ラスボス登場か・・・・
俺はため息をつくと、その場から出ようとした。
すると、出て行ったはずのさっきの奴が戻って来た。
その手には、俺が見た奴らの姿と似たような服があった。
「これを着ろと言うのか?」
「はい、大丈夫です。ちゃんと、上級神者様用のお洋服でございます」
「いや、そう言う問題じゃないのだが・・・・」
「なにかご意見でもございますか?
可能な限りは最善を尽くしたいと思いますが・・・・」
俺はため息をつくと、手渡された服を眺める。
真っ白のローブに、金色の腕輪と、なぜか、ゴムがある。
「なぜ、ゴムなんか渡すんだ?」
「髪がとても長かったので、結んだ方がよろしいかと思いまして・・・・」
再び重いため息をつくと、トイレに行って、着替えてみる。が・・・・。
「どうみたって、変だ」
俺は、鏡に映っている自分の姿を見て、思わずため息をついた。
白いローブのようなものは眩し過ぎて目が眩みそうだし、
金の腕輪だって、でか過ぎて、手を上に上げれば肩の方にずり落ちて来る。
そして何より、髪だ。こんな格好をしているのに髪を一つに結んでいる。
なんだか変な気分だ。
ため息をつきながら鏡を見ていると、服を持って来た奴がトイレに入って来て、
俺の姿を見て手を叩く。
「とてもお似合いです!
・・・・っと、あの・・・・お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「亜修羅だ」
「それは、とてもお似合いのいい名前でございますね。
それでは亜修羅様、この場所に何の御用で?」
そう問われ、思わず体が反応する。
ここがどんな場所かも知らない。それなのに、そんなことを問われても・・・・。
「そもそも、ここはどこなんだ?」
「ここは、賭け事をする為専用に作られたドームでございます」
「なぜ、賭け事にそんな大きなドームを使う必要がある?」
「ここでは、神域での一大イベント、種族争いを生中継しているのです。
・・・・説明だけではわかりずらいと思うので、是非ご覧下さい」
「お前、名前は?」
「私は、音恩と言います。どうぞこちらへ」
そう言って、音恩は扉を開いた。
俺は、本当は見たくもなかった。
しかし、勧められているので、中に入らないと変だと感づかれてしまう為、
仕方なく扉の中に入った。
すると、今まで全く聞こえなかった大勢の歓声が聞こえて、思わず耳を塞ぐ。
そのまま目線を上げると、とても大きなスクリーンに妖怪達が映っていて、
戦っているのがわかる。
その映像を見て、大勢の観客が騒ぎ立てているのだ。
「こんなことをして、何が楽しいんだ?殺し合いを見ていて・・・・」
「私にもよくはわかりません。
しかし、幸明様のご命令なので、我々も逆らうことが出来ずに・・・・。
現に、魔界の神魔光霊命様は、魔界を守る為に、
幸明様に異議を申し立てましたが・・・・牢獄に閉じ込められてしまいました。
そのことを知ったみなは、嫌が応でも幸明様に従わざる負えません」
「・・・・そうだな」
その説明を聞いて、思わずため息が出てしまう。悪いのは神の世界で一番偉い奴。
魔界で言えば、魔王だ。面倒なことになったぞ・・・・。
「亜修羅様、よろしければ、VIP席でご覧になられますか?」
「なんだ?そこは?」
「VIP席とは、上級神者様のごく一部と、
特級神者様だけがご利用になられる特等席でございます。
亜修羅様は、その条件に当てはめられている為、VIP席にご案内出来ますが、
どういたしましょうか?」
「そこには、幸明はいるのか?」
「ええ、幸明様もいらっしゃいます」
それを聞いて、自然と大きく息を吐いた。
ゲームに例えればラスボスに匹敵する奴だ。
まさか、こんなところで出て来るとは思わなかった。
「そうなのか?」
「はい、どういたしましょうか?」
「連れて行ってくれ」
「わかりました。では、こちらへ」
すると、近くにあった上り階段を上って行く為、俺も後についていく。
どうやら、他の連中にはこの階段は見えていないらしく、
俺が階段を上っているのすらわからないようだし、
階段の前に来ても上って来ようとしない。
物凄くおかしいと思う。多分、特殊なバリアか何かを張ってあるんだろう。
それは、初級、中級神者には見えない。
それなのに俺は、神でもないのに見えている。明らかにおかしい。
しかし、そう思っている間にエレベーターが見えた為、そのエレベーターに乗り込む。
「VIP席は、八階にあるんです」
「・・・・ああ」
別に言わなくてもいいことを一々言うなんて、なんか変だ。
「そう言えば・・・・突如姿を消した、頭脳種族の族長の名前も、
亜修羅様と同じ名前でしたね」
そう言われて、自然と体が反応する。
音恩は、俺に背を向けているから表情は見えないが、
それが不意に言ったのではなく、故意に言ったような感じがしてならなかった。
自然と殺気立っていると、そんな気配に気づいた音恩が、振り返って笑顔を浮かべた。
「亜修羅様、どういたしましたか?」
「いや・・・・」
俺は、顔が引きつるのを感じた。
こいつ・・・・何かがある。
今さっきの微笑みの裏に見えた不思議な気は、
今まで沢山感じて来た気とは違うとわかった。しかし、妖怪ではない。
こいつは一体何者なんだ?