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加速器シリーズ

ドーナツ地底湖

 地平線の彼方まで広がる、荒廃した大地。

 赤黒くうねる、空。


 焼け爛れた焦土と化した地上は、まさに地獄と呼ぶにふさわしい惨状だった。



 その一方で、


 地下深くに埋もれた“それ”は静かに生を育み、新たな生態系を構築していた。


 一握りの天才の理論を実証するための先進国の叡知を結集して造られた、税金の無駄遣い。

 社会的弱者を省みず、一部の特権階級の人々の知的好奇心を満たすためだけに、莫大な資金とエネルギーを投入した、“玩具”。

 そして、時代に見放されたオブジェ――『LHC』


『素粒子物理の聖地(メッカ)』などと一時持て囃されてはいたが、お目当ての粒子(もの)が見つかってしまえば、それはもはやただの粗大ゴミであった。高エネルギー実験から数学による完全理論へと移行していく時代に置いていかれ、巨大加速器はその存在意義を失ったのだ。


 それから長い年月が経った現在――


 加速器は水で満たされていた。放置されて随分と経っているため、老朽化がかなり進んでいる。施設のどこかで地下水の侵入を許してしまっているのだろう。かつて、陽子達が光速に限り無く近い速度で駆け巡っていた配管剥き出しの通路へ、ちろちろと水が流れていく。


 光の無い、暗黒世界。


 光届かぬ水中には水草や藻のようなものは生えていない。


 その代わりにバクテリアの塵が通路に降り積もっており、湖底は一面真っ白である。


 その、


 雪のように白く、


 ふわっとした塵の上を、


 目の無い魚が一匹、


 行くあても無く、


 ゆらりと漂っていった。




 円周二十七キロメートルもある、リング状の巨大地底湖。

 湖の中で今日も時は静かに流れていく。


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