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青空のパレット  作者: あるみゃ
悲しみの青
14/29

夏の日の暇な日

ある日の夏の思い出。

これがいつにも増して楽しかったよ。桜くん

「陽菜。絵の調子はどうだった?」

  ある暑い日のこと、俺は陽菜とファミレスに居た。

「もうばっちりだよ! まあ、桜くんには及ばないけどね」

  余裕ぶった表情で元気そうに笑う陽菜。ピンク色の髪が太陽で輝き、凄く明るく見えた。

  久しぶりに陽菜と話したくなり、ファミレスに呼んで正解だった。今日だけは優の目から逃れよう。

「そうだ! せっかくの夏休みだしこれからどこか行かない?」

「どこかって。どこに?」

  ふふーん。と陽菜は鼻を鳴らし、鞄をゴソゴソと漁り始めた。

「はい。これ」

  取り出した物は、ゴムで束ねられた何かの大量な紙だった。

「何だ? それ」

「お父さんが貰ってきた百枚近くあるゲームセンターの無料券」

「ひゃ! 百枚っ!」

「うん。そうだよ」

  驚く俺をなぎ倒すかの様に平然と答える陽菜。

  陽菜のお父さんって何してる人なの?

「じゃあ。レッツゴー」

  もう本当。こいつのテンションには付いて行けないわ……



「これが私の一番大好きなゲーム。名付けて、キャッチ&フォールだよ!」

  いや、それただのクレーンゲームだし……

  そんなこんなで近くのゲーセンに足を運んだ。

「てか得意とか言いながらもう十枚使っちゃってるし」

  しかもさっきからあの巨大なクマのぬいぐるみしか狙ってないし……罠だろ。あれ……

「絶対とって見せるんだもん!」

  気合と共にピンクの髪が揺れる。

  だがさっきからスカばっかなんだが。あ、また落とした。まったく……

「これが欲しいのか?」

  俺はクマのぬいぐるみに指差しながら言った。

「……うん」

  スカばっかですっかり元気をなくした陽菜。

「たく。仕方ねーなぁ。この達人に任せな!」

  自身たっぷりに百円を入れ、ぬいぐるみを凝視する。

  まずは第一のボタン。真横だ。

  このぬいぐるみを掴むにはまず首を狙うのが一番だろう。クレーンの幅は約三十センチ。首の太さは二十五センチくらい。好都合だ。

  クレーンの位置を首の一直線上に移動させる。

  そして第二のボタン。縦。

  俺は生唾を飲み込み、ボタンを押す。

  この座標を失敗すれば終わってしまう。なんとしてでもアームを首の上に持っていかなければ——って。何っ!

