真夏日
どんなに暑くても君が隣に居れば関係ない……
額から汗が流れ床に落ちる。
「ゆ、優……大丈夫か?」
うちわで顔を仰ぎながら俺は優の安否を確認した。
「………………う……」
優も床に寝転がり、うちわで顔を仰ぐ。
「……う?」
俺は優に聞き返した。
きっと「うん」と言おうとしたが暑さで声が出ないのだろうと思った。
「…………産まれる」
おーい。産まれるなー。
「……優。暑いからそれ以上止めてくれ」
ツッコム俺のことも考えてください。頼むから。
「優。そろそろ移動しよう。暑くなってきた」
「う、うん……そうだね……」
俺たちは床から立ち上がり、少し離れたところにまた倒れ伏した。
「あ、冷たい」
優は幸せそうな声でそう呟く。
何故俺たちがこんな哀れな状態なのかと言うと。
暑いからだ。外気は四十二度。今年最高の気温を上回った地獄の様な世界で、俺たちはもっと地獄を見ていた。
この家。エアコンと言う概念がない。
俺たちは朝の天気予報を見ながら。
「「終わった……」」
と、見事に美しいハモりを見せた。
しかも、暇だ。気を紛らわすことが無い。絵を描こうとしたが、キャンバスが汗で濡れ、絵の具に汗が入り混じり変な色になったりと神様が諦めろと言わんばかりに描くことを邪魔してくる。
「優……アイス、買いに行くか?」
「嫌だ……何もしたくない」
と言うか芯から腐ってるんでやる気なんてさらさら起きません。
「そうだ。友達の家で涼めばいいんだ!」
優が勘付いた様に元気よく起き上がる。
「……お前に友達なんていんの?」
「陽菜……」
優はそう言うとまたしても床に倒れこんだ。
陽菜はただいま旅行中で今は不在だ。
「……アリサの家にでも行ってみる?」
俺が一つ提案を出した。
久しぶりに聞く響きが部屋中に響く。
「アリサか……」
もうお忘れかもしれないが、夏のコンクールで俺が挑戦状を出した張本人だ。
「……誰だっけ?」
忘れないであげて! 可哀想だから!
「まあ、行ってみる価値はあるかも……」
優はそう言って出掛ける支度をしだした。
優も勘付いた様だ。あいつの家は金持ちという事を。
カンコーンと少し豪華そうなチャイム音が鳴り、期待が高まる。
アリサの家は前に会った時に密かに教えてもらっておいた。
「はい? どちら様?」
メイドのカトレアさんがドアから顔を出した。
「桜 蒼太です。少し入れてもらっていいですか?」
口元が自然とにやける。目の前に楽園があるからだ。だが——
「おかえりください」
カトレアさんは扉を勢いよく閉めた。
「貴方みたいな獰猛な輩にアリサ様を会わせるわけにはいきません」
いや。何もしないよ。あんな子どもに。うん。
「だ、大丈夫ですって。優も居ますし」
そう言いながら優を扉の前に連れてくる。
すると、再度扉が開く。
「いいでしょう」
「いいのかよっ!」
ついつい心に溜めておいたツッコミが言葉に出てしまった。
室内はクーラーが完備され俺たちの予想は的中した。
「あはは。優。楽園だよ!」
「うん! 楽園だね!」
と、思ったのは束の間。
「で? 何でクーラーが動いてないんですか?」
クーラーは完全停止モードになっていた。
「電気止められてるんで」
カトレアさんはすんなりと大変な事を答えた。
「何でですかっ!」
「この家あまりお金持ってないんですよ」
あ、そうだった。財閥、倒産したんだ。
「カトレアさん。暑くないんですか?」
諦めた俺は、年中長袖のメイド服を着ているカトレアさんに聞いた。
「暑くないですよ? この服通気性がいいので」
どんなメイド服だよっ!
