姫騎士の鎧
いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?
ほう、鎧を。お客様、ご職業は何を……、ほほう、帝国騎士団員でありますか。しかし、お美しいですな。帝国騎士にしておくのがもったいのうございます。いやいや、美しい女性を美しいと褒めるのは当然の事。それどころか、貴女様の事を美しくないなどとは、口が裂けても言えませぬ。え……、口が裂けたのなら言えるワケないだろう……? いやいや、モノのたとえと言うヤツでございます。おや、少し顔が赤いですよ。何でもない……、そうでございますか。
しかし、帝国騎士団員であるならば、騎士団支給の鎧がある筈ですが……、ああ、非番の時に冒険者をやりたい、と。まあ、確かに帝国騎士団は非番の時には冒険者をやっても構わないと言う暗黙のルールがありますからな。何といっても、給料が低いのだとかで、ええ、当店をご利用していただいている騎士団員も大勢いらっしゃいますよ。当店は帝国でも一、二を争う防具店でございますからね。
お客様、紹介状はお持ちでしょうか? お持ちであれば、少しばかり値引きをさせて頂いています。やはり、今後もよいお付き合いをしていきたいですからね。
ほう、フランツ様からのご紹介でございますか。当店はフランツ様が騎士になった頃からのお付き合いでございます。フランツ様もよく、当店を利用してくださいます。残念な事に防具店をよく利用される、と言う事はあまり腕が立っていない証拠でもありますがね。ま、仕方ありますまい。フランツ様は帝国騎士団でも一、二を争う程残念な腕の持ち主でありますからな。あの方は親が有力貴族で単なるコネ入隊ですからな。騎士になってからというモノ、帝国騎士の肩書を利用して女性をナンパしまくっているだけの変態でございます。いずれ職を失うか、冒険者をやっている最中に不慮の事故で命を落とすかのどちらかでしょうな。
おっと、あんなナンパ騎士の事などどうでもいい話でしたな。出来れば、今の話はお忘れください。……おや、貴女様も何度もしつこく声をかけられている、と。お気をつけくだされ。あの男は最低の屑でございます。なにせ、不良品をつかまされている事に全然気付きませんからな。何度か試させていただきましたが、あの男はそろそろ切り捨てるべき段階まで来ています。ま、仕方ないですな。二流どころか三流の冒険者ですら気付く防具の不備に気付かないレベルなのですから。
そうそう、貴女様の防具のお話でしたな。失礼ですが、ご予算はどのくらいでしょうか?
ほう、十万Gでございますか。それだけあれば中級程度の一式は揃えられますな。え、一番ランクの高いモノ、でございますか? それならば、一式揃えるのに最低でも百万Gは必要でございますが、どう……、諦めますか。帝都近郊で冒険者をなさるのなら、中級程度でも十分でございますよ。
では、こちらの防具一式など、どうでしょう……? おや、お客様、どちらを見ているのでしょうか?
ほう、あの鎧に目を付けられましたか。流石にお目が高い。貴女様は見ただけでフランツなどというポンコツ騎士とはレベルが違うのが分かりますが、あの鎧を一目見ただけで、通常の鎧とはレベルが違うと見抜けましたか。貴女様にはさぞかし似合うでしょうな、あの白銀の鎧は。戦場であの鎧を身につけている貴女様は、それはもう、お似合いでしょうな。戦場に咲く一輪の花、と言っても過言ではありますまい。いえいえ、お世辞などではありませんとも。
お値段も勉強させていただきます、と言いたいところなのですが、アレはオススメ出来ません。いえ、ただ家に飾るだけ、と言うのならお売りいたしますがね、冒険者としてアレを身につけるのは、単なる自殺行為でございます。何せ、今までアレを身につけた女性はことごとくひどい目に遭っていますからな。
ほう、あの鎧に関する話をお聞きになりたい、と?
あまりいい話ではございませんが、よろしいですか? 分かりました。
あの白銀の鎧は、「姫騎士の鎧」と呼ばれています。
かつて、この帝国が建国される以前、カダス帝国と呼ばれる帝国があったのはご存知でしょうか?
