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想造世界  作者: 玲音
第四章 種族争い
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救世主

「魔界の命運は、お前に任せた!」


亜修羅にそう言われた途端、僕は、その投げられた何かを受け取り、

壁を駆け上がって、上にある天井窓から外に出た。


本当は、亜修羅を助けたいと思うけれど、

いつも、あまりことを大袈裟に話さない亜修羅が、あんなに言うと言うことは、

よっぽど大変な状況なのだとわかった。

だから今は、逃げることが一番大切なことだとわかった。


しかし、逃げて来たはいい。

だけど、それからどこに行けばいいのかわからなくて、

天井窓から顔を出して様子を伺った後、僕は渋々、下に飛び降りた。


これじゃ、カッコいいどころか、カッコ悪すぎる・・・・。

あんなにかっこよく出て行ったのに、再びノコノコと帰って来ちゃって・・・・。


僕が戻って来たのを確認して、亜修羅が息を吐いた。

・・・・いや、表現を変えると、ため息をついたに等しいかもしれない。


だって!訳もわからないし、行き先もわからないのに、

あのままどこに行けって言うのさ?


僕はその反論を、そのまま口に出した。


すると、亜修羅が「最もだ」と言う顔をしてうなずいた為、

僕の方も、ため息が漏れる。


「じゃあさ、まず、何から教えてもらおうかな?」

「まずは、魔界のことを話そう」


「ああ、種族争いがどうこう言ってたやつか・・・・。

ふんふん、なるほどね、話してみて?」


「・・・・なんだか偉そうだからムカつくが、まぁ、そんなことも言ってられないな」

「そうそう♪」


僕の返事に、亜修羅が殺気のこもった目で睨んで来るから、

僕はシュンとなって、鉄格子の前に正座をして座った。


すると、亜修羅が笑みとは言えないものの、

殺気のこもった睨みをやめた為、僕は話を促す。


「それで?」

「今の魔界は、種族争いが起こっているよな?あれの意味から教えよう」

「おおっ、幾度と繰り返されて来た意味のない戦いの真実を!」


「そう声を上げるな。静かにしろよ」

「おっ、ごめん・・・・で?」


「あれは、神の娯楽の一つにされているものだ」

「・・・・ん?」


「どう言うことかと言うと、種族争いは、人間界で言う競馬のようなものだ。

俺達三種族に戦わせ、神達は、その様子を生中継で見ている。

自分達が賭けた種族が勝つように必死に祈りながらな。

敵種族が殺されれば喜び、

自分達の賭けている種族の命が絶たれても、悲しみもしない。


神達は、俺達妖怪のことを、単なる娯楽の道具だと思っている。

命だとは感じず、ただの娯楽の一つと考えている」


「と言うことは、僕達は、神の娯楽に付き合わされて、

毎回毎回大勢の命を殺し合ってると言うこと?」


「・・・・ああ、もともと争いなんか起きていない。

神達が、俺達を戦わせる為に、幻を見せる霧を魔界に投下し、争いを起こしている。

当然、魔界の神はそれを許さない。しかし、他の奴らにはそれが邪魔だ。

だから、魔光霊命を牢屋に閉じ込めた。


あいつさえ外に出せれば、魔界に漂っている霧を払って、争いごとをやめさせられる。

だから俺は、魔光霊命に頼まれた。

しかし、このざまだ。だから、お前が呼ばれたんだろう。やってくれるか?」


「うーん、大体わかったけど、ここって、どこなの?」


「ここは神域。神のみが生きることを許された世界。

そして、この世界のどこかの牢屋に魔光霊命は閉じ込められている。

だから、魔光霊命を助け出してくれ」


「でも、その前に亜修羅を助けなくちゃ!」


「俺は、一緒にいても邪魔になるだけだ。

面も割れているし、俺を助けたところで、役に立たない」


「それでも、僕は亜修羅を助けるの!」


「は?お前、さっきの話聞いてただろ?」


「でも、そうなの!

