万事休す
「さて、着きましたよ、亜修羅様」
「・・・・お前、何者だ?」
「何者って・・・・ただの警備員ですよ」
「お前・・・・」
俺の引きつった顔とは違い、そいつは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
こいつ、絶対に何かを隠しているはずだ・・・・いや、こいつはまさか・・・・。
「お前、幸明か?」
「・・・・気づきましたか、頭脳種族族長、妖狐亜修羅さん」
「いつから俺に気づいてたんだ」
「まぁ、最初から気づいていましたよ。
私は、どこでも見てますからね、カンテス湖に落ちたのも貴方でしょう?」
さっきまでの雰囲気とは全く変わって、今では物凄く上から目線だ。
しかし、最初から気づいていた。
こいつは、他の奴と何かが違うとわかっていたのだ。
しかし、まさか、幸明とは思っていなかったがな。
「まさか、ここでラスボス登場とはな」
「ええ、あなたの気を感じて、それが魔光霊命のものだとわかりました。
ですから、魔光霊命に頼まれて神域に踏み込んで来たと言う訳でしょう。
ですが・・・・我々の娯楽の邪魔をする者は、絶対に許しませんよ」
「お前!」
とっさに殴りかかろうとするが、体が何人かに押さえつけられたように、全く動かない。
「無駄ですよ。私を襲うには、あなたの力は弱過ぎます。
それでは、素直について来ていただきましょうか」
俺の体は、完全にこいつに支配されている。
本当は殴りかかりたいぐらいだが、素直に幸明の言うことを聞いている。
「そんなに怖い顔をしないで下さいよ。私は、みなの楽しみを守る為に働いている。
そんな善良な神を睨みつけるなんて、ぶしつけな妖怪ですね」
「クッ・・・・」
「とりあえず、牢屋にぶち込まれておいて下さい」
そう言われた途端、今まで周りに誰もいなかったのだが、
急にがっしりと腕を摑まれて、幸明から引き離されて行く。
物凄く悔しかった。
目の前にボスがいると言うのに、傷すら負わせられないなんて・・・・。
そして何より、音恩が幸明だと言うことにもっと早く気づかない自分が情けなかった。
羽交い絞めにされたまま地下に連れて行かれ、暗い牢屋に閉じ込められた。
せっかく神域に来たと言うのに、どうすればいいんだ・・・・。
「城の中、全く人気がないな」
「そうですね、おかしいぐらいです」
「ここに族長はいるのか?」
「僕に聞かないで下さいよ!」
「そんなにきつく言うなよ」
「でも・・・・僕にも色々あって・・・・」
「色々あるようには見えないけどな。
そもそも・・・・ここには危険な妖怪がいるんじゃなかったのか?」
「・・・・はい、ここにいるはずなんですが・・・・」
僕らは今、城の中にいて、凛君を探している。
凛君を見つければ、修さんも見つかるかもしれないからだ。
「あっ・・・・」
「ん?どうした?」
「凛君がいます!」
「あいつか?」
「ええ、戦闘種族の族長の子です」
・・・・あれ?
僕らは今、凛君に見つからないように影から凛君を見つけたんだけど、
なんだか様子がおかしい。
キョロキョロと辺りを窺っているから、どうしたのかな?と思っていると、
不意に振り返ったから、神羅さんに腕を引っ張られて壁に隠れるけれど、
見つかってしまったようで、こっちに近寄って来た。
「あっ、よかった!二人がいたのかぁ~。
なんか、気配感じるなぁ~って思って。よかった~」
「お前、よくそんな顔でこいつの前に来られるな」
「えっ、どうしたの?二人とも。
表情が冴えないけど・・・・それに、桜っち、怪我してない?」
「お前がこいつを・・・・」
僕は、とっさに神羅さんの口を塞いで、続きを話させないようにした。
今の凛君は、あの時の凛君じゃない。なら、それを知ったら傷つくに決まってる。
だから、言わせたくなかったんだ。
「神羅さん、ちょっと来て下さい」
僕は、神羅さんの腕を引きずって、凛君から離れたところで小声で話す。
「お前、いいのかよ?いつあいつに襲われるかわからないだろ?」
「それでも・・・・・今の凛君はまともな凛君です。だから、言って欲しくないです」
「でも!」
「二人とも、何やってるの!」
凛君が向こうの方で呼んでいる為、僕は、凛君の方に近づいて行こうとした。
それを神羅さんが止める。
「お前がいくら止めようが、俺は言うぞ」
「絶対に言うなよ。言ったら・・・・」
僕の殺気に気づいてか、神羅さんが今までの勢いをなくして、
ゴクリとつばを飲み込んだ。
「どうなるか、わかってますね♪」
「おっ、おう・・・・」
僕は無理に笑顔を作って言うと、怯えている神羅さんを置いて、
凛君の方に歩いて行く。
「二人とも、何やってたの?」
「何もしてませんよ。それより、凛君の護衛の方はどうしたんですか?」
「僕の護衛君はどうしたんだろうねぇ?うーん、どっか行っちゃった」
「そうですか・・・・それなら、修さんはどこにいるか知ってます?」
「ん?亜修羅なんか見てないよ。見つからないの?」
「ええ、まぁ・・・・」
「そっか・・・・このまま、生き別れになっちゃうのかな?」
凛君の悲しそうな顔を見て、自然と僕の顔も曇る。
やっぱり、生き別れになってしまうのかと思った。
「とりあえず、城から出てみる?」
「・・・・いや、城から出るのは危険かと・・・・」
「うーん、それじゃあ、どうしようか?」
そんなことを話しながら城の中を歩き回っていると、
急に凛君が何かにつまずいてバランスを崩し、近くにあった何かに摑まる。
その何かを凛君が引き下ろし、近くにあった壁が動き出した時には、
思い切り驚いてしまった。
そして、目の前に現れたのは、地下通路だった。
「ぼっ、僕、何かした!?」
「なんか、レバーか何かを引き降ろしたように見えましたけど・・・・」
「おっ、確かに、何かを握ってるけど。
・・・・これを引き下ろしたから地下への道が・・・・?」
「とにかく、行って見ましょう!」
「ゴーゴー!レッツゴー!」
物凄くテンションの高い凛君と一緒に、僕も地下への階段を下りて行った。