魔界の国宝 雷光銃編 族長と護衛
「さぁ、行こうか」
「どこにだよ?」
「決まってるじゃん。回転寿司!」
「なんで今なんだよ?」
「いいじゃん。ほら、ストーカーも一緒に!」
「俺はストーカーじゃねぇ!」
凛が、さも居て当たり前のように、後ろの電柱に手招きをする。そこから出て来たのは、冬眞だった。
「加藤涼護、何をしてる?」
「まあ・・・・色々とな」
「俺等を追い掛け回してるのか?」
「違う!見張ってるんだ!!」
「誰を?」
「お前だ!桜木明日夏!」
「ぼっ、僕ですか?」
指を指され、驚きを隠せずにいる桜木に向かって、冬眞はうなずく。なぜ、妖怪でもない桜木を。
「ず~~~っと傍にいてわかったが、雷光銃と波長が同じだ。だから、お前が俺達、『転生種族』のボスだ!」
「・・・・ず~~~~っと傍にいたって、どれくらいの範囲でですか?」
桜木の、全くもって状況に合わない問いに、冬眞だけはついて来られたようで、顔が真っ赤になった。これは・・・・どう言う意味だ?
「それは、時々だ」
「時々ってなんですか?」
「いや・・・・」
「おい、桜木。そんなことよりも『転生種族』のボスだってことの方を問えよ」
「そんなことはどうでもいいんです。何とかなりますから。ただ、この人がどこまでのストーカーなのかと言うことが先決です!とても重度ですね。これは、僕が根性を叩きなおしてやらなきゃな・・・・」
桜木の目が真剣で、狙われていない俺ですら怖い。それに、本気で怒っていて、顔には笑みまで浮かべている。
・・・・こいつ、滅茶苦茶怖い。
桜木は、冬眞の腕を驚異的な力で引っ張り、電信柱をつかんで嫌がっていた冬眞を引きずり、前の四つ角の一角に引きずって行った。
それからの出来事は見ることは無かったが、とても恐ろしいことだったことは把握出来る。
「そう言えば、僕が『転生種族』のボスって言ってましたよね?このストーカー」
「桜っち、やっとその事実に行き発つの?」
「まぁ、驚いたんですけど・・・・凛君の件がありますから、大体は想像がついてました」
「凄い広範囲で想像がつくんだね」
凛達がそんな会話をしている間、俺は、四つ角から出て来た冬眞を見る。
「変態だな、お前」
「違う!勝手に想像しているようだが、俺は変態じゃないぞ!そもそも、訳がわからないと言ってたんじゃないのか!凝視なんかしてないからな。波長を測るのに忙しかったんだからな!」
「そうか、それなら、どうして顔が赤くなったんだ?」
「それは・・・・照れ屋なんだよ。人にじっと見られるのが苦手なんだ」
冬眞の言い訳を冷たい視線を向けながら聞いた後、一言言って歩き出した。
「負け犬の遠吠えは聞き飽きた」
「だから・・・・」
「亜修羅、行こう。すぐ近くに回転寿司があるから!その・・・・涼ちゃんも一緒にさ」
「涼ちゃんって、こいつか?」
「そうそう。悪い人じゃなさそうだしね」
「僕はあまり気が乗りませんけど、さっきあれだけやったので大丈夫だと思いますし」
桜木の言葉に、あの時のことを思い出したのか、凛がそろそろと前を向いたまま後ろに歩いて来る。
「桜っちって、意外と残忍だったんだね」
「まぁ、見た目はああでも、妖怪退治屋の養成学校に行ってたんだから、あれくらいは当然だろう。妖怪に同情はいらないからな。むしろ、残忍さが必要だ」
「あははは、そうかもね」
前を歩く桜木の方に走って行く凛。その後ろでは、なぜか俺と冬眞が並んで歩いている。
「変態だな、お前」
「二度も言うな!俺はあいつの護衛をするように頼まれたんだからな!」
「だからって、そうベタベタくっつくもんじゃない」
「だから、違うって言ってるだろう!」
「ふん。呆れるな」
「誰も俺の話しなんか聞きやしねぇ」
寂しそうに言う冬眞を横目に、俺は内心面白く思っていた。冬眞をからかうと面白いと言うことに対して面白いと思ったのだ。だから、ほとんどはからかっているだけだが、少しだけ本当の気持ちも混じっている。
「なぁ、伊織」
「なんだよ」
「幸せだな、お前は」
「どこが?」
「毎日の生活の中で、一人になる時なんてほとんどないだろう?」
「まあな」
「羨ましいぜ、ずっと一人で生きて来た俺にとっては。話を聞いてくれる奴すらいないんだからな」
そう言う冬眞は、ふざけた様子はほとんどなく、無表情なのだが、悲しさが混ざったような様子が伺えた。
「・・・・話ぐらいなら、いつでも乗ってやるよ。だから、もう一人だって思うな」
自分でも驚きの言葉を話している。そんなことは思ってもいなかった言葉だ。まだボソボソと言う感じだったから、聞こえない方が幸いなのだが。
「・・・・意外だな。お前から、そんな言葉が聞けるとは」
「・・・・」
恥ずかしくなってうつむく。
何てことだ!丸聞こえだったなんて。これは一生の不覚だ。
「まっ、ありがたくその言葉を受け取るぜ」
「受け取るな。聞き流せ」
「ありがたく受け取るぜ」
馴れ馴れしく肩に手を乗せて来る冬眞の手を払いのけ、恥ずかしいとも呆れたとも言えない気持ちで道路を歩いた。