黄昏の青
「バッキャローーーーー!!!」
叫ぶ女子校生『立花瓜莉/tatibana uriri』
「・・・ば、ばかやろーーー」
恥じを知る17歳『流転/nagare utata』
「ダメダメ!!全然なってないぞ、少年ッ!!」
笑顔で怒鳴る、通称『うりり』とは幼稚園からの腐れ縁だ。
「誕生日が うりりのが早いからって、少年はないだろ」
「気持ちの問題だよ気持ちの!!」
彼女と二人、ある夏の河川敷。
たまにはストレス発散に付き合えと言われ、共にいる。
「ほら、対岸の釣り人がこっち見てるじゃないか」
「対岸だから当たり前でしょ?ったく、小さい小さい!」
何が愉快なのか、笑みを絶やさず、僕の背をどやしつける。
「痛いってば!?ったく、うりりのストレス発散先は俺の背か?っての!!」
「うん、そうかもしれないね!」
あはは笑いが得意なうりり。
対岸のみならず、周囲からの視線が気になる。
「で、どう?もう一度叫んでみよっか」
「いや・・・遠慮しとくよ」
「そう?もっと腹の底から声を出してみなよ?気持が良いよ?」
「いや、きっと俺の背を殴ったのが気持よかったんだと(フグゥ!?」
「あっはっは!!うたたもなかなか言うね!!見直した!」
ドン・ドン・ドンと一定のリズムが僕の腹を伝う。
いじめかっこわるい、と茶々を入れようかと思ったが、
頭のどこかでこれはイジメじゃないと僕を制した。
「ふぅ・・・うりりと一緒にいると鍛えられるよ」
「でしょ?まだまだ鍛えてあげるよ?」
「・・・まぁそれはまた今度で」
馬鹿な掛け合いを続けつつ、日陰を求め鉄塔の脚部に向う。
旺盛な草野球の掛け声、犬と散歩する主人、自転車で駆け巡る釣り少年。
そして僕たち。
河川敷に集うある夏の放課後。
「ひとしきり殴ったら汗かいちゃった」
「さらっと怖いこと言ってるよ!?」
気まぐれな彼女を、僕はいつからか支えようとしていた。
鉄塔の脚部、日陰になるコンクリート壁に背を預け、
青々とした芝生に腰を下ろした。
「・・・ねぇ、うたた?空ってなんで青いんだろ?」
陽光を避ける様に手でひさしを作る。
遠く彼方、空の先を見つめる様に、ぼーっと見入る。
とてつもなく、青い空である。雲ひとつない。
「ん?なんだよ急に、らしくないことを言うな」
「らしいもらしくないもあるか!これが私だ」
胸を張り、胸を叩く彼女。
汗で張り付く白いシャツ。
何故かゴクリと喉がなった。
「あー、はいはい」
慌てて視線を逸らす。
気恥ずかしくて無愛想な返事しか返せなかった。
「で、うたたは何で空は青いと思う?」
何故かニヤリと笑い、視線を逸らした僕の顔を覗き込む。
「そうだなぁ・・・」
呆れた様に振舞って、うりりの顔を押しのけて、再び空を眺め直す。
視界一面に青の世界が広がる。
彼女もまた僕の言葉を待つ様に空を見上げていた。
「じゃあそうだな、あれだ。宇宙はきっと濃い藍色なんだよ」
「いやいや、何故青いかだよ少年。空が」
「あぁ、だから宇宙が関係してくる。
きっと空の上、宇宙の色が空気と触れ淡くなって青く見えるんだ、だから青い」
「・・・そうか、空気は宇宙と触れている・・・か」
何を感じたか、首を捻りつつ眉をしかめられた。
「何だ?ここってそんなに真面目に考えるトコなのか?」
「ん?いや、そうじゃないんだけどね。ちょっと面白いかなって」
少し前までの威勢の良い笑みではなく、優しく微笑まれた。
「要するに絵の具と水の関係でしょ?」
「まぁそうなるな・・・。で、うりりは何で青いと思うんだ」
「そりゃあ、声が大きな人が、空は青いと言ったからさ!!」
悪戯な笑みを僕に向け、今日もまた一日が黄昏る。
「らしいな」
気づくと優しい笑みが漏れていた。
君と僕と 黄昏の青 今日はそんな青春の1ページ。