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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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不思議な気持ち

「なんだ、紙の束が大量に入ってるだけじゃねぇか。何だこれ、小学生と中学生の時の答案用紙じゃないか」

「・・・・なんだって?」

「お前、小さい頃はよっぽど頭が悪かったんだな。零点ばっかだぞ。いい方で二十点未満。どんだけ勉強したんだよ」

「そうか」


男の言葉を聞いて、一瞬目が点になったが、取りあえず依頼書が見られなくてよかった。しかし変だ。俺が人間界に来たのは最近。高校に入ったばかりの時。だから、小中学生のころのテストの答案なんて・・・・。


そこでふと思い浮かんだ顔がある。きっと凛が自分の答案用紙を入れたのだろう。あいつのやり方は気に食わないが、精一杯言い訳を考えてくれる。


しばらくクラスメートは俺の部屋を物色しまくった後、何もないとわかると、謝りもしないで帰って行った。


みなが帰った後、すぐに凛が帰って来た。そして、答案用紙を押入れから出すと、火で燃やし始めた!?


「おい、お前なにやってる!?ここは家の中だぞ。そんなものを家の中で燃やしたら・・・・。もしかして、それをやって家が全焼したのか?」

「うん。まぁ」

「じゃあ、やるな!ここは俺の家だぞ!!」


バコッと凛を叩く。すると、凛はその弾みでライターから手を離した。ライターは火が消えたからいいが、答案用紙も落としたからそこら辺に散らばっている燃えやすい物に引火して、ドンドン燃えて行く。そして、押入れの奥の方にあった依頼書も燃えそうになった。


「あっちゃー」

「あっちゃー。じゃない!早く火を止めろ!!」


凛はよたよたと歩いて、曲がった蛇口を思い切りひねる。すると、水がシャワーのように部屋中に飛び散って、勢いを増していた炎を一気に消した。火事の時は、この水道は役に立つかもしれない。


「ふぅ、危なかった・・・・」

「おい、危なかったじゃない!!もう少しで全焼しそうになったじゃないか。もし全焼したら、お前が弁償金だせよな」

「えっ、お金ないのわかってるでしょ?」

「とにかく、俺の家にいるならおとなしくしてろ!学校でも大変なんだ。家にいる時まで気を使わせないでくれ」

「だってさ、恥ずかしかったんだもん。小中学生の頃の答案用紙」

「わかったか?」

「・・・・はい」


凛はやっと反省して、押入れの中に入ろうとした。だけど、また悲鳴を上げて正反対にあるタンスに飛び込んだ。


「まだゴキブリを怖がてるのか?」

「だって、嫌いなものは嫌いなんだよ。ゴキブリを殺すスプレーとか買ってないの?」

「金の無駄だ。そんなのが無くても、スリッパでつぶせば済む」

「いやぁ!ゴキブリがつぶれたのって気持ち悪いんだよ。一層!!」

「お前の悲鳴の方が気持ち悪い。本当は女なんじゃないのか?」

「そんなことないよ。ちゃんとした男だよ」


そう言って出て来た凛は、男にも女にも見える。中性的と言うのか、どうなのか・・・・。


「じゃあ、ゴキブリのつぶれた死骸くらい一時間でも見ていられるほどになれよ」

「ダメだよ。気持ち悪いじゃん」

「ったく、そんなことを言っていたら妖怪と何か戦えないんじゃないのか?」

「そんなことはないよ。ほら、証拠写真」


凛は袖から写真を取り出した。そこには、ゴキブリよりも遥かに恐ろしく気持ちの悪い物体がいるが、凛は怖がっているようには見えない。ゴキブリだけに異常なまでの反応を起こすのか?こいつは。


それよりも、こいつは妖怪と戦うたびに記念写真を撮っているのか?おかしな奴だ。


「それで、今のところ、僕はどれくらい?やっぱりまだダメ?」

「百点中十点だ」

「ええぇ!!?それだけ?随分頑張ってるのに?」

「ああ、まだまだアルバイトにするには不足している部分が多すぎる。後四日で挽回不能なくらいにな」

「きっ、厳しい・・・・」


凛はガクッと肩を落とすと、そのまま、部屋の隅に体育座りで座り、ドロ~ンとした雰囲気を出し始めた。おいおい、そんなことで俺が同情すると思うなよ。


しばらくはそれを無視して宿題をやっていたが、やけにそっちの方向が気になる。確かに、凛が来てから大変なことは色々あったが、面白いと思うこともあったし、何かと変な印象は持たれつつも、上手い言い訳を言ってかばってくれている。そこのところを考えてやらないとな。


「さっきのは訂正する。百点中、十二.五点だ」

「あんまし変わってないじゃん」

「二.五点上がったんだ。それ以上は、自分何とかしろ」

「そんなぁ、もう二十点ぐらい!」

「ダメだ」

「じゃあ、十五点!」

「断る」

「じゃあ、十点!!」

「いい加減にしろ!」

「じゃあ、五点でいいから・・・・」

「百点中、三十点だ」

「・・・・えっ?」


俺が急に言葉を変えて来たから、あまり認識が早く行われなかったのか、聞き返して来た。ああ、俺は段々甘くなって来てるな。極悪非道な妖狐も、ここまで甘くなるとは誰も思うまい。


「嫌なら零点だ」

「ありがとう、亜修羅!やっぱり亜修羅は優しいね!」

「二十点だ!」

「照れちゃって♪」

「うるさい、十点だ!」


凛のペースにはまるものの、不快な気持ちは一切しなかった。普通の相手ならば、相手のペースにはまったと思うと、不快な気持ちがするのに、自然と凛に大してはそう言う気持ちが起きない。実に不思議な妖怪だ、こいつも。









