過去と今と・・・・
「なに・・・・これ?」
「魔界の風景でございます」
「・・・・地獄じゃん」
僕の今見ている風景。それは、地獄のような魔界の様子だった。
「族長、立ち止まっている時間はありません。いつ襲われるかわかりませんから」
「・・・・でも!」
僕は、お化け屋敷に出て来るお化けに腰を抜かした子供のように動けなくなっていた。
その光景があまりにも残酷過ぎて、気が狂ってしまいそうだった。
こんな中で戦い続けていたら、どんな人でも気が狂ってしまう・・・・。
そう思っていた時だった。
突然後ろから斬りかかられて、それを避けることが出来なかった。
「つッ」
顔を歪めて肩を押さえると、結構深く斬られていた。
慌てて後ろを向くけれど、敵がどこにいるのかわからない。
「族長!大丈夫ですか?」
「あっ、うん。大丈夫。でも、どうして気づかなかったんだろう?
普段なら、斬られる前に気配を感じることが出来るのに・・・・」
「族長、とにかく急ぎましょう。この場は危険です!」
「うん」
そう言われて、やっと体の緊張がほぐれたけれど、なんだか息苦しく感じる。
空気が汚染されたように変な色になっていて、上手く説明できないけど、
ゲームの世界とかで、紫色の空気の場所とかたいていあるじゃないか。
ああ言う図がどこまでも続いていると思ってくれたらいいかな?
ゲームの世界でしかないと思っていた光景が、
今目の前に広がっていると考えてくれたら一番わかりやすいかも。
そんなことを思っている時、不意に死角から攻撃をされて、思い切り吹っ飛ばされる。
「・・・・なっ、なんなんだよ、もう~~~」
僕は、痛むお腹を押さえながら立ち上がる。
そして、なんだか自分の感覚が鈍っていることに気づいた。
そして、押さえようのない怒りが沸々と湧いて来て、
今にも感情が爆発するような気がした。
「お前、他種族の族長だな?」
「・・・・お前が、ずっと僕のことを蹴ったり殴ったりした張本人だよね」
自然と冷静な口調になって、微笑みが浮かべられる。
「なっ・・・・」
「痛い目を合わせた分、君にも報いを受けてもらうよ」
僕は、物凄く怒っていた。
何でかわからないけれど、このままだったら自分じゃない誰かに支配されそうで、
何とか体を押さえつける。
そうでもしなしと、僕を襲って来た人を殺してしまいそうで、何とか感情を抑える。
前みたいな悪夢を繰り返してはいけない・・・・。
「チビ!」
「チビじゃないよ!」
「うるせーよ、化け物!」
子供達が、僕に向かって石を投げつけて来る。
「やめなさい、この子は化け物の子なのよ。怒らせでもしたら、大変なことになるわ」
「そうだぞ、危ないからこっちに来なさい」
お父さんお母さんに手を引かれて、
子供達が蜘蛛の子を散らすようにいなくなって行く。
残された僕は、血だらけの体でずっとその場にうずくまっていた。
泣いていたことを誰にも見られたくなくて、ずっとうずくまっていたんだ。
夜になって寒くなって来たけど、誰も僕に気づかない。
両親は遠くの村にいて、おばあちゃんに僕を預けてる。
そんなおばあちゃんも、僕のことを怖がっているから、
心配して呼びに来るなんてことはない。
自分が、物凄く惨めに思える。
どうしてみんなが僕のことを化け物って言うのかと言うと、
僕は、両親とも戦闘種族の子だから。
そして何より、冥道を開けることが出来るからだ。
戦闘種族と言うだけでも「えっ・・・・」ってなるのに、
冥道も開けるから、化け物って呼ばれてるんだ。
この村は、本当は頭脳種族の人しか住んじゃいけないことになっているのに、
両親が僕をこの村に置き去りにしちゃったから、僕は孤立してる。
「おい、そんなところでうずくまってると、風邪ひくぞ」
「・・・・お兄ちゃん?」
僕は、服の裾で涙を拭うと、声の聞こえた上を見上げる。
逆光で顔は見えにくいけれど、優しい微笑みだけは見える。
「おう、久しぶりに帰って来たら、お前、またいじめられてんのか?」
「・・・・だって、僕は化け物だから」
「お前、またそんなこと言ってんのか。毎回言ってんだろ?」
その人は、僕の隣に座ると、頭を小突いて来た。
「お前は、化け物なんかじゃない。
周りの奴らがどう言おうが、お前は化け物じゃないんだ」
「でも・・・・みんな、僕のことを化け物だって嫌って・・・・」
「周りの奴らが嫌っても、俺はお前の味方だ。ずっとな」
そう言って、僕の頭に軽く手をのせて来る。
その言葉と優しさが嬉しくて、僕は、違う意味で泣いた。
嬉しくて苦しくて、ため息をついた。でも、その一生も・・・・・。
その次の日、僕は全てを破壊した。
「ごめんなさい、許してください!」
「・・・・今まで差別して来た罪、僕の苦しみ、その身で味わってみなよ」
僕は、鬼になった。そして、血に染まったんだ。
もう、鬼になりたくない。血に染まりたくなんかない。
「僕は・・・・」
「族長!」
不意に呼ばれて、一気に目が覚める。
慌ててあたりを見渡すと、敵の集団に囲まれていた。
・ ・・・どうしよう。
いくら戦闘種族の族長と言っても、
狂命状態に陥った妖怪百人に囲まれたら手に負えない。
「族長、ここは俺に任せて下さい」
「えっ、錬賭君は?」
「俺は、族長を守るために生きているんです。だから、死ぬ気で守ります」
「でも・・・・」
「急いでください」
僕は、首を横に振った。そんなことしない。
一人で置いて行くなんて、絶対に出来ない。
「僕は、守るのは好きだけど、守られるのは好きじゃない。だから、逃げない。
錬賭君の方が逃げた方がいい。僕は、こいつらを倒してから行く」
「・・・・でも」
「大丈夫。任せな!」
「・・・・すみません。直ぐに加勢を呼んで来ます」
そう言うと、錬賭君は、足早にその場を去って行った。
「さ~て、行きましょうかね」
もう、人が死ぬのは嫌だ。だから、守るんだ。自分の命を犠牲にしても、ね。