一人で城へ
「族長、何ボーッとしてるんですか?」
「・・・・いや、何でもない。さっさと行くぞ」
「族長、一人で突っ込まないで下さいよ?」
「わかってる」
「そう言いながらも、早々と俺達から離れようとしてるだろ?」
神羅の言葉に、思わずビクッとする。
・・・・なぜ、俺の気持ちがわかったのだろうか?自然と体が引いていたのか?
「とりあえず、八番隊の一、二、三班は西側の大渓谷方面を行け!
四、五、六班は、中央首都方面へ!
七、八、九班は、東側の運河の方へ行け!
残りの班は、また指示を出す。それまで、俺と一緒に族長を守れ!」
「はい!」
八番隊の連中が、威勢のいい返事をすると、速やかに移動をして行く。
ここで説明をして置くと、何番隊とか言っているだろう?
その中でも、沢山の班に分かれているらしく、一部隊で二百人近くいる。
だから、何班かに分かれているんだろう。その中の一斑は、約二十人ぐらいだ。
「どう思う?」
「・・・・何がだ?」
「魔界の様子だ。このまま魔界は壊れてしまう・・・・って、思わないか?」
「・・・・確かにな。魔界が悲鳴を上げているようだ。だが、一つわかることもある」
「何がわかるんだ!?」
「この争いは、無意味に繰り返されている。だからきっと、何か原因があるはずだ」
「きっとってなんだ?」
「・・・・」
そう聞かれてもわからない。ただ、この種族争いには、何かが関連しているはずだ。
しかし、一体それが何なのかがわからない。
ただ、魔界をこんなにすると言うことは、よっぽどの何かだとは思った。
「まぁ、とにかく、城に行こうぜ!」
「どうして?」
「城が一番安全なんだ。だから、城に行こう!」
「俺は、城になんか行かないぞ。戦うつもりなんだ」
「いやいや、族長さん、言いましたよね?『戦場に行かせてくれ!』って。
『戦わせてくれ!』とは言わなかったじゃないか~」
神羅の言葉に、思わず黙り込む。
確かに俺は、戦わせてくれとは言っていない。
しかし、そんなのはズルイではないか。単なる子供の言い訳みたいだ。
「そんなの、ガキの言い訳だぞ?」
「この際、ガキの言い訳だろうがなんだろうがどうだっていいんだ。
族長を危険な目に合わせない為なら、なんだって使うさ。
と言うことで、城に行きましょう!」
「・・・・チッ」
俺は舌打ちをすると、仕方なく神羅の後について行く。
普段なら、ここまで素直に誰かの言うことを聞くことはないだろう。
なら、なぜ、今回は素直に言うことを聞いたのか。
それは、今現在の魔界の様子だ。
もし、これが普通の状態ならば、神羅を振り切ってでも一人で行動しようとする。
しかし、今はこんな状態だ。素直に神羅の言うことを聞くしかない。
今の魔界の現状をよく知っているのは、俺でなく、神羅だ。
なら、神羅の言うことを聞くしかない。
それに、城に何かを感じるんだ。だから、素直に言うことを聞いた。
「まぁ、族長も、バカじゃないですもんね!」
「ふんっ、人間界に帰ったら、お前のことなんか忘れられるんだろ?」
「まっ、まあな。
種族争いが終われば、俺は護衛として族長に付き添わなくて済むから、お別れだな」
「そうか。それならいい」
大きく息を吐いて、城への道のりを行く。
途中で襲われるのは当たり前だが、俺の周りを大勢の妖怪が取り囲んでいる為、
俺は何もしなくても、勝手に倒してもらえる。
しかし、殺していると思うと、嫌になる。
殺さなくてもいいと思っても、狂命状態になった奴らは、自ら命の犠牲にしてでも、
守るべき人を守りぬくから、結果として、あまり変わらないのだ。
その時に殺さなくても、他の奴が殺すかもしれない。
もし、そいつが殺さなくても、いずれ力尽きる。
・・・・こうなっては、死への連鎖は止まらないんだ。
ため息をつきながら歩いていると、目の前を歩いていた神羅にぶつかる。
「何だよ!」
「シーッ」
突然振り返って、口の前に指を立てる神羅を見て、自然と緊張が走った。
そして、自分も小声で話しかける。
「どうしたんだ?」
「なんか、物音がするんだ。今、一応数人の奴らが安全を確認してるんだが・・・・」
その時、突然、ガシャン!と言う音がしたかと思うと、上から何かが落ちて来た。
しかも、俺の真上に。
「危ない!」
とっさに突き飛ばされ、俺は難を逃れたが、神羅が落ちて来たものの下敷きになった。
「おいっ、大丈夫か!」
俺がそう言って近付いた時、上に乗っかっているものを見て驚いた。
「お前・・・・どうしてこんなところに・・・・」
「あっ、修さん・・・・ごめんなさい」
「なっ!」
窓を割って落ちて来たのは、桜木だった。
桜木は力なく謝ると、そのまま目を瞑ってしまった。
俺は、何がどうなっているのかわからないまま、とにかく桜木を退かし、
下でつぶれている神羅に話しかける。
「おいっ、大丈夫か!?」
「・・・・族長、俺はかろうじて生きてますぜ。
ただ、ちょっと休憩が必要みたいだ。だから・・・・」
こっちもそのまま気を失ってしまい、うろたえるが、慌てて指示を出す。
「神羅を直ちに砦に連れて行って看病しろ。後、こいつも頼む!」
「しかし、族長・・・・こいつは確か、転生種族の族長じゃ・・・・」
「今はそんなこと言ってられる場合か!」
「はっはい、了解しました。しかし、族長は何処へ?」
「お前らは、そいつらを守ることを最優先にしろ。
俺は、城の中に入って、何が起こっているのか確認をして来る」
「それなら、我々も・・・・」
「お前らは来なくていい。俺一人で行く」
「しかし・・・・」
そう言うみなのことを、一人の妖怪が手で制した。きっと、班長か何かだろう。
「わかりました、族長様。
我々は、この者達を安全に砦に連れて行くことに専念します」
そう告げる妖怪に数人の妖怪が抗議の声を上げるが、そいつに睨まれて、黙り込む。
「ああ、話がわかる奴が一人でもいてよかった」
そのまま歩いていこうとしたが、今さっき妖怪達を納得させた奴に呼び止められる。
「しかし、族長様。一つお願いがあります」
「・・・・なんだ?」
「必ず、生きて帰って来て下さい。でないと、私の首が飛びます」
そう言われて、自然と微笑みが浮かぶ。
そして、無言で手を上げると、そのまま城の中に入った。
何かを答えるなんて出来ない。
あの笑みだって、余裕の笑みと思った奴は何人もいるだろうが、
俺は、この城に入った時点で、絶対何かがあると確信があったのだ。
だから、はっきり言うと、怯えていた。
しかし、みなにその素振りを見せることが出来ずに、笑みを浮かべたのだ。
何があるのかわからない。しかし、何かがある。そう、俺の勘は言っているのだ。