表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
69/591

魔界の国宝 烈火闘刃編

しばらく歩いていると、向こうの方に村みたいなものを見つけた。とても小さな村みたいだが、結構住民は多いようだ。


「おい、神羅。村が見えて来たぞ。もう少しの辛抱だから、待ってろ」

「・・・・」


後ろにいる神羅に話しかけるが、答えが返って来ない。


変だと思って振り返ってみると、当の本人はと言うと、安らかに眠っていた。


「・・・・人の背中で寝るなよ」


骨が折れたはずの人間が安らかに眠るとは、普通に考えておかしいと思う。


だが、それが事実なのだから仕方がない。それにしても、痛くないのか?背中は。


色々考えたが、起こすのは何となく気が引けたので、そのまま起こさずに村の目の前まで来た。


遠くからだと見えなかったが、目の前まで来たら、門の前に門番みたいな奴らが槍を構えて村に入れないように塞いでいる。


神羅の言っていた種族争いのことは、本当らしいな。


「おいお前ら、どこの種族だ?」


門番が俺達の前に鋭い槍の先をつきつけて来る。


何となく危険を感じ、二、三歩後ろに下がって気を引き締めながら答える。


「頭脳種族だ」

「背中の奴は?」

「知らん。こいつは、俺の護衛だ」

「護衛?」

「ああ、迷惑な話だがな。それで、どうするんだ、襲うのか?」

「・・・・いや、お前らは我が族として認めよう。ここは、俺達頭脳種族の村だ。他種族の出入りを禁止していてな」


門番は、槍を下ろして門を開けてくれる。その門を、人間の姿のまま歩いて行く。


そう言えば、ここは魔界なのだし、妖狐の姿でもいいのだ。人間の姿の方が不自然なのだが、めんどうだから、そのままにしておくことにした。


おかしくないか?俺は人間の姿なのに、頭脳種族を名乗ったら、普通に入れてくれた。人間の姿でそんなことを言われたら、普通は不審がるんじゃないのか?


後ろを振り向くけれど、門はとっくに閉められていて、門番の顔を確認することは出来なかった。もう、後戻りは出来ないと気を張り詰めた時、聞き覚えのある声が背後から聞こえて来た。


「あなた、誰?」

「・・・・」


そのまま無言で立ち去ろうとするが、腕をつかまれて振り向かされる。背中に冷たい汗が流れるのを感じた。毎度毎度のことだ。


「どこかでみたことがあるのよねぇ。でも、誰だったかなぁ」


バレたらまずい。本能がそう知らせている。さっさと逃げれば済むことだ。


「あっ、思い出した!」


その言葉を言われた途端、俺は無情にも走り出した。神羅を担いでいる状態なのであまり速く走れず、すぐに捕まってしまったが・・・・。


・・・・違う意味で殺される。


「人間の姿だったから、わかんなかったよ。亜修羅だって♪」

「かっ、栞奈・・・・」

「やっぱり亜修羅だ~♪」


言うが早いか、唐突に抱きついて来る。


こいつは昔からの幼馴染で、毎度毎度こう暑苦しく抱きついて来る。その力が凄くて、いつも殺されそうになるんだ。


「ちょっ、待て!怪我人背負ってるんだ。やめろ!」

俺がそう言った途端、栞奈の満面の笑みが気まずそうな顔に変わった。


どうやら、何かを勘違いしているらしい。しかも、とんでもないことを。


「えっ、もしかして・・・・二人ってそんな関係だったの?」

「おい、変な勘違いを呼ぶようなことを言うな。第一、こいつのことは知らないだろう」

「でも、私のことはおんぶしてくれたことないのに!その人だけずるい!だから勘違いするのは当たり前じゃない!!」

「・・・・」


昔からこうだ。こいつに常識は通用しない。こう言う場合は、無視するのが一番だ。


無言でそのまま歩き出すが、横にぴったりとくっついて歩いて来る。これがうざったらしいのなんのって。そんな経験がある人はわかるだろう。


「お前は、俺とこいつの性別がわかってるのか?男だぞ?」

「でも、愛に性別なんて・・・・」

「気色の悪いことを言うな!」


嫌悪感が全身に渡り、まだ起きていない神羅を落としそうになる。それを、残りの理性を振り絞り、何とか落とさずにいる。


「こいつは魔界に来る時に雑木林に落ちて、背骨にヒビが入ってるから仕方なしに運んでやってるんだ。それに、こいつは俺の護衛だ」

「いいなぁ、私も護衛になって亜修羅の傍にいたいな~。でもさ、その人、骨にヒビが入っている人とは思えないほど安らかに眠ってるじゃん。ムカつく、その骨のヒビ余計増やしてやりたい~~!」


「おい、やめろよ。後で何でもしてやるから。怪我人に危害を加えることはするなよ」

「じゃあ、もし私が背骨の骨にヒビが入ったらおんぶしてくれる?」

「それはまた別だ」

「何で!この人はおんぶしてるのに!!」


「こいつはこいつ、お前はお前だ」

「全く酷いよ!」


栞奈の大声で、やっと神羅が起きた。今までも、何回も何回も大声で叫ばれたのに起きなかったのはなぜだ?もっと早く起きてもらいたかった。こいつに文句を言われるのは我慢が出来ない。


