晴れの日
君と出会うことが出来たから今の自分が居る。
君と出会う事が出来たから私は絵を描いて居られる。
君と出会う事が出来たから私はこの時間を楽しんで生きることが出来る。
君と再開出来たから私はこの左手を治すことが出来た。
君に出会わなかったら、君と再開出来なかったら、今の私は居なかった……
だから……絶対に行っちゃ駄目っ!
「木内早くっ! 時間がない!」
俺は優の部屋の前でカバンを抱えてその場駆け足をしていた。
「おいおい。そんなに急かさなくてもお姫様はすぐに出てくるぞ」
隣からツンツン頭の男が話しかけてきた。茅野 翔平。通称、翔だ。
「お、お前。何でその制服を……」
俺は動揺しながら翔を指差した
「ん? 何でって? 転入したからに決まってるだろ?」
「そんな簡単に言えることじゃないだろ! 前の学校は?」
「出てきた」
軽っ!
「出てきたって、名門校なんだろ?」
するとドアが開け放たれた、
「えー? だって面白くないんだもん」
中から、肩までの茶髪で、てっぺんのアホ毛がシンボルの小さな少女が出てきてそう言った。この少女も、うちの学校の女子用制服を着ていた。
「お前ら……東京からわざわざ何しに来たんだよ……」
「え? 優に会いに来たに決まってんじゃん」
「なら地元に帰れぇぇぇっ!」
本当に東京の奴は考え方が分からん。
「蒼太。さすがにそれはひどいわ」
部屋の中から、二人を呼び寄せた張本人が現れた。
彼女の名前は柏木 優。腰まである白髪に綺麗な蒼白の目をした少女。学校では男の目を奪い、下手すれば女子の目までも奪いかねないほどの美少女だ。
「お、王子様。お姫様のお目覚めですよ」
翔が腹を抱えて爆笑し始めた。
「誰が王子様だっ!」
「そうだそうだっ! こんな変態よりあたしの方が王子様に匹敵してるに決まってるだろ!」
いや、木内。あんた女でしょ。
「………お姫様」
優はそう呟いた。
…………お前は何を赤面してるんだ。
「そう言えば、お前ら学校行かなくてもいいのか?」
…………………………あ。
「忘れてたあああぁぁぁぁっっ!」
俺は優の手をしっかり握り家を飛び出した。
「行ってらっしゃぁぁいっ!」
木内は手を振り、俺たちを送りながら大声でそう言った。
転入生は気楽でいい。あと一時間後に登校なのだから。
「優。絶対に手を離すなよっ!」
何かヒーローっぽいセリフに聞こえるが、忘れないでほしい。一度逸れてしまうと探すのに時間が掛かってしまうのだ。
「うん。大丈夫。離さない」
優の左手は力強く俺の右手を握っていた。相変わらず左手は完治していた。
「あ、桜くーん!」
上り坂を登り切ると交差点が見え、いつもの少女がこちらに向かって手を振っていた。
「早速だが陽菜。走るぞっ!」
彼女の名前は小鳥遊 陽菜。桃色の長髪でどこか抜けている少女である。
「あ、こんな所に大きなミミズさん」
「それっ! 蛇だからっっ!」
ほらね。
ちなみに前の一件のせいで、お互い顔を合わせることができない。
まともに見てしまうと思い出してしまうのだ。
「よっしゃぁぁっ! まだ校門は閉まってないぞっ!」
うちの校則は、時間規定が過ぎると校門が閉まり、入れなくなってしまう。
優と陽菜は校内に先に入り、俺も急いで入ろうとしたその時だった。
「どっっっっせいっっっ!」
不可思議な掛け声と共に、校門が一気に閉まる。
「はははっ! 貴様はそこで遅刻の指導を受けるがいい!」
この男は栗須 哲也。根っからのドSの担任教師である。
この教師は、体育系の筋肉教師だが、座学では授業の楽しさ故、生徒たちから大人気なのである。
ちなみに得意技は、規定時間ピッタリに校門を閉じることだ。だが––––
「先生。今度こそは負けませんよっ!」
「何だ?」
俺は後ろに下がり、幅を取った。
「先生の授業で教わったこと。使わせて貰います」
俺は右手を挙げ、校門に向かって本気で走った。
校門の上部分に片手を付き、一気にハンドスプリングをして敷地内に着地。
「先生っ! どうですか?」
