魔界の国宝 烈火闘刃編 あいつの夢
「随分と深いところに来たようだが・・・・」
自然と独り言が漏れる。それ程長い時間走って来たのだ。それに、こころなしか、森の奥深くに迷い込んでしまったようだ。
「このまま出て来られないのか?」
一人でつぶやいて、一人で怖くなる。
・・・・本当にまずいかもしれない。
ため息が漏れる。そして、とうとうその場に座り込んだ。
何だかとても眠くて、近くの樹に寄りかかると、そのまま目を瞑って眠りに落ちた。
「亜修羅、手ぇつなご!」
「嫌だよ、恥ずかしいよ」
「恥ずかしがることないじゃない!」
「でも・・・・」
小さい頃の俺と栞奈が会話をしている。どうやら、昔のことのようだ。
嫌がる俺の手を栞奈は強引につかむと、手をギュッと握る。
俺は恥ずかしくて、その場で真っ赤になった。
「行こう!お姉ちゃんが待ってる」
「いや、恥ずかしいから離してよ!」
俺は何とか手を離そうと必死になるけど、小さい時の俺の力は、栞奈よりも小さかったから、到底無理な話だ。
この時は、丁度五歳ぐらいの時だ。俺はまだ気が弱くて、栞奈にきつく言えなかったのだ。
「行こう!」
「いやだよ、せめて手は繋ぎたくないよ」
俺がそう言うと、栞奈は悲しそうにうつむく。
その時の俺は、気弱で相手のことを考え過ぎるから、栞奈を心配する。
「あっ、ごめんね」
「ねぇ、大きくなったら、私と結婚して」
「ケッコン?」
五歳の子供が、どうして結婚なんて言葉を知っていたのかは不明だが、俺には当然、意味がわからない。
「そう」
「それって何?」
「結婚式って言うのを上げて、一緒の家に住んで、子供を作るの」
その言葉を聞いた途端、何も知らない無垢な俺は、心底驚いた。
その頃の俺は、もうこれ以上成長しないと思っていたから、子供の状態で子供を作るのかと驚いた。
しかも、一緒に住むと言うことは考えられなかった。
ある意味、俺がこんな性格になったのは、栞奈に余計なことを沢山教わったからだろう。だから、嫌でもひねくれたんだ・・・・いや、そんなことはない。俺はひねくれてないんだ・・・・。
「無理だよ・・・・僕は、ケッコンなんかしたくないよ」
「どうして?お姉ちゃんが好きだから?」
「いっ、いや・・・・違う!」
俺は、栞奈の言葉にうろたえて、顔を背ける。
顔が真っ赤で物凄く熱かった。
俺はそれを振り払うようにして走り出した。
「あっ、亜修羅、そっちじゃないよ!こっちだよ」
俺は、栞奈から逃げようとしたのだが、直ぐに栞奈につかまり、無残にも引きずられて行く。
「やっ、やめてよ!」
「だって、亜修羅が逃げようとするから」
そのまま、俺は栞奈に引きずられて行って、目的地にたどり着いた。そして、やっと手を離してもらった。
そこには、俺達がお姉ちゃんと呼んでいる奴がいた。
「修君、大丈夫?」
「あっ、えっと・・・・うん」
「そっか、よかった」
一歳しか歳が変わらないのに、とても大人っぽい笑い方をする。俺はその笑みが好きだった。
「じゃあ、行こうか!」
そう言って手を差し伸べられて、俺は手を繋ぐのが躊躇われる。
「恥ずかしいかな?じゃあ、行こう!」
今度は手を差し伸ばされることがなかったが、少し後悔した。
あの時、勇気を出していれば、手を握れたかもしれないと思った。
ここまで来ると、大体わかるだろうが、俺は、好きだったんだ。あいつのことが・・・・。
ハッと目が覚めて、慌てて辺りを窺う。そして、誰もいないとわかると、ため息をついた。
誰かに夢の中を見られたんじゃないかと思って不安だったんだ。
そんなことはないと思っていても、あいつのことは、誰にも知られたくないのだ。
ため息をつくと、再び樹に寄りかかり、ため息をつく。
昔のことを思っても仕方ない。時が戻ることはないんだ。
空を見上げると、いつの間にか星が光っている。今日は三日月で、ずっと俺のことを照らし続けている。
昔、あの三日月の上に座りたいなと思ったことがある。しかし、今はそんなことは思わない。ただ、空しく見えるだけだ。
無心になって、じっと月を眺めていた。
何の音もしないから、世界でたった一人になったような感覚だ。
風さえも吹いて来ないのはおかしいと思う。
ただ、今の俺にとっては、何とも思えなかった。無心になっているのだから。
それにしても、烈火闘刃は試練として魔界とは別の空間に俺を飛ばした。それなのに、試練と呼べるようなものは今まで一つもなかった。
これは、どう言うことなんだ・・・・?
やっと頭に思考が戻って来て、焦点があう。
今までずっと月の方を向いていたが、見ていなかったのだ。ただ、抜け殻のようにボーッとしていただけだ。
俺は、何の為に別の空間にいるんだ?試練を受ける為じゃないのか?
ふとそう思った時、烈火闘刃の声が聞こえて来た。
《試験は続いていますよ》
「試験らしいことは一つもやっていない」
《戦うことがだけが試練じゃありません。それを踏まえた上で、次の試練に向かってもらいます》
「今までのことは、全て試練だったのか?」
《私は、力がある者を認める訳ではありませんから》
「しかし、ある程度の力がないと、あんたを扱えないんじゃないのか?」
《あなたの力量は十分です。後は、人格を知るだけです。そのまま続けて下さい》
「今までのは、全てあんたがやったことなのか?試練の為に」
《いいえ、出会い、夢、全てが偶然に起きた出来事。しかし、私は、それを参考に、認めるかどうか決めています》
「・・・・」
試練と言うと、戦ったりするのかと思っていたから、今までのことが試練の一部だと聞いて、かなり驚いた。
しかし、同時にめんどくさいと思った。
さすがは頭脳種族の武器だ。ちゃんと性格まで把握しないと認めないらしい。
俺はため息をつくと、立ち上がった。