駄菓子屋のおばちゃん(六百文字お題小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
「駄菓子屋のおばちゃん」をお借りしました。
俺が小学校低学年の頃だった。
近所にいつもニコニコしているおばちゃんがいる駄菓子屋があった。
一個五円の飴や十円の麩菓子などがあり、俺達の憩いの場となっていた。
おばちゃんは何も買わない子にも優しくて、学校帰りに必ず寄っていた。
四年生の時、父親の仕事の都合で俺は転校する事になった。
おばちゃんにさよならを言いに行ったが、何故か店は閉まっていた。
子供心に何かあったと思ったが、怖くて確かめられなかった。
それから三十年余りが過ぎ、俺は久しぶりに子供時代を過ごしたその地へ戻る事ができた。
会社の中でも幹部クラスになり、支店の一つを任される立場になったのだ。
子供達も独立し、妻と二人になったので「故郷に錦を飾る」を実践してみる事にした。
妻も賛成してくれた。
そして、あの当時は怖くてできなかった事をしようと思い、駄菓子屋があった場所に行った。
驚いた事に駄菓子屋は昔のままで、更に驚いた事におばちゃんも昔のままだった。
「変わらないですね」
俺は言った。するとおばちゃんは、
「それは私の母です。よく似ていると言われるんですよ」
と言った。
何だか無性に泣けて来たのであの当時は買えなかったたくさんの駄菓子やおもちゃを大人買いした。
そして、店の奥にある小さな仏壇で微笑んでいる写真のおばちゃんに線香を上げ、手を合わせた。
「お帰り」
おばちゃんがそう言ったような気がして、また泣けて来た。
次は子供達と来よう。
そしてゆくゆくは孫達と。
お粗末でした。