選択
この日、私にとって最大の夏がやってきてしまった……
「ここか……」
メモ書きに記された地図を見ながら、目の前のファミレスに目をやった。
ファミレスのドアを力一杯押し、中へと入った。
「何名様ですか?」
ウェイトレスが俺に質問を投げかける。
「待ち合わせなんですが」
そう言った瞬間、中間辺りで手を振る男の姿が目に入った。
「ではごゆっくり」
ウェイトレスは音もなく消え、俺はその男の席まで足を運んだ。
「ちゃんと来てくれてありがとう」
席には当然、男が居たが、その横に何故か女性も居た。
「別に破る事もないだろう。それより本題の話を聞かせてくれ」
そう言うと、先程のウェイトレスが現れ、俺に水を差し出して「ごゆっくりどうぞ」と言い残し、またしても音もなく消えた。
「では、早速入ろう」
男はそう切り出して姿勢を正す。
「単刀直入に言うが、君は僕たちが優を捨てたと思っているか?」
「何度も言わせるな。俺はそうとしか思えない」
そうとしか思えないのに何故か引っかかる点がある。
何故そんな事を聞くのか。だ。
「勘違いしているようだが、全く違う」
「どういう意味だ?」
そう聞くと、男は悲しそうな表情で話し出した。
「昔、僕が仕事をして帰った時だ。優の母親に当たる人物がこう話した。『優を捨てた』と。当然僕は反論した。しかし『このままでは生活する金がない』と切り捨てられてしまった」
ここまでの話を聞く限り、この男はもう悪者では無かった。
「だが、それでも優は自分の子供。その一心で家を飛び出していろんな場所を探したが優の姿がどこにも見当たらなかった。当然その母親とは別れ時間を惜しまず探し回った。その時に彼女と出会った」
男はそう言いながら、隣に居た女性を指差した。
「この方は?」
俺は女性に目線を向けて、そう聞いた。
すると、信じられない回答が返ってきた。
「君の母親だよ」
まさかこんな所で、それもこんな形で再開するとは思わなかった。
「彼女も僕と同じで、勝手に君を捨てられ、探し回っていた」
話がうまく出来すぎていて、頭が混乱しかけたが、つまり、同じ境遇で捨てられた親同士でくっ付いたって事か。偶然にも程がある。
「そして、やっとの思いで探し当てた場所があの家だった」
それを言い終えると二人は姿勢を正し、頭を下げた。
「頼む。僕たちと来てくれないか」
今度はきっと俺まで含まれているのだろう。
「話は分かったが、その話には乗れない」
「何故だ?」
「俺たちは師匠に育てられ、師匠にあのアトリエを託された。捨てるわけにはいかない」
「君ならそう言うと思ったよ。分かった。この件は無しにしよう」
男は笑いながらそう言った。
「そんなあっさりでいいのか?」
「いいよ。今の君たちに何を言っても聞きそうにないし、それに将来を持った君たちを引っ張り出す気もないよ」
男にとって優は大事な存在のはずなのに、なぜそんな簡単に決めれるのだろうか。
まあ、向こうが言ってるからいいか。
俺は一安心しながら水を飲む。
「ありがとうございます。あと、これと言ってはなんですが、定期的に優の顔を見にきてやってください。そして先程の話も聞かせてやってください」
安心した俺の口からは自然と敬語が出ていた。
「いいのか?」
「はい。優ならきっと受け入れてくれるはずです」
あいつなら絶対に受け入れてくれる。それだけは確信できる。
「君は本当に優のことが好きなんだな」
「そ、そんな事ないですっ!」
「ははは。声に出ているぞ?」
やっぱこの男嫌いだ。
そうだ。これが自分で決めるという事なんだ。
こんなモヤモヤなんて打ち消せばいい。俺の本当の気持ちを陽菜に伝えよう。
次の日。俺はいつもの交差点に陽菜を呼び出した。
「ごめん陽菜。前の件なんだけど……」
「ダメなんだよね……言わなくても分かるよ!」
陽菜はそう言いながら俺に背を向けた。
「ああ。本当にごめん」
「いいよ。謝らなくても」
陽菜の肩が少し震えた気がした。
「…………陽菜」
俺は陽菜の肩に触れようとした。
「止めてっ! これ以上優しくされると嫌いになれなくなっちゃうから……」
陽菜は大量に溢れ出る涙を拭きながら、震えた声で言った。
そんな陽菜を見ていると何故か居ても立ってもいられなくなり、後ろから抱き付いた。
「いいよ。嫌いにならなくて。ずっと俺の親友で居てくれ」
これが俺の本当の答えだ。
「せこい……せこいよ桜くんは……」
陽菜は泣きながらも、微かな笑みを浮かべていた。
「じゃあ……私の気が済むまで、ずっとこのままで居て……」
「……ああ。いいぞ」
いや待て。こんな交差点のど真ん中で後ろから女の子に抱きついているのを見られると、どう見ても俺が不審者扱いされるような……
「ねえママ。あれ何?」
「こらっ……見ちゃダメよ……」
もう手遅れだった。
「も、もういいか? 陽菜……」
「もう少し……」
もう止めてっ! 俺の精神が持たないからっ!
「警察さんっ! こっちです!」
「そこの君っ! 今すぐその女性から離れなさいっ!」
待て待て待て待て待て待て待ていっっ!
俺は青い服を着た世界一怖い人に引き剥がされる。
「ちょっ! 誤解ですって!」
「犯罪者はみんなそう言うんだっ! 署で話は聞くから来なさいっ!」
不幸だ……
「陽菜も何とか……って」
陽菜は大爆笑していた。
「桜くんが捕まってる!」
あの子SやドSっ子やぁぁぁっ!
その後署に連行され、その後沢山謝られた。
「……桜。優の件どうなったの?」
帰るなり、木内が元気なく俺に話しかけてきた。
初めて名前を呼ばれた気がする。
「ああ。決着が付いたぞ」
「行っちゃうの?」
「いや。残る」
そこで初めて木内の安心した顔を見た。
「いやあ! あんたならやると思ったっ!」
嘘付け。信用してなかったくせに。
てか、肩痛い。何度も叩くな。
「でもどうやってあんな事したの?」
「あんな事?」
俺は木内が指差す方を見た。
開け放たれた優の部屋には、楽しそうに父親と話す優の姿が見えた。
「まあ。いろいろだよ」
俺は笑いながらそう答えた。
てか、来るの早いな……あれからまだ半日も経過してないぞ。
…………それにしても。何か不思議な感じだ。
どうして同伴で来ていた俺の母親は何も喋らなかったんだろうか。必死に探していたなら普通泣いてでも話しかけてきても良かったのだが……
「…………さん? ターゲットを見つけましたがどうします? 捕獲しますか?」
スーツ姿の男が、一人の少年を見ながら携帯に話しかけていた。
「…………了解。では待機ということで」
男は耳から携帯を離し、ポケットにしまう。
「やっと見つけた……カミヤ様……」
男は少年を見ながらニヤリと笑った。
こんにちは! 平日が暇すぎて死にそうなあるまです!
昨日友達の家に遊びに行ったんですけど。
「俺らって今年で十八かぁ」
自分がそう話し出したら、こんな話が帰ってきました。
「そうだなあ。あ、そう言えば十八って事はアダルトコーナーに堂々と入れるな!」
と、キラキラした目で言われました。
そこかいっ! 車の免許とかでは無いんかいっ! と心の中で突っ込んであげました。あえて。
今話も読んでいただきありがとうございました!
まだまだ続きますので応援お願いします!