恋と混乱
もっとあなたを知りたい。
もっと近くに居たい。
凄く言いたい。
九月一日午前九時半。
俺はベッドの上で上体を起こす。
やはり夏休みは学校の日とは違い、落ち着いて起きることができるので幸せだ。
階段を降りて、洗面所に足を運び、顔を洗う。
鏡を見ると、アホみたいにボサボサの髪の毛の男が映し出されていた。もちろん俺だ。
深呼吸しながら洗面所から出て、リビングに行くと、朝食がラップに包まれて置かれていた。
今日のおばさんは早朝勤務で早く家を出たのだろう。
ちなみにラップの上には書き置きが置かれていた。
きっと、『行ってきます』と書かれているのだろうと予想しながら紙を手に取る。
予想は的中した。ただ、それだけではなかった。
俺はその文を見た瞬間、身体中から冷や汗が溢れ出た。
固定電話が鳴り響きさらに緊張が走った。
「も、もしもし……」
受話器を恐る恐る耳に当て応答した。
「桜 蒼太の担任教師の栗須です」
聞きなれた男性の声が受話器から聞こえた。
「お、おはようございます先生。どうされました?」
まずい。
「桜か……てめえ補習はどうした?」
この人鬼です。
初回から人の心配なしで「補習はどうした?」です。
「ほ、補習ですかぁ? さ、さあ。なんのことですかねぇ?」
「ぶっ殺……」
「すぐ行きますっ!」
今何か聞こえた様な気が……
俺は炎天下の中、学校へ続く坂道を歩いていた。
てか、本当にどうかしてると思う。
このクソ暑い中、ほぼ男子しかいない教室で補習なんて……
「あれ? 桜くんも補習?」
そんな絶望に溢れた事を考えている俺に、背後から希望の少女の声が話しかけてきた。
「陽菜か。まさかお前も補習なのか」
桃色の髪の少女が後ろに立っていた。
「うん。まさか桜くんと一緒だとは思わなかったよ!」
陽菜は嬉しそうに俺の隣を歩く。
「ああ。まさか遅刻する時間も一緒だとは……」
「うん! そうだね!」
「まさか通学路まで一緒だとはな……」
「え? な、何のことかな?」
陽菜が引きつった表情で目を逸らした。
陽菜とのいつもの待ち合わせ場所はこの先の交差点。つまり、ここで会うことは有り得ないことなのだ。
「お前まさか、家から着いて来てないよな……」
「そ、そそそ、そんな事ないよぉ?」
嘘だ。嘘ついてるけど全然隠せてないよ。
「そ、それならいいけど……」
俺は一度陽菜の嘘にわざと引っかかって見た。
陽菜はホッとして胸を撫で下ろし、安心した顔で笑った。
だから全然隠せてないよっ!
それにしてもずっと家の前に居たのだろうか。今思うとゾッとする。
「そう言えば優菜は元気か?」
この話題から離れようと違う話題を出す。
「……うん。元気だよ!」
陽菜は元気に返答した。
「…………………………何で優菜ばかり」
「何か言ったか?」
「ううん。何でもないよ」
小さな声で何かを呟いた様な気がしたが、全く聞こえなかった。
「…………あ」
忘れていた。こんなにゆっくりしている暇ではない事を。
「てめえあれから何時間経ったと思ってる?」
教室の戸の前で何故か俺だけ怒られていた。
「じ、十五分ですかね……」
「一時間だよ馬鹿野郎!」
ですよねー。
「桜よ。今まで何処で何をやっていたか説明してもらおうか」
「ふ、普通に登校してました」
「嘘つけっ!」
いや、これ真剣に。
「先生! これ以上桜くんだけ責めるのはやめてくださいっ!」
横から陽菜が口を出した。
陽菜?
「小鳥遊。別にお前が悪いんじゃないんだぞ。こいつが付き合わせたのだから」
なんか俺の時と態度違う。
「違いますっ! 私が全部やったんです!」
それでも先生に反論する陽菜。
陽菜……どうして?
