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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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魔界の国宝 烈火闘刃編 あいつの夢

「随分と深いところに来たようだが・・・・」


自然と独り言が漏れる。それ程長い時間走って来たのだ。それに、こころなしか、森の奥深くに迷い込んでしまったようだ。


「このまま出て来られないのか?」


一人でつぶやいて、一人で怖くなる。


・・・・本当にまずいかもしれない。


ため息が漏れる。そして、とうとうその場に座り込んだ。


何だかとても眠くて、近くの樹に寄りかかると、そのまま目を瞑って眠りに落ちた。









「亜修羅、手ぇつなご!」

「嫌だよ、恥ずかしいよ」

「恥ずかしがることないじゃない!」

「でも・・・・」


小さい頃の俺と栞奈が会話をしている。どうやら、昔のことのようだ。


嫌がる俺の手を栞奈は強引につかむと、手をギュッと握る。


俺は恥ずかしくて、その場で真っ赤になった。


「行こう!お姉ちゃんが待ってる」

「いや、恥ずかしいから離してよ!」


俺は何とか手を離そうと必死になるけど、小さい時の俺の力は、栞奈よりも小さかったから、到底無理な話だ。


この時は、丁度五歳ぐらいの時だ。俺はまだ気が弱くて、栞奈にきつく言えなかったのだ。


「行こう!」

「いやだよ、せめて手は繋ぎたくないよ」


俺がそう言うと、栞奈は悲しそうにうつむく。


その時の俺は、気弱で相手のことを考え過ぎるから、栞奈を心配する。


「あっ、ごめんね」

「ねぇ、大きくなったら、私と結婚して」

「ケッコン?」


五歳の子供が、どうして結婚なんて言葉を知っていたのかは不明だが、俺には当然、意味がわからない。


「そう」

「それって何?」

「結婚式って言うのを上げて、一緒の家に住んで、子供を作るの」


その言葉を聞いた途端、何も知らない無垢な俺は、心底驚いた。


その頃の俺は、もうこれ以上成長しないと思っていたから、子供の状態で子供を作るのかと驚いた。


しかも、一緒に住むと言うことは考えられなかった。


ある意味、俺がこんな性格になったのは、栞奈に余計なことを沢山教わったからだろう。だから、嫌でもひねくれたんだ・・・・いや、そんなことはない。俺はひねくれてないんだ・・・・。


「無理だよ・・・・僕は、ケッコンなんかしたくないよ」

「どうして?お姉ちゃんが好きだから?」

「いっ、いや・・・・違う!」


俺は、栞奈の言葉にうろたえて、顔を背ける。


顔が真っ赤で物凄く熱かった。


俺はそれを振り払うようにして走り出した。


「あっ、亜修羅、そっちじゃないよ!こっちだよ」


俺は、栞奈から逃げようとしたのだが、直ぐに栞奈につかまり、無残にも引きずられて行く。


「やっ、やめてよ!」

「だって、亜修羅が逃げようとするから」


そのまま、俺は栞奈に引きずられて行って、目的地にたどり着いた。そして、やっと手を離してもらった。


そこには、俺達がお姉ちゃんと呼んでいる奴がいた。


「修君、大丈夫?」

「あっ、えっと・・・・うん」

「そっか、よかった」


一歳しか歳が変わらないのに、とても大人っぽい笑い方をする。俺はその笑みが好きだった。


「じゃあ、行こうか!」


そう言って手を差し伸べられて、俺は手を繋ぐのが躊躇われる。


「恥ずかしいかな?じゃあ、行こう!」


今度は手を差し伸ばされることがなかったが、少し後悔した。


あの時、勇気を出していれば、手を握れたかもしれないと思った。


ここまで来ると、大体わかるだろうが、俺は、好きだったんだ。あいつのことが・・・・。








ハッと目が覚めて、慌てて辺りを窺う。そして、誰もいないとわかると、ため息をついた。


誰かに夢の中を見られたんじゃないかと思って不安だったんだ。


そんなことはないと思っていても、あいつのことは、誰にも知られたくないのだ。


ため息をつくと、再び樹に寄りかかり、ため息をつく。


昔のことを思っても仕方ない。時が戻ることはないんだ。


空を見上げると、いつの間にか星が光っている。今日は三日月で、ずっと俺のことを照らし続けている。


昔、あの三日月の上に座りたいなと思ったことがある。しかし、今はそんなことは思わない。ただ、空しく見えるだけだ。


無心になって、じっと月を眺めていた。


何の音もしないから、世界でたった一人になったような感覚だ。


風さえも吹いて来ないのはおかしいと思う。


ただ、今の俺にとっては、何とも思えなかった。無心になっているのだから。


それにしても、烈火闘刃は試練として魔界とは別の空間に俺を飛ばした。それなのに、試練と呼べるようなものは今まで一つもなかった。


これは、どう言うことなんだ・・・・?


やっと頭に思考が戻って来て、焦点があう。


今までずっと月の方を向いていたが、見ていなかったのだ。ただ、抜け殻のようにボーッとしていただけだ。


俺は、何の為に別の空間にいるんだ?試練を受ける為じゃないのか?


ふとそう思った時、烈火闘刃の声が聞こえて来た。


《試験は続いていますよ》

「試験らしいことは一つもやっていない」

《戦うことがだけが試練じゃありません。それを踏まえた上で、次の試練に向かってもらいます》


「今までのことは、全て試練だったのか?」

《私は、力がある者を認める訳ではありませんから》

「しかし、ある程度の力がないと、あんたを扱えないんじゃないのか?」


《あなたの力量は十分です。後は、人格を知るだけです。そのまま続けて下さい》

「今までのは、全てあんたがやったことなのか?試練の為に」

《いいえ、出会い、夢、全てが偶然に起きた出来事。しかし、私は、それを参考に、認めるかどうか決めています》

「・・・・」


試練と言うと、戦ったりするのかと思っていたから、今までのことが試練の一部だと聞いて、かなり驚いた。


しかし、同時にめんどくさいと思った。


さすがは頭脳種族の武器だ。ちゃんと性格まで把握しないと認めないらしい。


俺はため息をつくと、立ち上がった。


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