「ん?ああ、寝ちまった。ここ、どこだ?」

「おい、そんなに体を反らすとヒビが・・・・」

「ん?あああっっ!!!?」


寝ていたことで骨にヒビが入っていたことを忘れていたようで、俺に言われなかったら、痛みすら感じなかったと思う。


「痛い、痛い、痛い!!」

「暴れんな、背中から落ちるぞ。今以上に痛くなるぞ!」


俺の言葉に、今度は肩をガッチリつかんで揺すっても振り落とせないぐらいびっちりくっついて来る。


単純なのはいいが、ここまでくっつかれるのも嫌だ。


「おい、離れろ!」

「落ちるの嫌だから」

「ずるい!ずるい!何で私はダメなのに!」

「お前も変に勘違いするな!」


「ああ、動くな!?落ちる!!」

「だから、お前も離れろって!」

「ずるい!」


・・・・俺の周りには、話を聞く奴が一人もいない。誰か救世主が欲しいものだ。この二人を一喝する奴をな。


「だから、人の話を聞け!」

「あっ、うん」

「悪い」

「神羅は、栞奈の親父が病院をやっているから、そこまで連れて行く。栞奈は後でいくらでも付き合ってやるから」


そうして、二人はやっと納得して静かになった。そのまま栞奈の家に着き、親父に説明をした後、神羅を預ける。


「何か・・・・悪かったな、護衛が迷惑をかけて」

「ああ、さっさと治して来い」

「頑張るよ!」


何を頑張るのかわからないが、取りあえず栞奈の家を出る。すると、もれなく栞奈もついて来た。


「ねぇ、何で急に魔界に帰って来たの?」

「あいつが、今の族長がどうたらかんたら・・・・」

「ああ、そっか。じゃあ、私があの護衛の変わりに族長のいるところに連れて行ってあげる。ああ、そうそう。妖狐の姿に戻った方がいいよ。そっちの方が身の安全が確認されるし」


「いや、どっちも危険だ。俺は懸賞金をかけられている身にあるからな。この格好の方がマシだ」

「じゃあ、私が守ってあげるから!」

「いや、お前に守られる義理はない」


「もう、恥ずかしがっちゃってさ♪最初は私の方が強かったのにさ。でもね、族長に会うには本当の姿を現さないといけないの。だから、その時ね♪」


栞奈はルンルンとスキップをしているのに、俺は、なんか複雑な気持ちがする。


「ほら、ここに族長がいるよ。私は外で待ってるから。族長と話して来て」


村の中で一際大きな建物の中に入り、部屋の前にいる男達に説明をした後に、中に入れてもらう。


中には数人の妖怪と、真ん中に凄く年老いていて、今にも死にそうな爺さんがいる。


きっと、そいつが族長なのか。


「おぬしが、妖狐亜修羅か?」

「ああ、そうだ」

「唐突に聞くが、烈火闘刃と波長は同じか?」


「知らん。烈火闘刃は触ったことがない。依頼を受けていたが、今だ見つけていないからな」

「貴様!族長に失礼であろう!」

「まあ待て。じゃあさっそくだが、この烈火闘刃を持ってみとくれ」


族長は、俺に怒りをぶつける奴隷(?)を宥めてから立ち上がり、後ろに飾ってる普通の刀よりも少し細身で長い刀を差し出して来た。


それを受け取ると、鞘から抜く。刀身は赤い光を当てている訳でもないのに、なぜか赤みを帯びている。


もしかしたら、それが烈火闘刃と呼ばれる由来かもしれない。本当のところはよくわからないが。


そんなことを考えていると、柄の部分がまるで炎の柄になったように熱くなると、焼けるような痛みを覚えた。


ひるんで思わず離そうとするが、族長が俺の手を握り、押さえつけて離すことが出来ない。


「つッ・・・・!?」

「辛抱せい!」

「・・・・」


族長の気迫に押され、焼けるような痛みに耐える。


しばらく痛みは続いたが、やがて嘘のように消えた。


「やはりな。烈火闘刃は抵抗したようじゃが、やはり波長が同じ奴には勝てなかったか。烈火闘刃は、おぬしを主と認めたようだな。晴れて頭脳種族の族長を任せるぞ。わしはもう長くはない」


族長はそう言うと、力尽きたようにバタッと倒れてしまった。


「族長!大丈夫ですか?」

「ああ、わしは少し休ませてもらう」


族長は、奴隷に支えられて退出して行った。


族長になるってことは、族の長になるってことか。そんな大勢の人間のめんどうが出来る訳がない。


「亜修羅よ。族長としての責任は重いが、頑張るんじゃぞ」


俺は、奴隷の一人に帰るように言われ、烈火闘刃を持って外に出て行く。


全く、俺はいくら頼まれたって族長なんてやるつもりなんかないんだ。勝手に巻き込まれて、いい迷惑だ。


「あれ?亜修羅。それって・・・・」

「ああ、想像通り、烈火闘刃だ」

「うわぁ、本物?」

「触るな!火傷するぞ!!」

「あっ、心配してくれたんだ」


・・・・あえて反論せずに歩き始める。このプラス思考は俺も見習いたいほどだ。マイナス思考をしたことはないのか?


