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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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お風呂の窓は、鍵まで閉めましょう

「族長!勝手に他の族に突っ込んで行った仲間が全滅させられました!」

「全くさ、族長なんて僕の性分には合わないって」

「族長、聞いていらっしゃいますか?」


「・・・・ああ~。つまんない。早く人間界に帰りたいよ~」

「族長」

「な~に?」


族長なんてもの凄くめんどくさいことになっていて、早く人間界に戻りたいなと思っているのに、中々帰れない。


「ね、錬賭君。僕、帰りたいんだけど」

「無理です。族長は、戦闘種族の指揮をしていただかないといけませんから・・・・」

「あのさ、族長とか僕には出来ないんだって!重すぎるし、向かないんだって!!」


「向かないにしろ、冥道霊閃の使い手です。だから、俺らの種族の族長なんです・・・・」

「ああ。今頃桜っちや亜修羅は何をしてるのかな?」

「そいつらは、敵方種族の族長のことですか・・・・?」

「そうそう。僕の友達」


僕の言葉に顔を曇らせる錬賭。


どうせ、他族の族長と繋がっているからいけないとか思ったんだろうけどさ、僕の友達は友達だ。それを、誰かにとやかく言われる筋合いはないと思う。


「大変申し上げにくいことなのですが、そいつらとは縁を切った方がいいでしょう。友達とは言え、敵方の奴です。信用出来ません・・・・」


ボソボソとしながらも、大変申し上げにくいと言う言葉が似合わないくらいにはっきりと錬賭は言い切った。その言葉に、僕は心がなんとなく冷たくなる。


「そうですよ。いつ、族長のことを襲うかわかりません。他種族の者なんて、どうせそう言う汚い奴らばかりですから」


錬賭の言葉に続くように、他の妖怪達も後に続く。敵方の奴と縁を切った方がいいと言う言葉が次々に交わされる。


錬賭の言葉を聞いた時も心が冷たくなったが、今は絶対零度の状態で、これ以上我慢したら動かなくなるだろうと思い、立ち上がると、近くにあったテーブルを叩く。


そんな思い切り叩いた訳じゃないけど、鉄製のテーブルが真っ二つに折れた。


「僕が誰と付き合ったり友達に思うのも勝手だろ?それをあんた達が縛り付けてもいい理由なんてない。それに、人の友達の悪口を言うのはやめてくれないかな?何も知らないくせに、自分と種族が違うからって、悪い奴だって決め付けてさ。あまり調子にのるなよ」

「・・・・」


それまで、誰が何を言っているのかわからないぐらいうるさかった部屋が、一瞬にして静まり返った。怒鳴ってもいないのに、ただ冷静に言っただけなのに、怒鳴る以上の効果があったようだ。


「それに、好きで族長なんかになった訳ではないのに、何で否定されなくちゃいけないんだ?自分の人生ぐらい、自由にさせてもらいたいものだね」

「・・・・」


みんなが静まり返り、言葉すら出ないようなので、椅子に座りなおし、少し口調をいつも通りに戻してみる。ついでに、笑顔も忘れずに。


「だから、戦争なんてやめて、みんな仲良くやろうよってこと!」

「・・・・」


少し本気になったところが悪かったかもしれない。だから、もう誰もしゃべれなくなっちゃったんだ。よく言われるからな・・・・怒ると、もの凄く雰囲気が変わるって。怖いって言われた。確かに、さっきはちょっと口調とか、トーンとかがいつもと違ったけどさ。それだけの話しだよ、本当。


「はい、反論ある人、手を挙げて!」

「・・・・」


まるで、氷で固まってしまった像のように微動だにしない妖怪達に、そろそろ僕も疲れて来る。こんなことになるから滅多に怒らないようにしてるんだけどな。亜修羅にも怒った時はヒかれちゃったし。


「ぞっ、族長様。ちょっ、ちょっとお聞きしても・・・・」


妖怪の一人が目に見えるぐらいに大きく震えながら手を挙げたが、周りにいる妖怪に危ないと窘められ、手を下ろしてしまう。


もしかして、僕の第一印象って「怖い」に決定?


