未来を追い求める少年
少女への対抗心を描くとき、少年の物語が始まった。
高く。高く。手も届かない程の高台に居る優。
低く。低く。追いつく為に何度も地面で無駄なジャンプをする俺。
まるで天と地の差と言う言葉をそのまま表しているかのように本物だ。
何度ジャンプしたとしても、高台で王座に座る優なんて届くはずもなかった。
「争わなくていい! ずっと私の側にいてくれるだけでいいの!」
優は泣きながらそう言ったが俺には目の前に見える実力の壁が俺たちを邪魔しているように見え、追い越さざるを得なかった。
小学校の頃。一度だけこの壁を壊したことがあった。優の隣に立てた。
その時の優は「おめでとう」と笑いながら言ってくれた。
すごく嬉しかった。
それでもその日が最後翌年もその翌年も壁ができる一方だった。
やがて優は俺と口を聞かなくなった。一位で勝ち誇り、何も練習しなかった俺に呆れてしまったのだ。
「優。ご飯できたみたいだぞ」
俺は父さんが残したアトリエに入り、大きなキャンバスに神の右手と呼ばれた手で絵を描く優にそう伝えた。
久しぶりに優に話しかけたので少し緊張が走る。
「……………」
だが優は黙々と絵を描き俺の言葉など耳に入ってないようだった。やはり話しかけるのが久しぶりでも、俺とは口を聞きたくないのだろうか。
「優っ! ご飯だってっ!」
少しイラついてしまったのか、俺は勢いよく優の持つ筆を取り上げた。
「……っ!」
その瞬間。勢いのせいで優の頬に水色の絵の具が飛んだ。
「ご、ごめんっ!」
俺は謝りながらタオルを取り、優に渡そうと差し出した。
「……要らない」
だが優は一言そう言うと、リビングの方へ行くためアトリエを出た。
その時。俺の目に信じられないものが映し出された。
先程、優が描いていたキャンバスに、水色の髪の少年と白色の髪の少女が肩を合わせて寝ている絵が描かれていたのだ。
それも、その二人は子供の頃の俺たちによく似ていた。
最初は思い過ごしだろうと思った。だがよく見るたびにどう見てもこれは俺だろうと思ってしまった。
頰には犬に襲われた優を庇うために付けられた傷が間違いなく描かれていた。
でも何故だ……優は俺のことが嫌いなはずなのに––––
いや。違う……戻ろうとしているのではない。あの頃に戻りたいのにこれから先戻れないとしたら––––まさかっ!
俺は無我夢中でアトリエから出て、リビングに繋がる廊下へ出た。
そこにはリビングのドアノブを掴んだまま俯いて立ち止まる優の姿があった。
「……優。お前……」
「触れないでっ!」
俺は優の肩に触れようとしたが、優の叫び声に驚き手を止めた。
「こうするしかなかった! 蒼太の事が嫌いなはずなのに何故か心の隅で蒼太と居たいって思ってしまうの!」
優は顔を両手で押さえながら、その場に蹲った。
「だったらずっと一緒に––––!」
「もう……遅いの……東京への手配はもう出来たから……」
優は立ち上がり、俺に小さく微笑むと、リビングの扉を開けて入っていった。
優が東京へ旅立つ時が来た。
改札口の前で優は母さんと別れを惜しんでいた。
俺は母さんの後ろでただ呆然と無言で立ち尽くすのみだった。
「優。本当に一人で大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。向こうにもいい人たちが居るし」
優は笑いながら話す最中。一瞬だけ俺を横目で見た。
「じゃあ……もう行くね!」
そう言いながら優は改札口を通りホームへの廊下を歩く。
「優! 待って!」
俺は優に届くように思い切り叫んだ。
このままでいいはずがない。
「また、会えるよな」
背を向け立ち止まった優に俺は目に涙を浮かべながらそう言った。
「じゃあね。お兄ちゃん……」
優はそう呟き振り向きもせずにホームへと姿を消した。
兄。優ははっきりとそう言った。
そんな事今まで一言も言ってくれなかったくせに……
あれから二年の月日が流れた––––
皆さん始めまして(こんにちは!)
ラノベ大賞を夢見るあるみゃこと綾波仁です!
Twitter(偽名)などで小説を書いていたのですが、我慢出来ずにこちらに手を出してしまいました。
さてさて今回は初めての投稿ですが、どうでしたか? 面白かったですか?
ダメだったら詳しい所を感想で書いてくれると嬉しいです!
まだまだ未熟者のあるみゃさんですがこれからもよろしくお願いします!
静読ありがとうございました!