いつもは笑って見ているだけだった陽菜が今日は何故か頑張っていた。
「……そうか。では、二人とも廊下に立っていろ」
その罰、補習の意味ないんですけど。
「みんなが帰った頃に授業だ」
いやああああああぁぁっっっ!
俺は心の中で絶叫した。
悪と絶望の補習が終わり、青空はすっかり黄金色に変わっていた。
「陽菜。さっきはありがとうな。庇ってくれて」
行きに通った道を陽菜と並んで歩いていた。
「いいよ。桜くんだけが悪いわけじゃないから」
それからずっと沈黙。いつもなら元気がいい陽菜は何故か全く話さない。
「ねえ。桜くん……少し話があるんだ」
沈黙のまま歩き続けているといつの間にか別れの交差点に着いていた。
「……何だ?」
俺は少し不思議に思いながら答えた。
それからこの先の陽菜の言葉が、口パクだったかのように何も聞こえなかった。
もしかすると、心が聞かなかったのだろう。だが、何を言っているのかは分かった。
その言葉を残すなり陽菜は立ち去り、俺は口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。
たったの今さっき、陽菜が言った言葉があまりにも信じる事が出来ず、ずっと頭の中で何かが奮闘していた。
ああっ! もうどうすればいいんだよ!
どう考えても頭が付いて行けず、頭をくしゃくしゃに掻きまわした。
「とにかく帰ろう。うん。それがいい」
考える時間なんて大量にあるんだ。家ならすぐに考えることが出来るかもしれない。
そう思いながら、帰り道の下り坂をいっきに駆け下りた。
「出て行けっっ!」
家まであと一歩ぐらいのところで、少女の怒鳴り声が耳に入った。
「どうしたっ!」
何の騒ぎかと思いながら、急いで家の敷地内に入ると、木内ともう一人見覚えのある男の姿があった。
「あんた、また来たのかっ!」
最悪だ。よりにもよってこのタイミングであの優のクソ親父だ。
「変態! あんたこの男と知り合いなの?」
「ああ。この男は優を捨てた張本人だからな」
クソっ! 思い出すだけで腹が立つ。
「君か。少し話したい事があるんだ。明日、指定したファミレスに来てくれないか?」
「何の話だ? 優を引き取る話ならお断りしたはずだ」
「申し訳ないが、それ関連に繋がるかもしれない、だが君に話しておきたいんだ」
それ関連に繋がる。つまり、優を引き取る理由ということなのかもしれないが、男は顔は真剣だった。
「…………何の話なんだ?」
「ここでは言えない。話の内容は明日話す」
「分かった。行き先を教えてくれ」
優を引き取ると言うことは許せないが、話だけは聞こうと思った。
男に時間と場所を聞き、男は去っていった。
「この馬変態! 優がどこかに行ってもいいのっ!」
当然の言葉が返ってきた。
馬変態って何だよ。
「優をどこかにやるつもりはないよ」
「嘘付いたら承知しないからなっ!」
木内はそう言い残して家の中に入っていった。
そう言ったのはいいが、この先にあんな事実を知らされるとは思わなかった。
この騒がしいファミレスで俺の心はもっと騒がしくなっていた。
こんばんは! あるみゃです!
何とか期日に間に合いましたっ!
いや、実の所、みゃん太さんに言われるまで気付かなかったですけど……
そう言えば前、みゃん太さんに『好きな映画何?』とメールしたら『SMがいいな』とドヤ顔の顔文字と帰ってきました。
いや、誰もアダルトの話してないし……
とか思ってたら、『SFと間違えた』とミス表示打ってきました。
みゃん太さんは小指に入れるのにまさかのドSの腐女子? と思うところだったです。
今話も手にとっていただきありがとうございました! それにしても新キャラ出すとはこのあるまでも思いませんでした!
ではでは次話も頑張りますので応援お願いします!
みゃん太「もう出来てるんだけど……」
あるま「……え? あ、うん。そうなんだ……」