種族争いの意味
「ん?」
ゆっくりと目を開けると、そこは、天国のような場所ではなく、普通の野原だった。
おかしいと思いながら立ち上がると、突然声が聞こえて来た。
【助けて下さい】
「誰だ!?」
【私は魔界の神、魔光霊命です】
「魔界の神様が、俺なんかに何の用だ?」
【今の魔界は、悲鳴を上げています。それを助けて下さい】
「そう突然言われても・・・・」
【今、あなた達が見ている現実は、全て幻想なのです】
「?」
思わず眉をひそめる。何を言ってるんだ?こいつは?と思ったのだ。
【この種族争いとは、負の連鎖が折り重なったことを言うのです】
「・・・・は?」
【種族争いと言うのは、実際、起こってなどいないのです。
ただ、みなが幻の戦いによって争う為、多くの犠牲者が出るのです。
実際は、種族争いなど起こっていない。
それなのに、神々が幻を見せる霧を魔界に出現させたせいで、戦いを始める。
お互い、それぞれ別の幻を見て、戦うんです】
「しかし、なぜ、神はそんな霧を魔界に出現させたんだ?」
【それは・・・・】
そこで、魔光霊命が言葉を切る。何か嫌な予感がして、自然と大きく息を吐いた。
【神々は、時に悲しいことをします。その一つとして、種族争いがあります。
これは、神々にとっては娯楽の一つなのです。
どの族が勝つのかを賭けて、楽しんでいるのです。
私は、魔界の神として、それをやめさせようとしました。
しかし、それを楽しんでいる神々にとっては、私は邪魔な存在なのです。
だから、牢獄に閉じ込められてしまったのです。
どうか、神々の欲望をあなたの技で喪失させ、私を助けに来て下さい。
そうすれば、魔界を元に戻すことが出来ます】
「・・・・お前を助ければ、死んだ奴を助けることが出来るのか?」
俺の問いに、魔光霊命は答えない。
・・・・やっぱりな。
「わかってるさ。
いくら魔界の神と言ったって、そこまで器用なことは出来ないよな?」
【・・・・それでは、無理ですか?】
「何がだ?」
【今の魔界を助けることを拒みますか?私を助けることを、嫌がりますか?】
「・・・・フンッ、もう、死んでしまった奴らは助からないが、
このまま戦争を続けても無駄なだけだ。拒む訳ないだろう」
【それなら!】
「ただ、その賭け事をしている神の安全は、わからないからな」
【やめて下さい!いくらあなたが強いと言っても、相手は神なのです!
いくら最低でも、神なのです!楯突くのはやめて下さい!
あなたには死んでほしくありません!】
魔光霊命の言葉に、思わずため息をついてその場に座る。
全く、神って奴は。これだから嫌いなんだ。
世界の主権を握っているからと言って、好き勝手にやりやがって。
だから、尊敬なんかしたくない。
しかし、力を持っているのは確かだ。一応神だからな。・・・・理不尽な話だ。
「俺は、神だろうが何だろうが、気に食わない奴は気に食わない。
だから、お前には関係ない」
【しかし・・・・】
「話がそれだけなら、早く、神達がいるところに連れて行ってくれ」
【それは出来ません。今の私は、牢獄に閉じ込められている状態です。
ここは、神を閉じ込める牢獄なので、私の力も使えず、
今も、後もう少しで通信が・・・・】
その時、突然ガタガタッと言う音がして、
魔光霊命の悲鳴が聞こえた後、何も聞こえなくなった。
立ち上がって空を見上げるけれど、もう、魔光霊命の声が聞こえることはなかった。
ため息をついて下を向いた時、不意に頭に何かが落ちて来て、思わず舌打ちをする。
大きいものではないが、結構固くて痛かったのだ。
何が落ちて来たのかと思って探してみるが、中々見つからない。
結構小さいことはわかっていた。
しかも、頭の上に落ちて、どこに飛んで行ったのかがわからない。
しばらく探して、ようやく見つけることが出来たが、それは、笛みたいなものだった。
しかし、吹いてみても、音が出る訳でもなく、スーッと言う変な音しか出なかった。
だが、俺は何となくわかった。これは、魔光霊命がくれたものだと。
だから、何かに使えるのだろうと思い、その笛をポケットに入れると、
どこだかわからない草原を歩き出したのだが・・・・。
そもそも、ここってどこなんだよ?
