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想造世界  作者: 玲音
第四章 種族争い
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幸か不幸か

「族長は死んだ・・・・」


その言葉を聞いた途端、ガタンッと大きな音を立てて立ち上がってしまった。


「えっ・・・・うっ、嘘ですよね?」


「実際のところはどうかわからない。

ただ、辺りが火の海になっていて、そこに、152の死体は見つかったが、

族長と思われる死体だけが見つからなかった。だから、骨まで焼かれたんだろう」


「そんな・・・・」


その言葉を聞いて、自然と足から力が抜け、ペタンと座り込む。

ケータイを握る手が震えて、ゴクリとつばを飲み込む。


冷や汗がたまらないほどに流れ出ていて、

脱水症状を起こすんじゃないかと自分で思えるくらいに汗を掻いていた。


「ところで、お前は何者なんだ?」

「・・・・たっ、ただの・・・・」


喉がカラカラになって、それ以上の言葉が出て来ない。


しばらく無言が続くと、やがて向こうがしびれを切らしたようで、

何も言わずに通話が切れてしまった。


でも僕は、通話の切れたケータイを耳に当てたまま、床に座り込んでいた。


立ち上がれない。そもそも、立ち上がろうと言う気すら起こらず、

頭の中が真っ白になって、石のように固まってしまったんだ。


しばらくした後、急に警報が鳴ったかと思ったら、冬眞が部屋に飛び込んで来て、

動けない僕の腕を引いて部屋を飛び出す。


そして、やっと僕は正気に戻って、何があったのか慌てて問いただす。


「なっ、何があったんですか!?」

「砦に侵入者が入って来たんだ!」

「ぼっ、僕はこれからどこに連れて行かれるんですか?」


「とりあえず、安全な場所に連れて行かなきゃいけないんだが・・・・。

それには、一回外に出なけりゃいけないんだ」


「えっ・・・・」


冬眞に言葉に、自然と顔が蒼ざめるのがわかった。

建物の中でさえこんなに苦しいのに、

外になんか出たら、僕はどうなっちゃうんだろう・・・・?


「・・・・我慢出来るか?」

「そうしないと安全な場所にいけないなら、行くしかないじゃないですか」

「・・・・だよな。おっし、なら、行くぞ!」

「えっ、もうですか・・・・?」


僕の言葉を聞かずに、冬眞は僕を引きずって行くと、地上に出てしまった。

僕は、自然と目を瞑って息を止めたけれど、感覚でわかる。


地獄のような景色が目に浮かんで、とても目なんか開けられなかった。


僕は、目を瞑りながらケータイを取り出すと、修さんに電話する。

凛君であんなことがあったから、修さんも何かあるかもしれないと不安になったのだ。


「あっ、もしもし?」

「・・・・」


電話が通じたと思って言葉を話すけれど、

その途端ブツッと言う音がして、通話が切れてしまった。


「どうした?」

「・・・・切られてしまいました。どうしたんでしょうか?」

「お前、空気は平気なのか?」

「えっ・・・?」


そう言われた途端、驚いて目を開いてしまった。


そして、目を開いたことを悔やんだ。

慌てて目を瞑るけれど、物凄い光景が脳裏に焼きついて、忘れられない。


その光景を見た途端、不意に体が熱くなって、

今まで悪かった体調がよくなった気がした。

おかしいとは思うけれど、その残酷な光景を見て、体調がよくなったのだ。


「なっ、なぜか・・・・体調がよくなりました。外に出ても、全然平気です!

さっきは苦しかったんですけど、今は、苦しくもなんともありません」


「そう大声を出すな!」


冬眞に注意をされて慌ててうなずいたけれど、今度は逆に、体が熱い。

何が起こったのかわからないけれど、さっきの寒気よりはいい・・・・のかな?


「でも、まぁ、体調がよくなったのはよかった」

「はい!よかったです!」

「・・・・でも、今度は顔が赤くないか?」

「はい、逆に熱いんですよね」


僕がそう言った途端、冬眞がハッとした顔をした後、急いでどこかに連れて行く。


「なっ、なんですか?ここ、どこですか?」

「ここは城だ。魔王達はとっくに逃げたから、誰もいないはずだ」


「なんでこんなところに連れて来たんですか?」


「ここなら安全だと思ったし、何より、誰にも見られない」

「・・・・は?」


僕は、冬眞の言葉の意味がわからなかった。なぜ、誰にも見られちゃいけないのか。


「覚醒するかもしれないだろ?」

「・・・・覚醒?」


「生き物は、最大で三回覚醒することが出来る。

ただ、滅多なことがない限り覚醒はしない。

お前の場合は、人間なのに魔界の空気などを吸い、違う世界に触れたことで、

覚醒をするかもしれないと思ったんだ。

覚醒する前に起こる状態異常として、意味のない体調不良。そして次に体が熱くなる。

こう来ると、大体の奴は覚醒するって気づく」


「なら、なんで誰にも見られない場所に連れて行くんですか?

それに、僕は元々魔界に住んでいたので、なんで今更覚醒なんて・・・・」


「多分、種族争いが起こって、

魔界の空気が前よりも多くの妖気を含んでいるからだろう。

それから、覚醒した直後は、体力や視覚、聴覚嗅覚などが鈍ったり落ちたりするんだ。

だから、覚醒したばかりだと言うことに気づかせないようにする為だ」


「・・・・僕、ちょっとトイレに行って来ます」


なんだかよくわからない言葉を沢山言われて、ため息をついてしまった。

とりあえず一人になりたくて、

城の中のトイレの個室に入ると、壁に寄りかかってため息をつく。


覚醒のことは、昔勉強したことがあるけど、

あの時は、まさか、自分の身に起こることだなんて思っていなかった。

だから、いざ「覚醒する」と言われても、あまり実感が湧かない。


しばらくしてからやっと気持ちが落ち着いてトイレから出てみるけれど、

外で待っているはずの冬眞がいない。


「あれ?どこに行ったんですか?」


僕がそう言って後ろを向いた時、見慣れた姿を発見した。


「りっ、凛君!よかった。死んでなかったんですね!本当によかったです」


そう言って喜んだのも束の間、フッと風が通り過ぎて、僕の頬が切れた。


何が起こったのかわからないけれど、

慌てて後ろを向くと、凛君が僕に刀を向けて来た。


「えっ・・・・?」

「お前が裏切ったんだ。殺されても、憎むなよ」


そう冷たく言い放たれ、凛君に襲い掛かられた。その途端、僕の体から熱が引いた。

今までの熱さが一瞬にして消え失せたんだ。


そして、死んだんだなって思った。


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