俺は目を輝かせながら、先生を見た。
「うん。勉強熱心なのは嬉しいが」
先生は俺に歩み寄る。
「でしょっ!」
「だが、規定時間は守れっっ!」
頭のど真ん中に多分石より硬いであろうゲンコツが勢いよく降ろされた。
「いたっ!」
「荷物を置いて廊下に立っておけ」
「そ、そんなぁ……」
そして当然いつも通りこうなる。
渋々グラウンドを通り、教室に入り荷物を置いて、廊下に立つ。
「そう言えば中等部にすっごい可愛いハーフの女の子が入ってきたらしいぜ!」
「マジでっ!」
教室内から、数人の男達の会話が聞こえてきた。
この学校には、中等部と高等部に分けられ、いじめや悪影響の防止の為、任意式の防火扉が張られていて、用がある時に先生の厳しい許可が降りないと通れない仕掛けになっている。
そんなこと騒いでも高等部には縁がないだろ……
「何でもプロ顔負けの絵を描くらしいからなぁ」
「そんなに凄いのかっ!」
そんな奴がいても俺と優を抜いたやつなんて……一人いた。
でもあいつはここに来る理由が無い。
「あら、桜さん。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
どこかで聞きなれた幼い少女の声が耳に響いた。
まさかと思い、隣に恐る恐る目を向けると、そこには金髪のツインテールの少女が大量の書類を持って立っていた。
「アリサっ! なんでここにっ!」
俺の大声に周りはアリサに目線を向けた。
「きゃっ! この子可愛いっ!」
「この子が噂の子なのか?」
男子だけではなく、女子まで虜にしてしまう容姿を持っているようだ。俺にはさっぱり分からん。
「ただこの書類を高等部の職員室に届けろと言われらので」
アリサは周りの人間に見向きもせず、俺の質問に答えた。
「それ、重そうだから半分持つよ」
俺は半ば強引にアリサの持っていた書類を半分持った。
「あ、ありがとうございます……」
「それと職員室はこっちな。ここは二階だぞ?」
俺はアリサを連れて、職員室へと足を運んだ。
よし。これでこの観衆からアリサを救出する事が出来た。
女子ならともかく、男子までアリサに近寄るとアリサは拒絶反応を起こしかねないからな。
アリサを中等部の入り口まで見送り、任務完了の達成感に浸りながら廊下に戻る。
「ふう。やっぱ廊下は落ち着くなぁ」
ホームルームが始まったのか、廊下は人の気配がせず、静まり返っていた。
って、いかんいかん。ついつい廊下に居すぎてくつろげる空間になってしまっていた。ここは一旦我に帰ろう。
「あれ? 変態じゃんっ! 何やってんの?」
「由奈。ちゃんと見とけ。これが旧世代のお仕置き「廊下に立っとれっ!」だ」
約束通り一時間後に来た木内と、笑い死ぬんじゃないかと言うほど爆笑する翔が話しかけてきた。
「ああ。翔の言う通り今はその状態だ」
俺は絶望に浸りながらそう呟いた。
「いや、悪い。冗談で言ったつもりなんだが……ククっ」
もう笑い堪えてる時点で反省の色が全く見えないんだけど。
「二人とも。入ってきてくれ」
教室内から、教師の声が廊下まで響いた。
「じゃあ、行ってくるわ。由奈、落ち着いて行けよ」
「わ、分かってるわよ……」
二人ともいつも以上に緊張しているのか、声が全く出てない。
「ああ。頑張って行ってこい!」
俺はドアを開けた後ろ姿の二人を応援した。
始業式が終わり、ロングホームルームの時間になる。
「……残念だったな」
栗須先生が俺の前に立ち小さな声で呟いた。
最優秀賞は葵。
負けるのはもう慣れていた。優の実力は分かっていたし、アリサや葵にも負けるとは思った。
ただ、目の前の紙に書いてある文字が凄く悔しかった。
『順位外』それがこの紙に書かれている文字。
「優……ごめん……あんな事言ったくせに俺……」
俺は泣きながら優にそう言った。
だが––––
「良かった! この順位で」
優は俺を励ますどころか、喜んで笑っていた。
「どうして喜んでるんだよ……」
