天界への階段
「またまたぁ~、そんな嘘言っちゃってさ!」
「嘘を言ってどうするんですか!」
「・・・・マジ?」
「ええ。神羅さんが確認した時には、既に息が止まっていたようで・・・・」
「僕がいない間に、一体何が起きたの?」
「・・・・実は、幸明と魔光霊命様は、兄妹だったらしいんです」
「ワオ!じゃあ、家族!?」
「あっ、ええ。実は、物凄く仲のいい兄妹だったらしいのですが、
大きくなるに連れて実力差が開き、段々溝が出来て行ったらしいです。
そして、最近になって、種族争いを始めた頃からは、
互いの意見が食い違い、話もしなくなったそうです」
「でっ、でも・・・・これからどうするの?
魔光霊命がいなかったら、僕達、何も出来ないよ!」
「はい。そうしたら、修さんを助けろと言ってました。
天界への道を開くことが出来る笛を渡してあると言っていたので」
「えっ・・・・?」
そう桜っちに言われて、ふと、亜修羅に投げ渡された何かのことを思い出して、
ポケットを探ってみると、やっぱり、銀の笛のようなものがあった。
「こっ、これ?」
「なっ、なんで凛君が持ってるんですか!?」
「一回亜修羅と会ったんだよ。その時に投げ渡されたんだ。
何かは教えてもらえなかったけど、とりあえず、もらっておいたん・・・・」
「行きますよ!」
僕は、最後まで言葉を言わせてもらえずに、桜っちに腕を引かれて走り出す。
「どっ、どこに行くの!?」
「とりあえず、天界へ行く階段を出現させなくちゃいけません!」
「神羅はどこに行ったの?」
「魔光霊命様を病院に預けた後、修さんを助けるらしいです」
「なるほど・・・・で、これから僕らはどこへ?」
「あの・・・・だから、天界への階段を出現させる為に、カンテス湖へ行くんです」
「ああ、あの、聖なる泉と言われてる湖?」
「そうです。急ぎましょう!」
「でも、天界と言うところに行って、何をするの?」
「とっ、とりあえず、カンテス湖に着いたので、僕の言う通りに動いて下さいね」
そう言われて腕を離されたから、僕は笛を取り出すと、大きく息を吐いた。
目の前にはとても大きな湖が広がっていて、その湖の中央には小島があった。
そこには大きな樹が生えていて、聖なる泉と言われてなくても神々しいものを感じる。
それだけでも神秘的なんだけど、さらにそう思わせる理由は、水の色にあったんだ。
普通の水は透明なんだけど、ここ、カンテス湖の水の色は、綺麗な青色なんだ。
それが更に神秘的に思わせるんだよ。
「えーっと、まずは、こうして、こうして・・・・」
桜っちは、一人ブツブツ何かを言いながら、
近くに転がっていた石で魔方陣のようなものを描くと、僕にそこに乗るように言う。
何が起こるのかワクワクしながら立っているけれど、何も起こらない。
「あれ?どうしたの?」
「あっ、そうでした!この塩を・・・・」
「えっ、塩!??」
「じっとしてて下さい!」
なんだかうそ臭いなって思うけれど、一応おとなしく魔方陣の真ん中に立っている。
すると桜っちは、魔方陣の外側の円に、
小さい山にした塩を一定間隔ずつおいて行った。
こんなんで何が出来るのかわからないけれど、やっぱりおとなしく立っている。
「そうしたら、凛君に残りの塩を振りかけるので、目を瞑ってて下さいね」
「えっ、そんな・・・・」
「ごめんなさい、世界を救う為だと思って我慢して下さい!」
「・・・・了解!」
僕は、思い切って目を瞑ると、サッと塩を振りかけられて、しょっぱい。
ため息をついて目を明けようとした時、突然周りが明るくなって、
思わず目が眩んだけれど、眩しくなったのはその一瞬だけだった。
「大丈夫ですか?」
「うっ、うん。でも、これに意味があるの?」
「はい、実はあるんです。
天界への階段を出現させるには、カンテス湖に入る必要があるのですが、
その際に体を清めないと、カンテス湖には入れないんです。
だから、体を清めたんですね」
「なるほど・・・・。で、次の手順は何?」
「次は、カンテス湖に入ってもらえますか?」
「了解!」
僕は、カンテス湖の近くまで歩いて行くけれど、中に入ることが躊躇われる。
入ってもいいと言われても、
こんなに綺麗な湖に足を踏み入れていいものかと躊躇われるんだ。
でも、それじゃあ、天界とやらに行けないから、
なんとかカンテス湖に足を踏み入れるけれど、その水の冷たさが尋常じゃない。
全身が震えるほどに冷たかったけど、
そのままジャバジャバと奥に向かって歩いて行く。
「中央の樹の場所まで行ってもらえますか?」
「桜っちは来ないの?」
「僕は、一応体を清めましたけど、
あんまり大人数で行ってはいけないかと思いまして・・・・」
「そっか。そっちの方がいいかもね。ものすっごい冷たいから」
水が腰の高さまで来た時に、やっと中央にある樹までたどり着いたけど、
これからどうすればいいのかな?
「で、これからどうするの?この樹の植えてある小島に乗っていいの?」
「あっ、ダメです!
その樹に向かってお辞儀をしてから、その樹の周りを三回回って下さい」
「えっ、めんどくさ・・・・」
そうつぶやきながらも、小島の周りを歩く。
けれど、樹の幹が思った以上に太くて、面倒だ。
やっとの思いで三回回り終えると、大きく息を吐いた。
「そうしたら?」
「そうしたら、小島に乗っていいですけど、
再び樹の周りを、今度はさっき回った方向とは逆向きに三回回って下さい」
「・・・・」
何とかため息をつかないように息を止めると、大またで樹の周りを三回回る。
「そしたら?」
「そうしたら、樹の幹に触りながら、願いを込めて、銀の笛を短く三回吹いて下さい」
「わかった!」
やっと笛の出番か・・・・と思いながら樹の幹に触ると、願った。
「どうか、天界への扉を開いて下さい。そして、魔界を助けて下さい!」
小さくつぶやくと、ポケットから笛を取り出し、短く三回吹いた。
すると、突然空が曇って来て、早くも雨が降って来る。
「なっ、何?どうなってるの?」
「凛君、戻って来ても大丈夫ですよ。天界への階段が出現しました」
「了解!」
僕は、安堵のため息をつきながらカンテス湖から出て来て、ふと振り返る。
すると、天界への階段が出現しているのが見えた。
不思議なことに、階段の先は雲を突き抜けていて、
その部分だけは雲が避けるように晴れていた。
「とっ、とりあえず・・・・上る?」
「はい、行きましょう!」
「よしっ、行くぞ!」
桜っちの勢いに乗せられて、僕は大きく返事をすると、
透明に近い金色の階段を上って行った。