魔界の国宝 烈火闘刃編 種族争いの恐怖
「なぁ、俺の性格を見るって、どう決めるんだ?」
《それを教えて試練になりますか?》
「・・・・はぁ」
そうだよなと思いながらも、ため息をつく。面倒の一言しかない。
「俺は降りるぞ」
《なぜですか?》
「面倒だからだ」
俺が言うけれど、烈火闘刃は答えなかった。代わりに、目の前に人が二人立ちふさがる。
「悪いけど、ここから先は通せないよ」
「お前ら・・・・」
俺は、目の前に立ちふさがる二人を見て、思わず口を開いたまま固まってしまった。
なぜなら、凛と桜木だったからだ。
その光景を見た途端、一瞬ここが現実なのか空想なのかわからなくなったが、直ぐに正気に引き戻された。
二人が襲って来たのだ。
俺は、いつの間にか、いつもの姿に戻っていて、何とか攻撃を避けるけれど、桜木の銃撃が腕を掠めた。
何とか体勢を立て直して立ち上がると、俺は後ろを向いて、二人から逃げる。
《妖狐亜修羅よ。逃げていたら、技を習得するなんて無理な問題ですよ》
「だから、俺は言っただろう!受けるつもりは元々ないと。それに、あいつらと戦うんだったら、もっと嫌だ」
《わがままな子ですね。私の用意した試練に打ち勝つことも出来ないのですか?あれは、本人達とは全く面識のない、単なるまがいもの程度でしょう。それなのに、どうしてそれすらも倒そうとしないのですか?》
「例えまがい物だろうがなんだろうが、信頼した仲間の姿をした奴を倒すことはしたくない。あんたに意気地なしと言われようが、俺の気持ちは変わらない。だから、試練を降りる」
《・・・・そうですか。それならば、技を習得しなかった時の種族争いの様子を見せてあげましょう》
烈火闘刃の声が聞こえた途端、辺りが真っ暗になり、突然景色が変わった。
目の前に広がるのは、燃えている森に、沢山の悲鳴、そして、あちこちで繰り広げられている戦いに敗れた者達の死体だった。
俺が呆然と前を見つめていると、目の前で倒された男が俺に気がついて、体中血だらけなのに、何とか体を引きずって俺に近付いて来る。
そして、俺の足元まで来ると、血だらけの手で俺の足をつかんで、必死に頼み込んで来る。
「頼む、あんただけは逃げてくれ。あんたが殺されたら、俺達は・・・・」
そう男が言った時、遠くの方から弓が飛んで来て、その男の体に刺さった。
ドスッと言う音とともに、男の命が絶たれる。
しかし、弓の勢いは納まらず、俺は、その場から逃げるしかなかった。
自分の臆病さが情けなくて、歯を食いしばる。しかし、逃げる事しか出来なかったのだ。
この悪夢を振り払うように必死に走るけれど、どこを見ても火の海に死体が転がっていて、戦闘が繰り広げられていた。
それを見て、戦争中は、こんな光景が普通なんじゃないかと思って、体に震えが走った。
何が恐ろしいって、その辺りに死体が無造作に転がっているのだ。それがなんとも不気味だった。
この光景は、まさしく地獄と言うにふさわしいだろう。それぐらい、酷い光景だった。
いつもの平穏な魔界とは違い、とても荒れ果てていた。
これが種族争いが起きた時の光景なのかと思うと、とても恐ろしいと思う。
俺は全速力で走り、気がついた時には、焼け野原の中心に立っていた。多分、炎で燃やされている樹すらなくなった、荒れ果てた地なのだろう。
何とか息を整えて歩いていると、不意に見覚えのある色の弾が飛んで来て、何とか避ける。
そして振り返った時に見た光景には、思わず目を疑ってしまった。
そこには、肩で息をしながら、血だらけでこちらに銃を向けている桜木の姿だったのだ。
その目は、いつもの温厚そうな光りはなく、ただ、鋭く俺を見据えていた。それがどうしてなのかが俺にはわからない。物凄く怒っているようだ。
そして何より、銃を向けているのは、桜木自身の行動なのか。それとも、無意識での行動なのか。それが一番知りたかった。
「修さん、あなたは最低な人です。ここで死んでもらいます!」
「・・・・」
そう言われた時、何とも言えない衝撃が体に走ったような気がした。それ程ショックだったのだ。
例えば、信頼していた仲間がいたとする。そいつに銃を向けられ、しかも、最低と言われた上に、死ねと言われるのだ。それ程のショックはない。
特に俺は、ほとんどの奴を信じたことがないから、初めて信頼した奴に裏切られて、物凄くショックを受けた。