「だって、私が居ない状態で蒼太が最優秀になったら私が気に食わないもん」
「蒼太が私を抜くまでずっと待ってるから」
俺は優の言葉で、昔のことを思い出してしまった。
高みの王座から俺を見る優を。
俺の越えるべき存在は優。
もしかすると俺は、優が居なかったから、越えるべき存在が居なかったから実力を発揮できず負けてしまったのかもしれない。
「じゃあ優。次のコンクールは絶対に越えてやるからなっ!」
俺は笑いながらそう言った。
「無理だと思うけどね」
やはり何度聞いてもむかつく言葉だ。
「ふ、二人とも……お楽しみのところ悪いんだけど……」
笑い合う俺たちに陽菜が震えた声で話しかけてきた。
「どうした?」
「これ……見てみて……」
陽菜に手渡された紙を目の前に持ってきて目を通した瞬間、俺と優は声が出なかった。
「陽菜! ど、どうしたんだよこれ……」
紙には優秀賞という三文字の言葉が書かれていた。
「分かんないよ! 私も今回は頭に思い浮かんだのだけを適当に書いただけだし……」
いや。適当に書いてこれかよ……
「これ……何かこの後に不幸なことが起きる予兆かな……」
陽菜は深刻そうな顔でそう呟いた。
「違うと思うぞ。ただの実力だ」
「そう……かな?」
「ああ。そうに決まってる」
「そうか……これが私の実力か……」
陽菜は紙を見ながら嬉しそうに呟いた。
「…………桜くんに褒められた」
「何か呼んだ?」
「ううん! 何でもないっ!」
ただ聞こえなかったんだが……
「っと、悪い。伝え忘れていた事があった」
教室から出ようとしていた栗須先生がそう言いながら教卓に戻った。
「青空祭。もうすぐ始まるんだが、出し物とか考えておいてくれ」
「先生。あおぞらさいってなんですか?」
生徒の一人が手を上げながら質問した。
「文化祭だ」
生徒全体は固まり、時計の音が何度か聞こえた。
「文化祭いぃぃっっっっっ!」
大体の生徒はそう叫んだだろう。特に男子は。
「俺っ! メイド喫茶がやりたいっ!」
「いやよっ! やっぱり演劇が王道だわっ!」
「いや、出し物と言ったらお化け屋敷だろっ!」
生徒たちは口論を起こし暴れまわった。
それもそのはず。高校生活初の文化祭なのだ。中学時代のつまらない文化祭とは違く、出店や出し物などが出せるのだから。
そう言えば先ほど、特に男子はと言ったが、よく漫画とかにある、メイド喫茶とか中華喫茶とか女子に仮装してもらう絶好のチャンスだからだ。
別に俺はどうでも……
「桜はどうなんだよっ! やっぱ喫茶系がいいだろっ!」
話すらした事がない男子が俺に話しかけてきた。
「いや、俺は別に……」
どうでもいいと言いかけた時、微かな感情が込み上げてきた。
いや、待て。うちのクラスには優が……優が……
「いや。ここは動物喫茶で!」
俺は思った事を思い切り大声で言った。
考えても見ろ。優の猫耳メイド姿なんて一生見れないかもしれない。
「あれ? みんな、どうした?」
だが、口論していたみんなは何故か俺の方を見て止まっていた。
「は、はは。やっぱ駄目だよな……」
俺は後頭部を触りながら、苦笑いでそう言った。
「……動物喫茶かっ! それ名案だなっ!」
「確かにそうね……なんか自然を感じるわっ!」
「よっしゃっ! 動物喫茶に決定だぁっ!」
男子はともかく女子までも乗ってくれた。
黒板の真ん中にはデカデカと『動物喫茶』と書かれていた。
「蒼太。ナイスアイデア」
優は親指を立ててそう言った。
これは期待できる結果が待ってそうだ。
––––青空祭が始まる。
「よっしゃああっ! やるぞぉぉっ!」
だが現実は全く違かったのだ。
こんばんは〜! あるみゃです!
今回は真冬の連続投稿と言うことで、恋愛を見て暖まろうを題材に連続投稿させていただきまぁす! 多分うまくいくと思いまぁす……
と言うわけで後二話投稿しますのでよろしくお願いします!
今話も見ていただきありがとうございました。後二話の連続投稿見ていただくとありがたいです。
明日も朝が早い方、夜遅くに申し訳ありません。