ほう、やはり帝国騎士たるもの、そのくらいはご存知でしたか。フランツというカスは知りもしませんでしたがね。いや、ほんとあのフランツというゴミ屑には早く死んでほしいモノですな。……いや、すみませんな。あの屑野郎は私の娘にも手を出そうとしていましてな。貴女と同じくらいの年なのでね、そろそろ嫁に、と考えていますが、あのフランツだけはありませんな。
おっと、話を進めましょうかな。
カダス帝国の末期でございますが、それはそれは美しい姫様がいらっしゃいましてな。戦場に舞う妖精などとも言われていましてな。二つ名が“カダスの妖精姫”であったとか。
が、美しすぎるのも考えものですな。オークの親玉と言われるオークエンペラーに好かれてしまい、狡猾な手で彼奴の手に堕ちたと伝えられています。“カダスの妖精姫”がどのような目に遭ったかは、考えたくもありませんな。
で、この「姫騎士の鎧」は、その“カダスの妖精姫”と謳われていた姫騎士様が身につけていた鎧でしてな。特殊な鉱石やら金属が使われていたのでしょうな。姫様が奪還されたのはいいですが、姫様はそれはもう、目もあてられない状態だったそうですが、この鎧だけは全くの無傷であったとか。
で、時は流れてこの鎧は一般に流れたのです。
この「姫騎士の鎧」、何故か女性しか着用出来ないらしいのですが、防御力はそれはもう素晴らしいモノがありましてな。ドラゴンの攻撃にさえ耐えうるのです。故に、欲しがる女性冒険者は多かったのですが、ある欠点がありましてね。
この「姫騎士の鎧」、オークやオーガと言った種族のモンスターを前にすると、ただの重たい鎧に変わってしまうのです。全くと言っていいほど身動きが出来なくなるのだとか。ドラゴンの攻撃にすら耐える鎧が、オークやオーガを前にすると、ただの重りになってしまうのですよ。それでは使い物になりませんからな。オークやオーガと言った種族のモンスターはそれはもう、あちこちにいますからな。
それだけでなく、何かの呪いなのか、オークやオーガを前にすると、「くッ、殺せ!!」とか、「体は汚されても、魂までは汚されはしない」とか、ほとんど特定の言葉しか話せなくなるのだとか。
そんな鎧を着ていては、ソロの冒険者では致命的、パーティーを組んでもお荷物になる可能性が高いですからな。当店に入荷してからも何度か売れましたが、すぐに返却されましたよ。で、どうなさいますか、買われますか? 当店としては……、ほう、遠慮なさる? 当然ですな。
ふむ、貴女にはこの防具一式でよろしいかと。十二万Gでございますが、長話にお付き合いいただきましたのでな、十万Gにまけておきましょう。何、サイズに関しては魔法でピッタリのサイズになりますからな、装着して少しだけお待ちくだされ。
ところで、もう、次の非番の日から冒険者家業をスタートさせるおつもりですかな……?
なんと、次の非番の日に糞野郎と一緒に冒険者としての一歩を踏み出す、ですと……?
これは、好都合ですな。近くに上級者向けのダンジョンがありますが、貴女なら一人でも何とかなるでしょう。そこに、糞野郎と一緒に冒険に出て頂けないでしょうか? そこで、不慮の事故に見せかけてあの屑を殺していただけませんかね? あの屑を殺って頂けるのならその防具一式、タダで差し上げます。どうです、いい話ではないですか。あの屑の装備品だって、貴女にお譲りしましょう。そして、私は娘に付きまとう屑を掃除できる、ね、実にいい話でございましょう?
え? この話は受けられない? そうですか、仕方ありませんな。
貴女様の冒険者としての、そして騎士としての成功を祈っておりますよ。
おっと、サイズ合わせの魔法も終わったようでございます。
またのおこしを、お待ちしています。もっとも、頻繁に来られるようでは困りものですがね。次は是非、上級品をお買い上げになられる事を期待していますよ。
つい、むしゃくしゃしてやった。