今日は、土曜日で学校が休みだから、凛はまだ起きない。もう七時だと言うのに。


今日は休みの日だから、六時に起きたのだが、平日は五時に起きている。早いと言う人もいるだろうが、俺は小さい頃からずっとその時間帯に起きているから、そんなに早いと思わない。


凛がいなかったら、もう出かけている時間帯なのだが、凛を一人で家に残すのはかなり危険な為、凛が起きるまで、昨日の宿題の続きをしていることにした。


二時間後、凛はやっと起き出した。九時まで寝たと言うのに、まだ眠たげだ。どれだけ眠れば眠気が治まるんだろうか、こいつは。


「凛、早速だが出かけるぞ」

「へぇ、何で?」

「食料や、その他の消費物を補充するためだ」

「亜修羅が一人で行って来れば?」

「いや、凛を一人で家に残すのは危険だと思うからな」

「それって、心配してくれてるの?」

「ああ、この家のな。俺が止めなかったら、凛はどんな無茶なことでもするだろう。それが、この家にとってどれだけ負担のかかることなのか。ただでさえ古いんだぞ、この家は。もっと丁寧に使ってもらわないと困るんだ」

「わかった。ふぁ~~」


凛は、寝ぼけ眼で大きく伸びをした後に欠伸をすると、布団から出て、自分が水道を曲げたのも覚えておらずに水をひねって、顔面に水がかかることになったが、取りあえずごしごしやってから拭いた。


しかし、冷たい水で顔を洗ったにも関わらず、まだ寝ぼけ眼でボーッとしている。寝過ぎて頭がボーッとしているんじゃないのか?


「ボケッとしてないで行くぞ。今日中に二十個の店を回るんだからな。休みはないと思え」

「えええぇぇぇ~~~」


随分と長い抗議の声を無視し、いつまでも出ない凛を引っ張り出すと、ドアを閉めて鍵をかけた。


「最初は銀行からだ」

「銀行ねぇ、ここからじゃ一番遠いじゃん」

「いいんだ。お前はただついて来るだけなんだからな」

「はぁ~い」


凛は何とか階段を下り切ったが、目の前の電信柱には気がつかなかったみたいで、まともに電信柱にぶつかった。


フラフラ~っとよろけたかと思ったら、バタンとその場で倒れてしまった。どうしようかと一瞬迷う。気絶した凛を置いて行ったら、ここまでつれて来た意味がなくなる。かと言って、背負って行くのは買い物が沢山あるから無理だ。と言うことは、ただ一つ。


「おい、起きろ。凛!」


気絶している凛の頬を思い切り叩く。すると、凛はむっくりと起き上がった。頬を押さえて顔をしかめている。


「痛ったいなぁー、何するのさ」

「お前がぶっ倒れたから起こしてやったんだろう」

「そっか、階段から下りた後の記憶がないからね。てっきり眠っちゃってるのかとばかり思ってたけど、気絶してたんだね」


気絶と眠りの違いもわからない凛に同情したけれど、言葉には表さなかった。出したら、すぐに凛のペースにはまることになる。


銀行まで歩いて行って番号札をもらうと、椅子に座った。凛はと言うと、俺よりも人間界にいた時間が長いはずなのに、銀行に初めて来た子供のようにはしゃぎまくっていた。


「おい、静かにしろ。お前の方がキャリアはあるんだろう?」

「えっ、キャビア?キャビアなんか食べたこと無いよ。家、貧乏だったし。キャビアが食べたいなら・・・・」

「キャビアなんか言っていない。キャリアと言ったんだ。とにかく座れ。人がジロジロこっち見てんのがわからないのか?不審者がられてるぞ」

「だって、亜・・っ修よりもここにいた時間は長いけど、それなりに小さい頃からだから、銀行なんて両親に任せてて来たこと無いんだもん」


凛の言葉の、両親がいて当たり前のような口ぶりは、とても羨ましかった。俺は、もう直両親共に逝ってしまうからな。


「・・・・もしかして、二人とも?」

「いや、今のところはお袋だけだが。親父ももう直ぐ逝く。自らその答えを選んだんだ。だから、きっともう直に」

「ごめん、知らなかったから・・・・」

「いや、気にするな。それよりも、さっさと座れ!」

「はい」


俺は、少し驚いていた。今まで、凛を除いて詳しく自分の情報を漏らしたことはない。その情報を悪く使う奴がいるから、絶対に話してはならないと親父から教わったんだ。だから、その教えを守るように今まで話したことがないのに、なぜこいつの時だけさらっと口にしたんだ?


それだけが疑問だった。もちろん、凛には意図がないのはわかっている。こいつがそんなこと考えられるほど頭がよくないのはわかっている。と言うことは・・・・信用してるのか?こいつを。


隣に座って、さっきもらった番号札を熱心に見ている凛の方を振り返る。いや、それはないな。こんな奴を簡単に信用するはずがない。


「何さ?」

「何でもない。それより、そのカードは破るなよ?破ったら番号わからなくなるからな」

「それぐらいわかってるよ。子供でもわかる」

「お前は、中学生でも子供並みの思考しか出来ないだろう?」

「ひっどい、その言い方はないと思うよ。例え小中学生の時の答案の点数が少しばかり低いからって」


そう言えば、誰かに対してからかったり軽い気持ちで口を利いたことなんて一度もない。やっぱりこいつには何かがあるのか?


「少しじゃないだろう。小学生の簡単な問題ですら二十点未満しか取れないなんて、想像すらつかない」

「その時代の僕にとっては大変だったんだ!」

「だから、静かにしろって言ってるだろう」

「む・・・・」


ムッとした顔で椅子に座り直す凛を見て、何だか不思議な気持ちになった。こんな気持ちは生まれてこのかた初めてだ。


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