「まぁ、とにかくそう言うことだからね。よろしく」


僕は仕方なく外に出た。すると、後ろから錬賭がついて来る。


この人は無表情で、ボソボソとしかしゃべらないからミステリアスなかんじだけど、今ならどんな気持ちなのかが手に取るようにわかる。だって、少し顔が引きつっているんだもの。


「族長、何処へ?」

「ちょっと、里の周りを散歩して来るよ。一緒に来るかい?」

「はい。お供いたします・・・・」


顔を引きつらせたまま錬賭はついて来る。護衛だから仕方なくついて来ているんだろう。可哀想に。僕って、そんなに大事な人なのかな?










「おい、冬眞!こいつが俺達の族長ってどう言うことだ?どう見ても人間じゃないか!」

「しょうがねぇだろう。こいつだったんだから。文句を言うならこいつに言えよ」

「ぼっ、僕に言われても困ります!それに、族長になんてなりたくありません!と言うかなれません!」


冬眞に連れられて、ある村に入ったはいいけれど、ずっとこんな感じで僕は認められていない。


確かに妖怪たちからしてみれば、人間の僕なんかが族長だって認めないと言う気持ちはわかる。僕も、人間の自分が族長になっていいのか不思議だった。


「お前、こんなヘタレに族長の重荷が背負えると思ってるのか?」

「だから、俺に言うなって!ただでさえ俺達は人数が少ないんだ。ここにいる百人ちょっとと、外にいる奴らしか仲間がいないんだ。仲良くやっていこうぜ」

「みんな認めないはずだぞ!こんな奴が族長なんてな」


その他、僕に向けられる非難の言葉で、僕の心はズタズタに引き裂かれている。


どうして妖怪退治養成所に通っていた僕が、その標的である妖怪の族長にならなくてはいけないんだろう?どんなことにも動じるなって教わったけど、こんな状況に陥って動じない人なんて滅多にいないと思う。


「あのですね、ちょっと落ち着いて下さい!」

「うるせぇ、人間が!」

「あ・・う・・・・」


そう言われると、何も言い返す言葉が無く、黙り込んでしまう。族長になると言うことは、こう言うことを含めてのことだ。僕は、強い心なんて持っていないし、忍耐も持っていないから(あっ、同じ意味だ)耐え切れないと思う。


「おい、人間だろうが宇宙人だろうが、俺達の族長に代わりない。きちんと従えよ。なあ、族長」


「吹雪さん・・・・」


その吹雪と言う人が言葉を話しだした途端、今までギャーギャーうるさかった妖怪達が一気に静まり返る。僕が来る前は、この人がボス的存在だったのかもしれない。


「でも・・・・」

「聞けよ!」


反論しようとした妖怪を、吹雪がとても冷たい目で見返す。こんな目で見られたら固まってしまうかもしれない。怖い、怖いよ、敵じゃなくてよかった・・・・。


「はい・・・・」

「そう言うことだ。族長ならこれくらいの騒ぎは自分でどうにか出来るぐらいの度胸がないとな。雷光銃が操れるから族長と認めたが、それ以外は認めてないからな」


今度は、僕にその冷たい目を向けて、そのまま出て行ってしまった。


こっ、怖いです。僕よりも、あの人の方が族長に向いてると思うんだけどな。何で僕なんだろう?


それに続いて、どんどん妖怪は出て行き、とうとう僕と冬眞だけが残った。


「あの・・・・戦争って、やっぱり殺しちゃうんですか?敵方の種族を全滅させるために」

「まあそうだな。でないと、俺達みたいな少数種族は即、全滅だ」

「ちょっと待って下さい!殺しちゃうなんて酷いです!話し合えば済むことじゃないですか!」


「そんなんで納まったら戦争なんて起きねぇさ。けじめをつけるにはそれしかないんだ」

「嫌です!そんなのに加わりたくないです!僕は殺しの指揮をするなんてごめんです!」


敵だからって殺しはよくない。それに、殺しをする指揮を取るなんて嫌だ。それだったら逃げ出してやる。外に出て殺されたっていい。人を殺すのに加担するよりは死んだ方がマシだ。