  首の高さが高すぎてアームが引っかかってしまった。

  くそ絶対に罠だこれ。

  クマのぬいぐるみは無造作に倒れる。

  アームは落ちるが、そこには何も無く空振りに終わった。

「だが俺は負けないっ!」

  俺は財布から五百円取り出し、勢いよく挿入口に入れた。



  あれから十倍は使っただろう。

  財布を逆さにするが、一円しか落ちて来なかった。

「うわあ! 本当ありがとう!」

  でも、まあ結果オーライだ。

  この無邪気な笑顔を見る事が出来たので、悔いは無い。

「じゃあ、無料券も残ってるし、ドンドン行っちゃおー!」

  陽菜は笑顔で他の機械を見に行った。

  俺の金は残ってないんだが……



  二時間後。全ての無料券を使い果たした俺は、外のベンチで疲れ果てていた。

「冷たっ!」

  いきなり頰に何かを当てられた。

「お疲れ様。これはお礼だよ!」

  笑顔で俺の横に座る陽菜の手には、缶があった。

  ありがとうと言いながら貰い、蓋を開ける。

「今日は本当に楽しかった! 付き合ってくれてありがとね!」

  陽菜はぬいぐるみを見ながら満面の笑みでそう言った。

「そのぬいぐるみ、大事にしろよ」

  なんせ五千円も使ったんだからな。

「うん! 大事にする!」

  陽菜は自分の上半身よりも大きいぬいぐるみを嬉しそうに抱いた。

「久しぶりだな。こうして二人で遊ぶの」

  ジュースを飲み、一息ついた俺はそう言った。

「うん! 何かデートみたいだね!」

「ば、ばか! 恥ずかしいだろ!」

  優が帰って来る前はよく二人で遊んでいたので、別に恥じらいなんて無かった。だが今は少し違う。

「こうして座ってる時なんて手繋いでたもんね」

  陽菜の言葉で全身が燃えるように熱くなった。

「あ、あれはたまたま手が乗ってただけだろ!」

「え? そうだっけ? あの時、俺が守ってやるなんて言ってたような」

「言ってない! 断じて言ってない!」

  事実だ。

「えー? 言ったよ? あと、絶対にこの手は離さないなんて事も」

「言ってないって!」

  これも事実だ。

「あの時の桜くん。かっこよかったな……」



「大好き……」


  陽菜の思いがけない言葉に俺はびっくりして横を向いた。

  すると、肩に重いものが乗った感覚を得た。

「陽菜——って、寝たのか……」

  陽菜は幸せそうな顔で寝ていた。

「たく––––仕方ねーな……」

  俺は陽菜を背負い、家まで送ることにした。



  のはいいが、家に着きインターホンを押すと大変なことになってしまった。

  住宅地の中の一軒の古そうな建物。それが陽菜の家だ。

  門をくぐり、インターホンを押す。

「……………………あれ?」

  インターホンは無反応。もう一度強く押してみた。

  やはり無反応……

  俺はため息をつき、息を吸い込んだ。

「すみませーん! 誰か居ませんか!」

  大声で扉に向かって話しかける。

  しばらくすると、鍵が開く音がし、中からエプロン姿の女性が何も確認せずに出てきた。

「あら。桜くんじゃない! どうしたの?」

  やっぱ、この家まったく警戒心が無いな……

「陽菜を送りに来ました。寝てしまったんで」

「ありがとうね! 上がってく?」

「いえ、すぐ帰ります」

  陽菜を玄関先に座らせ、立ち上がる。

「あら。そう? またいつでもいらっしゃいね!」

  陽菜の母親はそう言うと、陽菜を重そうに抱えた。

「少し待ちなさい。蒼太くん」

  立ち去ろうと歩き出した俺を引き止める男性の声。

  うへー。現れちゃったよー。

「少し将棋を付き合ってくれないか?」

  左を向くと、縁側で一人、将棋盤を睨んでいる八十代ぐらいの男性がいた。

  陽菜のお祖父さんの源次郎さんだ。

「は、はい……」

  この人に捕まる時はほとんど逃げられた試しがない。

「うむ。悪いな」

  別に悪い人ではないからいいのだが。



  源次郎さんの反対側に座ると、もうすでにお茶が容易され、将棋の隊列が施されていた。

  源次郎さんの隊列は飛車角金銀落ちといった、どうにも舐められた隊列だ。

  それでも勝てないのだが……

「どうだ? 陽菜とはうまくいっているのか?」

  将棋盤に目をやり、源次郎さんは話し出した。

「それはどういう意味で?」

  一息入れようと、お茶をすする。

「少しは進歩したか? 後世を残すために」

  その瞬間、顔の前が口から出る緑色の液体でいっぱいになった。

「な、なな何を言いだすんですかっ!」

  この人は外見がしっかりしているわりに、中身が少し抜けているから嫌だ。

「付き合っているのだろ?」

「そんなこと一切ないです!」

「そうだったか?」

  そう言うとまたも将棋盤に目をやる。

「それにしても久しぶりじゃの。こうして蒼太くんとサシの勝負をするのは」

  源次郎さんは駒を動かしながら嬉しそうに言った。

  いや、サシじゃないんだが。

「そうですね。この頃ゴタゴタして来れませんでしたから」

「なんだ? うちの陽菜を差し置いて女子でもできたのか?」

「いや、その話題からはもう離れてください」

  どんだけ付き合わせたいんだこの人は……

「冗談だ。で? どうしたんだ?」

「友達が東京から帰ってきたんです。しかも右手を失くして」

「それは女子か?」

  もうこの人嫌だ。涙が出そうだ……

「王手だ」

  将棋はいつの間にか、王手を取られていた。

「なっ!」

  しかもどこにも逃げ道は無く。詰まれていた。

「将棋も現実も。まだまだだな」

  そう言って、和室から立ち去っていく。

  この人は毎回話して良かったという感覚を得る。少し抜けてるけど。

  てかまだ何も話してないし……

「もう夜も遅いから泊まって行きなさい」

  言い忘れたかの様にドアから顔を出して嬉しそうに言った。

  王手だよ! 詰まれたよ!

  時刻は夜の八時を回っていた。

いやあ。もう、いやあ。

正月に酔っ払うあるまです!

飲んでいいの? たくさん? てな事なってたくさん飲んでたら二日酔い乙になりました。

ごめんなさい。生きててごめんなさい。


今話も読んでいただきありがとうございました!

誤字脱字があった場合は無視しておいて下さい!修正に駆けつけます!

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