魔界の国宝 烈火闘刃編 初めての実践
「族長、どこに行ってたんですか!?急に消えたと思ったら、急に現れて!」
「そう怒るな。俺だって、わざと消えた訳じゃない。烈火闘刃に呼ばれたんだ」
「と言うことは、もう一つの武器をもらったのか!?」
「いや、俺の場合は、技をもらった。これで平等にしているんだろう」
「どんな技だ?試しに、こいつに使ってみて下さいよ」
そう言う神羅の方を見ると、羽交い絞めにされている敵種族の奴がいた。転生種族はほぼいないから、こいつは、九十九パーセントの確率で、戦闘種族だろうな。
「ああ。しかし、お前の期待には百%答えられないだろうけど、それでもいいんだな」
神羅が、こいつを俺に倒させようとしているのはわかっていることだった。
しかし俺は、その期待に答えるつもりは一切ない。烈火闘刃と約束したのだし、何より、この技は、人を傷つける為の技じゃない。
「どう言う意味だ?」
「見ていればわかる」
俺はそう言うと、不満げな神羅を無視して、妖狐の姿に戻ると、俺のことを思い切り睨みつけている奴を見下ろした。
「殺すなら、さっさと殺せよ!」
「動くな!」
自棄になった戦闘種族の奴は、暴れ出して、危うく、俺じゃない奴に殺されそうになる。
俺がやめさせようとした時、暴れている男のケータイが落ちて、電話が来たことを知らせている。きっと、暴れたのと、バイブの効果で地面に落ちたんだろう。
俺は、男を羽交い絞めにしている奴がケータイを拾おうとしたのを手で制すると、それを拾い、電話に出る。
「誰だ?」
「・・・・あんたこそ誰なのよ」
そのケータイの声を聞いた途端、男の表情が驚きに変わり、慌てている。
俺は、その様子を確認して、男に聞いてみた。
「この女は誰なんだ?」
「俺の嫁だよ」
「そいつはどこにいるんだ?」
「あいつらは関係ないだろう!殺すなら、俺だけを殺してくれ!あいつらは関係ないだろ!」
「どこにいるのか。そして、何人家族なのかと言え」
「そんなこと、言えるかよ・・・・」
男が口を閉ざして違う方向を向くと、羽交い絞めにしている一人の方が男を殴った。
「やめろ。殴れとは言っていない」
「しかし・・・・」
反論して来る奴を、俺は睨みつけてやった。すると、おとなしく言うことを聞くようになった。
「俺は、出来るだけ乱暴なことはしたくない。だから、素直に言うことを聞け」
俺が間合いを詰めるように問いただすと、そいつは思い切り顔をしかめる。
「安心しろ。俺は、女や子供に手を上げるほど、最低な奴じゃない。お前が素直に言うことを聞いたらな」
そう言うと、そいつはため息をつくと、俺の目を真剣に見て来た。遂に、覚悟を決めたようだ。
「わかった。教える。その変わり、殺したら、お前らのことを一生恨んでやるからな」
「ああ、勝手にしろ。そして、どこにいる?」
「子供が二人と嫁がいる。場所は、ここの直ぐ近くだ」
そう言われて、思わず顔をしかめる。ここは頭脳種族の村。敵である戦闘種族が、よくこんなところにいられるものだ。
「この村の中か?」
「ああ、ここの建物の裏路地にいる」
「・・・・そうか。今から、そいつらをここに連れて来い」
「お前、やっぱり殺すんだな!」
「殺さない。それは約束したはずだ」
「うるせぇ、死ね!」
そいつは、脅威的な力で二人の妖怪を振り払うと、刀を構えて走って来る。
そして、そのまま突きを放って来る為、俺はそれを横に避けると、刀を蹴り上げた。
刀は宙を舞い、やがて、神羅の目の前の床に落ちた。
「これは、俺が預かっておくからな」
「大丈夫だ。こいつにもう、俺を襲う気力など残っていない。それに、俺は、もともとこいつらを救うつもりなんだ。それなのに、何を勘違いしているのか・・・・」
「族長、救うって、どう言うことだよ?」
「見てればわかると言っただろう」
俺はもう、全く抵抗をしない男の方を横目に見て言った。
それから直ぐに、出て行った男達が、女と子供二人を連れてやって来た。そして、体を縄で縛ろうとする為、俺はそれを止める。
「なぜですか、族長?さっきも襲われかけていたのに・・・・」
「俺は言ったはずだ。傷つけないと」
そう言って女達の方を見ると、女は、子供を守るようにしっかりと抱いている。
「嘘を言いなさい!あなたは私達の敵なの。そんなことを信用する訳ないでしょ!」
「ママ、来夢はどこに行ったの?」
「えっ?」
女がしっかりと抱いていた子供が言った途端、俺の足を何者かがつかんだ。一瞬驚いたが、そいつを持ち上げると、女の方を見る。
女が抱いている子供よりも幼くて、ハイハイがやっと出来るぐらいの年齢だから、種族争いのことなんて知らないのだろう。
「今だって、こいつのことを殺すことはいくらでも出来る。だが、殺していない。それでも信用出来ないか?」
「お願いだから、子供達だけは助けて!私は犠牲になってもいいから!」
「そんなことは言うな!!」
今まで冷静沈着だった俺が、急に怒鳴った為、周りの奴らが黙り込む。
俺はため息をつくと、取り乱してしまった自分に喝を入れた。
「とにかく、こいつはお前に返す」
何とか平静を取り戻すと、女に子供を返した。最初は警戒していたようだったが、ゆっくりと子供を受け取ると、泣き出した。
「これで、俺がお前らを殺すつもりがないとわかっただろう。だから、言うことを聞いてもらう」
「・・・・わかったわ。でも、この子達は殺さないで」
「俺が言った意味がわかってるのか?『殺すつもりはない』と言ったんだぞ?」
「信用できないわ」
ここまでやっても信用を得られないのは仕方がないことだ。なら、無理矢理やらせてもらう。
「わかった。そこを動くな」
「子供は・・・・」
「子供には幸せになってもらいたいだろ?」
俺はそう言うと、烈火闘刃を素早く振った。
こいつらを救えると言う確証はなかった。ただ、落ち着いていたのだけは確かだ。
しかし、それ以外は自分を信じるものがなく、目を瞑っていた。もし殺してしまったらどうしようと思った。
しばらくの間動かないでいたが、血の臭いがしない為、ゆっくりと目を開ける。
女達も、殺されると思って目を瞑っていたようだが、目を開ける。
風が部屋の中に吹いて、桜の花びらが部屋中に散らばっているのが見えるけれど、それ以外は、なんともなかった。
「族長、一体何をやったんですか?あいつ達が抵抗をやめましたよ」
近寄って、小声で話しかけて来る神羅の言葉にうなずく。
成功したようだな。
そう思うと、大きく息を吐いて、その場にしゃがんだ。なんだか、物凄く体調が悪い。
体に力が入らないと言うか、力が全て抜け出てしまったような感じだ。
「族長、大丈夫ですか?」
「・・・・」
「とりあえず、休みましょう」
神羅に肩を貸してもらい、何とか足を動かすけれど、体が物凄く重い。情けない話、一人じゃ立ってもいられないほどだ。
俺は、何とか布団まで連れて行かれると、そのまま、布団も被らないで目を瞑った。
物凄い睡魔が途端に襲って来て、布団を被ると言う単純な動作すら出来なかったのだ。