どこに行くのかを咎めて来る妖怪達の間をすり抜け、門番を跳ね飛ばして門から外に出る。


すると、目の前で誰かにぶつかった。


「っ!?」

「いたっ!!」


ぶつかった人の背丈と、声からして誰だかすぐにわかったが、一応確かめるために顔を上げてみる。


・・・・やっぱりそうだ。


「凛君、いいんですか?こんなところにいて!」

「ああ、いいんだ。ちょっと散歩がてらに来ただけだから。ほら、護衛君もいるよ」

「族長、こいつは転生種族の・・・・」

「イエス!桜っちだよ。この子ね、女の子みたいだけど男の子だからね。勘違いすると痛い目に合うよ?」


「いえ、そんなことはしないですよ」

「あっ、そうそう。ねぇ、亜修羅の様子を見に行かない?」

「いいんですか?」

「大丈夫、大丈夫」


冬眞と凛君の護衛の人の顔を見れば、明らかにまずいことだと思うんだけどな。でも、ちょっとぐらいならいいかもしれない。一応、護衛もついてるし。


「おいおい、護衛がついてるから大丈夫だって思うなよ?俺だって・・・・」

「役に立たなかったら護衛じゃないですよね?」

「うっ・・・・」


僕の何気ない言葉に、思い切り顔をしかめてうな垂れる冬眞。


まぁ、とりあえず放っておこうかな?下手に傷口に触ると痛いしね。


「でも、修さんのいる里がどこなのか知ってるんですか?」

「バッチグーですよ、桜っち君。さっき偵察に行って来ましたから」

「そうですか。じゃあ、行きましょう」

「レッツゴー!遠足♪遠足♪嬉しいな~♪」


敵陣に突っ込んで行く人とは思えないようなテンションの凛君と違い、さすがに護衛の人は神経を張り詰めている。


「あっ、ここ、ここ」


あっと言う間に修さんのいる里に着いた。さすがの凛君でも、敵陣のど真ん中では静かにしている。


「とりあえず、ここから中に入ってみようか。なんか、変な煙が出てるしさ」


確かに煙が外に出ている。しかし、火事だとしたら大騒ぎになるはずだから、きっと違うんだろうけど、煙が出てるなんて尋常じゃないと思うんだけどな。


「まっ、とりあえず入ってみようかね」


凛君は、普通に窓を全開に開けて、部屋の中に飛び込み、僕の手を取って中に放り込む。


その時、足元が濡れていることに気づいた。それから水の音がする。もしかしたらここは・・・・風呂場?


僕の考えどおり、やはりここは風呂場だった。これなら煙が出ていたのも納得が行く。と言うか、速くでないとまずいと思う。現在お湯に使ってる人がいるし!


「凛君、出て行きましょう!ここはお風呂です!」

「そうだったの?知らなかったよ」

「おい、お前ら!どこから入って来てんだ!!」


「ほら、怒ってますよ。行きましょう!」

「いや、ここから中に入って行った方がいいよ。大丈夫、男湯だから服のまま通っても」


理屈が通っていないと思う。服のまま男湯を通るのはおかしい。凛君、ボケが始まっているのかもしれない。


しかし、幸いなのは、その風呂場が温泉みたいに広いことだ。もし狭かったら、悪いことをしたと思うことになる。


「って、お前ら、何で敵陣のど真ん中に入って来てんだよ?」

「あ、亜修羅。会いに来たんだよ。中々会えないからさ、ここから中に入って行こうと思って」

「・・・・早く出て行ってくれ。この部屋から三つ目の窓で待ってろ。そこが俺の部屋だ」

「わかったよ、十秒で出て来てね!」


凛君はそのまま窓から出るのかと思ったが、そのまま男湯を突っ切って、三つ目の窓の部屋の中に入って行った。凄い度胸だと思う。それに、知っている人でも、入浴中にお邪魔をしてしまったんだ。謝らないのはいけないと思うんだけどな。相手も一応恥ずかしいと思うし。


「あの、すみませんでした。修さん」


僕はちゃんと窓から出て、窓から部屋の中に入った。これもちょっと変だけど、正面から入れないから仕方ないよね?


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