そう思い、足を止める。
俺は確か、凛に冥道に蹴り込まれ、そのまま意識を失い、
目が覚めたらここにいたんだ。しかし、ここがどこなのか・・・・。
ため息をついて一歩を踏み出した時、突然地面がグニャリと柔らかくなって、
体がズブズブと地面に沈んで行く。
何が起こったのかわからないが、物凄く気持ち悪い。
なんせ、体が地面に沈んでいくんだぞ?まるで、底なし沼に沈んで行くようだ。
しかし、そんなのどうだっていい!
俺は、必死でもがいたが、やがて、顔まで沈んでしまって、何も見えなくなった。
「神羅さん!無茶しないで下さい!」
「あっ、ああ。大丈夫だ。気にしないでくれ」
そう言って無理に笑う神羅さんは、とても大丈夫そうには見えない。
「あの・・・・もしよかったら、僕が肩を貸しますから、無理しないで下さい」
「ああ、悪いな。でも、急がないと族長が・・・・」
「大丈夫ですよ。修さん、約束したんですよね?必ず帰って来るって。
それなら大丈夫ですよ!修さんは強い方です!」
僕がそう言うと、神羅さんはため息をついた。
なぜだかわからないけど、表情が悲しそうだ。
「お前は、族長のことを信頼してるんだな」
「えっ、そんなことないですよ!・・・・って訳でもないんですけど、
神羅さんの方が、僕なんかよりも信頼していると思いますよ?」
「いやいやそんなことはない。
俺は、族長を信頼してると言っても、ピンチの時だとパニックになっちまう。
そうなると、自分が族長を信頼してないんだなぁ~って実感するんだ」
「・・・・確かに、そう思うのもわかりますけど、
信頼するのと心配するのは違うと思いますよ?」
僕がそう言った時、不意に肩に掛かる力が強くなって、思わず顔を歪める。
肩を貸すと言ったら、神羅さんは素直に僕の肩を借りて来たんだけど、
不意に僕の方に体重がかかって来たから、重くなっちゃったんだ。
神羅さんは、結構体が大きい方だから、そんなに太ってはいないんだけど、
むしろ痩せてる方なんだけど、重い!
少なくとも、僕よりは絶対重い。
そして僕は、自分の体以上に重い物を持ち上げられない。
僕は、何とか顔を歪めながら神羅さんの方を向くと、なんと!目を瞑っていた。
そして、寝息まで聞こえる!?
「しっ、神羅さん!起きて下さい。重いです!」
どうやったらこんな状況で眠れるんだろうって思うけど、
今はそんなことよりも、体重が重い!
眠っていない時は意識があるから、自分でちゃんと歩いてくれるけど、
今は眠っちゃってるから、僕に全体重がかかって、引きずっているような状態なんだ。
このままじゃ、僕が持たない!
「起きて下さい!」
耳元で悲痛な叫びを上げると、やっと目を開いてくれた。
「おっ、ああ、悪いな」
やっと僕にかかる体重は軽減されたけれど、体中が悲鳴を上げている。
それぐらいキツかったんだ。
「今、どこにいる?」
「後もう少しで城に着きます」
「そうか、なら、もう一眠り・・・・」
「やめて下さい!お願いします!」
「嘘だよ~。本気にしなくていいと思うよ。さて、ありがとな。もう一人で歩けるぜ」
「だっ、大丈夫ですよ、僕に気を遣っているんなら・・・・」
「いやいや、そう言う訳じゃない。本当に大丈夫なんだ」
そう言う神羅さんの笑顔は、さっきの弱々しいものとは違い元気そのものだったので、
僕はホッとした。
それにしても、さっきまで死にそうなぐらいだったのに、
どうしてこんなに急に元気になったのかな?
もしかして、さっきの数秒の睡眠で治ったとか・・・・。
いや、さすがにそれはないよね、それが出来たら、化け物だもん。
「おっし、行くか!」
「はい、頑張りましょう!」
僕らは、目の前に立っている城を見ると、ため息をついた。
なぜか、嫌な予感が物凄くするんだ。だけど、それが怖くて立ち止まっていられない。
だから、ため息が出ちゃったんだろうね。