「お父さんには会わないの?」

「・・・・いや、いいんだ。人間界に来た時に別れを告げた。二回目に会うと、その決心がブレる。だから、会わない。棺に入って燃やされるまではな」

「そっか、強いんだね。私なんか無理だよ」


「お前とは違うからな」

「もう、酷いな!」

「俺は人間界に帰るぞ」


「ちょっ、ちょっと待ってよ!族長が決まったら、その族長を称える宴会をするんだよ?亜修羅はそれの主役なんだから」

「だから、俺は族長になるつもりは更々ないし、その宴会に出るつもりもない。第一、種族争いに加わるつもりもないしな」

「でも、もう相手の軍がこっちに責めて来てるんだよ?」


栞奈が言った途端、俺が入って来た入り口から門番が走って来て、大声で緊急事態を知らせる。


「戦闘種族の奴らが攻め込んで来たぞ!ただちに追い返し、族長をお守りするのだ!!」


今までの雰囲気とは一変し、みなが戦闘態勢に入る。その図を見ると、やはり戦争だと痛感することになる。


「族長!指揮をお願いします!」

「・・・・指揮?」

「はい!指揮をお願いします!」


不意に族長と言われ、指揮を取れと言われても困る。だが、とにかく何かを言うしかない。


「倒せ。それだけだ」

「わかりました!」


俺が適当に言うと、村人は門の方から襲撃して来る戦闘種族に立ち向かって行った。


それを見送っていると、後ろから声をかけられた。


「族長!オッス」

「神羅、大丈夫なのか?」

「ああ。背骨はテーピングしてもらった」


「それじゃ、背中が曲げられないじゃないか。そもそも、そんなんで大丈夫なのか?」

「ああ、体だけは強いからな。それに、俺が出る幕じゃないからな」

「?」


じゃあ、何で来たんだ?と言う言葉を飲み込み、村人が戦っている姿を見る。


確かに、状況的にはこっちが有利のような気がする。


「まぁ、とりあえず族長は避難してましょう。族長がやられちゃ、俺らを指揮する人はいなくなる」

「おい・・・・まだ族長になるって決めた訳じゃないんだぞ?」

「じゃあ、行こうね~族長♪」


俺の話を全く持って無視をして、丈夫そうな建物の中に連れて行く。族長はその族の長だ。


そんなの、俺が務められるはずがない。みなを指揮するのが苦手なのだから。


「・・・・大分片付いたみたいだね。騒ぎが静かになった」

「敵方の奴らは殺したのか?」


「あれ・・・・気にしてるんですか?そんなの当たり前じゃないですか。情に流されて生かしておいたら一向に数が減らないし、逆にこっちが攻められたりするんだぞ」

「やっぱり気に食わない・・・・」


敵方だとしても、種族が別だとしても、同じ妖怪であることに変わりは無いのだ。


だから、無差別に殺してもいいと言う権利は俺達にはない。なのに、当たり前のように殺すなんて、気に食わない。


「何が?」

「俺だって昔は同じようなものだったが、今は違う。種族は違っても、同じ妖怪なのに、簡単に殺してしまうのは変だ。だから、それを俺は許さない。約束したんだ。もう人は殺さないって!」

「・・・・」


胸倉をつかみかかりそうな勢いで言う俺の顔を見て、顔を曇らせる神羅。


言い過ぎたと思って、顔を伏せる。次に何を言われるのか想像がつかない為、余計に怖く思える。


こいつらだって、好きで殺している訳じゃない。ただ、族長を守る為だけに、嫌なことをさせられているに過ぎないんだ。


「俺達だって、好きで殺してるんじゃないんだぜ?種族争いが起こるまではみんなの仲がよかったんだ。もちろん、俺の友達だって敵方の種族にいる。だからって、そいつだけを殺らない訳にはいかない。好きで戦争を起こしてる訳じゃないんだぞ!!」


俺の言葉以上の大声で、建物内に神羅の声が響く。


「なら、互いを理解出来るように話し合えばいいだろう。俺は、それを望む」

「そんなことが出来たら・・・・もうとっくにやってる」


さっきの大声とは裏腹に、消え入りそうな声で視線を落とす。


確かにそうだ。俺が考えつくようなことは全てやったのだろう。その後の戦争だから、仕方ないのか?


「俺は、みんなにそう言うからな。話し合えば仲良く出来るんじゃないのか?」

「俺にはわからない。でも、反対されることは確かだ」


神羅の言葉は合っていると思う。


戦争をしている奴らに、話し合って仲直りをしようと言っても、無視されるに決まっている。


だが、それぞれの族長が言ったならどうなるか。


「まぁ、やってみる価値はあるぜ」


あいつらが何と言うかわからないが、何となく想像がついていたし、それを聞いたみんながどう思うかを見てみたかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