「優……帰ろっか……」
「そうだね……」
俺たちはこの家からいち早く立ち去ろうとUターンして歩き出した。
「ちょっとお待ちください」
カトレアさんに止められた。
「少し話しませんか?」
カトレアさんはニコッとしてそう言った。
これを忘れていた。今では旧型クーラーと言われるこの近代的機会を。
そう。この大型電池式扇風機を。
「優。死ぬな」
優は扇風機の前で楽園気分に浸っていた。
「あ〜」
優。それ厳禁だろ。あ、可愛い。もう一回して。
「ちょっと相談に乗ってもらってもいいですか?」
そんな幸せ気分に浸っていた俺にカトレアさんはそう話し出した。
「相談ですか?」
「はい。この頃アリサ様の周りでおかしな現象が起きるんです」
「おかしな現象?」
ま、まさか。幽霊?
「はい。アリサ様によると少女の姿をあちらこちらで見かけるらしいんです」
「少女?」
「はい。それも――」
「白いワンピースを着た少女です」
早速調べていたことに心当たりがある人が現れてくれたようだ。
「はい。その話なら是非とも聞かせてください!」
俺にとってものすごく好都合だ。
「何か心当たりでも?」
さすが、人と接してきただけはある。勘が鋭い。
「はい。自分も子どもの頃に見たことがあるんです。ある時は限度を超えるいじめ。ある時は不意な事故。少女が現れた時だけ必ず絶望を見せられてきました」
俺は、少女について隅々まで話した。
「もしかしたら何ですけど……」
カトレアさんが深刻な声でそう言いだした。
「お嬢様が受けたDVってその子のせいなんじゃ……」
「でも、あれは順位の関係で親父さんが起こったからなんじゃないんですか?」
「いえ。旦那様は凄く穏やかで家族を一番に思ってらっしゃいました。そんな方が性暴力なんて起こすわけがありません」
親父さんの性格は分からないけど確かにそんな人がそんな事をするわけがない。
「それにお嬢様が一回目に順位が下がった時の旦那様は下がっても気にするなとお嬢様を励ましてました」
話を聞く限り親父さんには不満が無かったことになるな。
「完全に少女が関係している。という事か……」
俺は頭を抱え考え込んだ。
「私も見たことがある」
俺の隣に音なく座った少女はそう呟いた。
「東京に居た時。沢山友達がいたの。凄く幸せだった」
優は昔の事を語り出した。
「でも、その時少女が現れた。それから友達がどんどん私から離れて行ったの。その後に事故にあった」
優の右手が無くなったのもその少女のせい。これで犯人が決まりだ。だが——
「一つ。話しておきたいことがあります」
カトレアさんは真剣な眼差しで俺に注目した。
「昨日の夜に夢を見たんです」
「夢?」
「はい。少女が何度も俺に助けを求めてくる夢です」
夢の中の少女の悲しそうな目は今でも忘れることができない。
「でもあくまで夢の中なのでは?」
「いえ。それだけではないんです」
俺はポケットから一枚の紙を取り出して渡した。
「これは起きた時に枕元にあった物です」
この紙には『助けて』という一言だけが書かれていたのだ。
「少し怖いですが、分かりました。お嬢様には伝えておきます」
カトレアさんはその紙を俺に返すとそう言った。
「はい。お願いします」
その言葉で話は終わった。と思った。
「止めて……この方達には手を出さないで……」
廊下の方からアリサの声が聞こえたのだ。
「お嬢様? どうされました?」
カトレアさんはアリサの方を向く。
「そこに……女の子が居るの……」
アリサが指差す方向を視線を向けた。
だが少女の姿はない。
「お願い。止めて……」
もしかすると!
「アリサ! その少女が向く方向を見てみろ!」
「……え?」
「いいから早くっ!」
俺はアリサを急かし、アリサは急いで背後を振り返った。
「何が見える?」
俺はアリサにそう聞いた。
「少年……少年が居る。悲しそうな顔をしてる」
やはり。もしかしてこの少年に繋がりがあるのか。
少女は俺たちに何かを訴えようとしているのかもしれない。
まだ調べることが必要そうだ。
こんにちは! みゃんたです!
冬休みが明け、友達に「太ったね」と言われ、絶望に浸ってます……
体重計に乗り、体重を恐る恐る見てみると、モザイクがかかってました。
正月太りです。あるまちゃんに大笑いされました。
「あはは。みゃんたさん傑作!」
あの野郎ぶっ殺す……
今話を見ていただきありがとうございました。まだまだ続きますので応援お願いします!