魔界の国宝 烈火闘刃編 伝授
目の前が真っ白になった途端、桜の匂いがした。
そして、ゆっくりと目を明けると、目の前に大きな桜が生えていた。
突然の変化に驚いて、辺りを見渡すけれど、その桜以外は何もない。青い空に、緑の原っぱ。そして、目の前には大きな桜があった。
風が吹いて俺の体に当たるけれど、痛いほどではなく、とても気持ちいい強さで、草の匂いや桜の匂いが吹き抜けて行く。
いつの間にか妖狐の姿に戻っていて、長い髪が風に当たって揺れている。
さっきまでは、あまりいい心地ではなかったのだが、なんだか心が落ち着いて、安らいでいる。
もし、みながこんな気持ちになったら、戦争なんて起きないだろう。みなが幸せな気持ちになるのだから。
目を瞑って、大きく深呼吸をする。
新鮮な空気が体の中に入って来て、なんだかすがすがしい気持ちだ。きっと、天国があったら、こんなところなんだろうなと思う。
車の音や、人の話し声。その他多くの音がある人間界と違って、ここは、そんな音は聞こえない。聞こえるのは、草が揺れる音と、桜が揺れる音だけ。それ以外は、何の音も聞こえない。
しばらくの間、幸せな気持ちに浸っていると、今まで普通の桜吹雪だったのだが、その桜が突然何かの形のようになって行き、やがて、一人の人間の形になった。
「幸せな気持ちですか?」
「・・・・ああ。これがその・・・・技なのか?」
「いいえ。ここが、伝授の場所なのです」
「・・・・」
「どうしました?」
「えっ、いや・・・・」
「それでは始めますよ」
「ああ」
俺がうなずくと、ゆっくりと近づいて来る。とても不思議な姿だ。
長い髪を一つに束ねて、白い着物に、赤い袴を履いている。これだけだと想像しにくいと思うが、確か、この姿は巫女とかの姿を思い浮かべてもらえれば正解だと思う。
こんな姿をした奴を見るのは初めてだから、かなり不思議な気持ちがしたのだ。
「この技は、相手を斬る為のものではありません。それは、わかっていますね?」
「ああ」
「最後に聞きます。この技は、相手を傷つける為のものではありませんが、使い方を誤ると、その者を死に誘いかねません。使い方を誤らないと決意出来ますか?」
「・・・・その、使い方を誤ると言うのは、どう言うことなんだ?意味がわからないと、うなずきようがないのだが・・・・」
「そうですね。誤った使い方。それは、相手に敵意を感じたまま使うことです。そうすると、桜吹雪は、幸せを運ぶものではなくなり、体を貫くこととなるでしょう」
「なら、この技でも相手を斬ることは出来るんだな」
俺がそう言うと、烈火闘刃が眉をひそめる為、俺は言葉を直した。
「そう言う意味じゃない。あんたの意思はわかっている。本当は、攻撃の為の技なのかもしれないが、あんたは、もう一つの使い方を知った。そしてもう、戦いを終わりにしたい。だから、そう言ったんだろ?俺は、あんたの期待をわざと裏切るほど最低な奴じゃない」
俺がそう言うと、安心したように微笑んだ。
「そうですね。聞いた私がバカでした。一度認めたんですから、そうですよね」
「・・・・ああ」
「戦うなとは言いません。ただ、無駄な争いはして欲しくないのです。だから、あなたが大切な物を守る為に戦うのなら、私はあなたに従います。ですが、あなたが自我の為に私を振るった時・・・・その時は、あなた自身の破滅を意味しますよ」
そう言われた時、嘘がないとわかり、自然と表情を引き締める。
烈火闘刃は、物腰は優しいが、言ってることがきつい。こう言うタイプはかなり苦手だ。
「ああ、わかってる・・・・」
「そうですか。それならよかったです。では、魔界に戻って下さい」
そう言われると微笑みかけられ、気がついた時には魔界に戻されていた。