「なんでなんだ?」
俺が聞くけれど、桜木の言葉は冷たかった。
「さようなら・・・・」
銃声が響く。周りの出来事が全てスローモーションのようになり、弾がゆっくりと俺に近付いて来るのがわかる。
俺はそれを避けることが出来る。しかし、避ける気になれなかった。
そのまま、腹部に物凄い激痛が走った後、ドサッと言う音がして、目の前が真っ暗になる。
俺はここで、仲間の手によって殺されるらしい・・・・。
なんて最悪な最後なんだって思う。しかし、それが事実なのだったら仕方がない。
《目を開けなさい》
「・・・・」
《目を開けなさい!》
「・・・・」
何だか、女の声が聞こえる。それを聞いた途端、死の世界の誰かだろうと思い、俺は無視をした。
俺は死んだんだ。だったら、起こさないでくれ。せめて安らかに眠らせてくれ。
《起きなさい、あれは幻です》
そう言われて、やっと意識が戻って来て、考えることが出来た。
そうだ。俺は、烈火闘刃に悪夢を見せられて、そのまま死んだと錯覚をしたようだ。
「・・・・あれが、本当に起こるのか?」
《ええ。あれは、以前の種族争いの様子です。年々戦いは酷くなっていき、今年は最悪な事態になるでしょう》
「あんたの技を手に入れたら、あれを起こさずに済むのか?」
《・・・・わかりません。ただ、希望はあります『桜乱華』とは、戦いを沈める為に作られた技だと聞いています。ただ、私にもよくわかりませんが・・・・》
「・・・・わかった」
烈火闘刃の話を聞いて、俺の口が自然と動く。いや、自分の意思で言ったのだろう。
あれが幻だったからよかったが、本当に起こったら、魔界はどうなってしまうのだろうかと言うことになる。
「あんたの技をもらって、種族争いが起こらないようになる確率があるなら、俺はそれに賭ける。だから、試練を再開してくれ」
《・・・・ありがとう。前の種族争いの時も、族長に声をかけたわ。でも、試練も何も受けることなく出て行ってしまったの。このまま、種族争いが続くのかと思うと、いたたまれない気持ちになった。なぜなら、私は種族争いごとに族長の手によって使われ、妖怪を倒して行く。そんな光景がいつまでも続くのかと思うと嫌で、今回は、ちょっと早めにあなたに来てもらったんです。ありがとう、種族争いを止めようとしてくれて。優しい心があるのですね》
そう言われて、自然と顔が赤くなる。
よく、凛とか桜木に、俺は優しいと言われるが、他の奴からそんなことを言ってもらったことは一回もなく、恥ずかしくなったのだ。
「やっ、優しくなんかない!俺は、ただ単に弱いだけだ。さっきの悪夢に怖気づいて、もう二度と味わいたくないと思った。だから、収めようとしているに過ぎない。ただ、俺はあんたを凄いと思う。あんな地獄に毎回駆り出され、命を奪っていくのは、よほど強い決意がなかったら出来なかったと思う」
俺がそう言うと、烈火闘刃がため息をついた。
《・・・・ありがとう。あなたの理由は、確かに弱いかもしれない。けれど、それが沢山の命を助けることに繋がるのなら、とても素晴らしいことだと思います。だから、ありがとう》
「あんたに礼を言われる必要はない。そんなことより、さっさと問題を出してくれ」
何とか動じずに言葉を言えた自分を褒めてやりたいと思う。いつもいつも、ありがとうと言われると顔が真っ赤になって動揺するから、今日は動揺しなくて、偉いと思ったのだ。
《いいえ、あなたに試練は必要ありません。あなた程白い心を持った人はもう、この世にはいないでしょうから》
そう言われて、疑問に思う。
俺の心が真っ白だって?そんな訳ないじゃないか。少し前まで平気で殺しをやっていたのだ。それなのに、どうして真っ白だって言えるんだ?
俺がそう問おうとすると、烈火闘刃が言葉を遮った。
《さっきは言葉を間違えました。確かに、あなたの心は真っ白ではありません。しかし、それ以上に素直なのです。だから、私はあなたを認めます》
「・・・・素直?」
《ええ。口は無口だけれど、表情は素直らしいですね》
こんな短時間で見透かされて、思わず顔を伏せる。
かなり恥ずかしいことだ。初対面の奴に直ぐに見分けられると言うことは、わかりやすいと言うことだ。
なんてことだ・・・・。
《では、『桜乱華』を伝授します》
そう烈火闘刃に言われた途端、目の前が真っ白になった。