『間・ 少女 / 想い』
内容的にはずれませんが、課題の話からは少しずれるので〈間〉として表示することにします。
短めです。
猫梨は物思いにふけるような有村の横顔をちらりと見上げ、そのまま見つめ続ける。
その頃自分は未だ生まれてもいないというのに、彼が過ごしてきた記憶の中に存在するそれを、何故か知っている。
理由は、分からない。
幼い時分、まだ自我も芽生えていない時に誰かから聞かされたのか、あるいは初めから存在するものとして知っていたのか、今となっては分からない。
二番目の可能性をないと否定しつつも、その悲しい出来事に思いを馳せる。進んで記憶に入り込みたいとは思わないが、有村の顔は少しばかり険しく、歪んでいる。だからきっと思い出しているのだ、と思う。
人が密集しているのにも関わらず、しんとした静けさの中で、漂う悲しみを振り払う。猫梨自身の頭の中で再生された、音無き記憶も奥深くへとしまいこまれる。
そして、思考する。
彼は言った。「使役士とは、何なのか」と。
仲間たちは思考する。だから少女も周りに従うことにする。
――使役士とは、何だろうか。
竜を滅するためにある。それは正しいと言えるだろう。
人を護るため、若しくは大切なものを失わないようにするため、ということも同じだ。問いに対する答えは、人の数だけあり、人の数だけ違う。だから、猫梨の答えも、“緑央猫梨”という一人の使役士のものとしてある。
ずっと考えてきたことだ。
考えに考え、それでも未だ答えを見つけられずにいる。
竜は気高く、そして強大。しかしそうであるが故に人々に恐れられ、運悪い個体は滅せられてしまう。彼ら――竜は、そういう運命の上に立つ生き物だ。
使役士は、彼らを恐れ、ただ無力である、そんな人間たちの砦。
砦といっても、使役士全てが竜を敵対視しているわけではない。猫梨が実際にそうであるように、悪と思っていない者もいる。ただ、彼らを完全には知り尽くしてはいない。それに全てを知りたいとも思ってはいない。既に在るものなのだから、関わりあわずに生きていくということは出来ないと、猫梨はそう思っている。だからもし仮に猫梨のような心境を持つ者がいたとすると、そんな気持ちなのではないのかと勝手に決め付ける。
少女は思考する。
答えを見つけることはまだまだ先のことだ、と感じる。
しかし時が答えに追いついてしまう。
――使役士の役割とは?
竜が来てしまう。矮小な自分たちとは比べ物にならない程の気高さを持つ彼らがやってきてしまう。
見つけなければ、と頭の中だけが焦りだす。
早く。
早く。
早く――わたしだけの想いを。
見つけるのは自分自身であるのに、猫梨は密かに、自分以外の見えない誰かにそう願う。
これを読んでくれたあなたに感謝の言葉を。