だから、待っててね、今直ぐ亜修羅をそこに閉じ込めた奴を殴りに行くから!」


「俺のことはいいんだ!魔光霊命を・・・・」


「とにかく!・・・・助けに来るから。待っててね」


僕は、亜修羅の言葉を大声で遮ると、

何か言っている亜修羅の言葉を最後まで聞かないで、天井窓から出て行った。








「あいつ、何考えてるんだ・・・・」


ため息をつきながら鉄格子から離れ、壁に寄りかかる。


それにしても意外だった。あいつが、あんな理不尽の殺しに怒りを表さないだなんて。

あいつは、他の奴らよりも、物凄く生死に敏感な奴だ。

そんなあいつが怒りを表さないだなんて・・・・。


そんなことを考えながら、ただ只管ここから出られる方法を考える。


神を閉じ込める牢獄と言っても、人間界の牢獄と同じようなもので、

警官がたまに見回りに来る。

違う点と言ったら、閉じ込められている奴が少ないってだけだ。


ため息をつきながら天井を見上げる。

そこから太陽の光りが見えるが、俺は凛みたいに超人的な身体能力を持っていない為、

壁を上るなんて無理だ。


ツルツルした壁で、何回か上ろうと試みたが、

摑まりどころもない訳だし、到底無理なのだ。


それにしても、あいつは、本当にとんでもない身体能力を持っていると思う。

ツルツルの支えのない壁を普通に上って、たまたま開いていた窓から出て行った。

本当に信じられない。


そんなことを考えながら天井を見上げていると、不意に、隣から声が聞こえた。


「お前、神でも妖怪でもないな。何者だ?」


「・・・・人に質問する時は、

まず自分のことを言ってから聞くのが礼儀じゃないのか?」


「ふん・・・・偉そうな口を叩きやがって。ガキが」


「話しかけるな。お前のような無礼な奴と話しているだけで虫唾が走る」

「いいのか?俺が助けてやろうって言ってるのによ」

「お前、何者なんだ?」


「『・・・・人に質問する時は、

まず自分のことを言ってから聞くのが礼儀じゃないのか?』だっけか?」


「・・・・俺は、妖怪・・・・頭脳種族族長、妖狐亜修羅だ。お前は何者だ?」


「俺は、前期頭脳種族族長、瑛雅だ」

「・・・・変な名前だな。まるで、人間界の映画じゃないか」


俺がボソッとつぶやくと、

そいつのいる方向の壁がダンッと音を立ててきしんだ為、口をつぐむ。


「それで、なんの用だ?」


「お前、魔界の神の魔光霊命に呼ばれて、ここに連れて来られたんだろ?

俺もそうだった。

だが、お前みたいに閉じ込められて、

魔界を救えないまま、百年もここに閉じ込められている」


「・・・・待て」

「なんだ?ガキ」


俺は、「ガキ」と言う言葉に思わず眉をひそめるが、

そのまま、不思議に思っていることを口にする。


「魔界には既に、前期族長と言うヨボヨボの爺さんがいたぞ。

それに、そいつにも会った。どう言うことだ?」


「・・・・ふっ、きっと、俺の爺さんだろうな。

前期族長のいなくなった今、その族長の権利は身内に託される。

俺の場合は、親父がいなかったんだ。だから、爺さんに渡ったんだな。その役目が」


「なるほど・・・・」


再び考え込む。なんだか、物凄い複雑になって来たようだ。

何より、こいつは、何を目的に話しかけて来たんだ?


「お前、俺に何をして欲しいんだ?」


「魔界にいる奴らを助けてやってくれ。

もう、これ以上無用な戦いの繰り返しは避けたい。そう言われただろ?烈火闘刃に」


「・・・・あいつは、お前は自分の言葉を聞かずに出て行ったと言っていたぞ?」


俺は、ただただ瑛雅の言葉に困惑するばかりだった。

今まで俺が教えられて来たこと、見て来たこと、全てがこいつの言葉と矛盾している。

ここまで逆転すると、疑いすら持たなくなる。


「それは嘘だ。俺は、烈火闘刃に言われ、ちゃんと技をもらった。

しかし、そいつの記憶は、技を託した時点でリセットされる。

きっと、幸明か何かにそんな呪文をかけられたんだろう。

そして、その呪文は、種族争いを二度と再発させないことによって消えるだろう」


「・・・・で、どうしろと言うんだ?」


「年に一回だけ、牢屋を空けてもらえる時期がある。

それが、明日の夜のことだ。その時、俺は抵抗をする。

そうすると、当然警官は俺を羽交い絞めにしようとする。

その時に、腰にぶら下げている鍵をお前の牢屋に向かって蹴る。

そうしたら、お前はその鍵を取って自分で牢屋を開け、天井窓から出ろ」


「お前はどうなるんだ?」

「神の掟は厳しい。だから、俺は殺されるだろうな」


「・・・・」


「これから大勢の犠牲を見るよりも、俺一人が犠牲になって、

魔界が助かった方がいいだろう」


「・・・・・」


俺は、無言のまま壁によりかかった。


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