。
無いはずなのに何故だろう。目から大量の涙が溢れていた。
「あれ? お前泣いてんの?」
翔が爆笑しながら俺をからかう。
「違うっ! これは涙じゃない。鼻水だ!」
自分で言って気色悪かった。
「蒼太! 大好きっ!」
優は最高の笑みを浮かべながら俺に抱きついた。
「お、おま、それどういう……」
「まあ。親友としてだけど……」
この子今あっさりと酷いこと言ったぁ!
その後、他の生徒全員は、後片付けに入っていた。
「やっぱり、変態が居なかったら優は変われなかったのかもね」
横から来た木内は優を見ながらそう言った。
「どういう意味だ?」
「だって優は今まであんな笑顔見せなかったもん」
「そう言うもんか?」
「そうだよ!」
木内はそう言い残すと、颯爽と教室内に散らばったリボンを拾う手伝いを始めた。
変わったか……
ずっと優の側に居たせいかそんな事全く考えた事もなかった。
友達。か……
文化祭が始まる。
こんばんは〜! あるみゃです!
真冬の連続投稿どうでした〜? 少し少なすぎると自分でも思います。
しかもラストが微妙な終わり方……
今回はみゃん太さんにも大量に手伝ってもらいました! 途中眠いとか呟いてましたが……
ではでは、また来週の投稿をお楽しみに!
良い春を迎えてくださいね〜!
今話を見ていただき誠にありがとうございました!
今回は連続投稿と言うことで、三話を一挙纏めて投稿しました。
お付き合い頂き誠に感謝致します。
まだまだ続きますのでこれからも私たち二人の応援をよろしくお願いします。
夜分遅くに申し訳ありませんでした。




