魔界の国宝 雷光銃編 殺し未遂
学校が終わって家に帰ると、先に帰っていた凛達がいた。
「あのさ、色々調べてみたんだけど、わかったよ。哉人君のお父さんがいるところ」
「そうか、随分速かったな」
「うん。これからそこに行くところなんだ」
凛の言葉を聞いた時、哉人の体が震えたような気がする。きっと強がってはいるが、怖くて悲しいんだろう。何とも思えない心の渦がグルグルと回っているんだろう。魔界を出て行く時、俺が感じたように。
「いいのか、哉人」
「う・・・・ん。せっかくわかったんだ。だからさ、行かなくちゃ。嫌と思っててもさ」
「なら、さっさと行くぞ」
「亜修羅を待ってたのにさ~」
「早く案内しろ」
ぶんぶくれる凛を無視して、さっさと家を出て行く。まぁ、どこなのかは知らないから、歩くことは出来ないが。
凛と桜木を前にして、あるアパートにたどり着いた。外見だけでは普通のアパートと差程変わらない。ここにいるってことか。
「ここだよ、ここにいるはず」
「どうやってここにいるって知ったんだよ?」
「情報網だよ。とにかく行こう」
先に階段を上って行く二人の後から、俺も階段を上ろうとする。しかし、哉人が上って来ない。
「行くぞ」
「・・・・」
下を向いて、歩こうとしない哉人を促すと、無言で首を振った。足がガクガク震えている。
やっぱり、怖いか。
「・・・・大丈夫だ。俺がついてる」
小刻みに揺れる哉人の頭に手をのせる。驚いたように上を見上げる哉人の振るえは、大分納まって来ている。
「うん。ありがとう。お兄ちゃん」
「心の準備が必要ならば、それまで待ってるが・・・・」
「大丈夫。ここに来るまでに準備は出来てたけどさ。足が竦んじゃって」
「行けるか?」
「うん」
階段を上って行くと、奥のドアの前で二人が待っていた。
「大丈夫?」
「ああ」
「じゃあ、インターホン押しますよ」
桜木が押したインターホンの音が聞こえる。それから、ドアが開かれた。
「あなた達、どなた?」
「あなたですか?」
「は?」
「だから・・・・」
その時、奥から男が出て来た。哉人によく似た男だった。
「かっ、哉人!!!?」
「お父さん・・・・」
「まさか、あなた!」
「ちっ、違う。これは・・・・」
「裏切ったの!!」
「違う、だから・・・・」
「裏切ったのね・・・・」
女は、不意に近くのテーブルに置いてあったナイフを、男に向かって突き出した。
「なっ、何を・・・・」
「あなたのせいで、この子はお父さんがいないことになってしまうのよ!その罪を償いなさい!」
止める間も無く、女は男の胸にナイフを突き立てた。白かったワイシャツに、赤黒いシミが広がって行く。
「お・・・・とう・・さん・・・・?」
「全てこいつが悪いのよ!私を裏切った。私は、貴方だけだと思ってたのに!」
狂ったように、金切り声を上げる女。男は、崩れ落ちるように床に倒れる。
「・・・・私は・・もう・・・・」
自らのナイフを、自分の胸に刺す。そのままナイフを抜き、哉人の方に刃を向けた。
「恨んでやるわ。あなたの母親も、もう直死ぬ・・・・」
女はそう言った後、死んで行った。アパートの玄関に、二人の人間の血だまりが出来ている。
「救急車を呼ばなくちゃ!?」
「もう、遅いよ・・・・」
「えっ?」
「もう死んじゃってる。それに、この人は、母さんも、僕をも裏切ったんだ。だから、いいんだ。もう、遅いんだよ」
「何言ってるの?」
「この人は、僕の父さんじゃない」
「でも・・・・」
その時、家の中の電話が鳴った。家の住民がいないから、俺が取るしかないか。
「はい」
「知ってるんだぞ。お前が俺の女を盗ったってな」
「誰だ?」
「お前の大切な者、全て奪ってやるからな!」
合成音の声が途切れ、電話が切れる。随分とめんどくさいことに巻き込まれたみたいだ。
「凛、電話しとけ!哉人、お前の母さんが危ない!」
「えっ!?」
我に帰った哉人は、先に走った俺の後について来る。さっきはあんなことを言っていたが・・・・。
「病院はどこだ?」
「わからない・・・・でも、多分、近くの病院」
哉人の言葉を聞いて、近くにある病院に向かった。しかし、そこは病院ではなかった。と言うか、病院だったと言うべきものだ。目の前には、建物の残骸が転がっていた。
「おい、そこの君達、入っちゃダメだよ!」
「退け!」
警察が止めて来るのを押し退け、妖狐の姿に戻り、哉人を抱えて建物の残骸の一番上の階に上って行く。
割れていた窓ガラスから中に入り、病院の廊下に下りる。そして、一つだけ被害が少ない病室に入って行った。
そこにはベットに横たわっている女に銃口を向けている男がいた。
「お母さん!」
「近づくんじゃねぇ!俺が務所に入っている間に・・・・。女の次は、お前だ!ガキ!!」
男は銃をこっちに向けて足元を撃って来た。その弾は避けずとも外れた。
「死ね!」
最初は本気で狙って外れたのかと思ったが、それは違っていた。俺達の目を下に向けさせている間に、哉人の母さんを撃ったんだ。
「お母さん!!」
哉人は止める間もなく母親の方に走って行った。それをニヤニヤと笑いながら、男が哉人に銃口を向ける。
「避けろ!」
俺の声をかき消すように、男は引き金を引いた。大きな銃声と共に出された弾が、哉人の背中を貫通する。そのまま、哉人はバタッと倒れた。
二度の銃声に、外の警察が動き出したようだ。拡声器での声が聞こえる。しかし、興奮状態に陥っていたのか、声が全く聞こえない。
俺は無意識のうちに男の後ろに周り、首を押さえた。そして、そのまま力を入れる。
「な・・・・何する・・・・」
「あいつは関係なかっただろう!何で撃った!!」
「・・・・」
「何で撃ったんだって聞いてんだ!!」
「ぐっ、ぐるじい・・・・だずげでぐれ・・・・」
「答えろよ!!」
更に力を入れる。すると、嫌な音がする。ギシギシと言うような、骨がこすれあう様な音がし続けている。
このまま、こいつが死んでしまうんじゃないかと思うけれど、自分では止められない。どうしようもない怒りに体が占領されてしまったようで、言うことを聞かない。
本当にまずいと思った時、後ろから凛の声が聞こえた。
「亜修羅。人を殺しちゃダメだよ!」
「凛・・・・桜木・・・・」
「約束したよね?もう、人殺しはしないって!」
「・・・・」
「亜修羅!!」
凛に怒鳴られて、やっと我に返り、首を絞める腕を緩める。男は崩れ落ちるように床に倒れこみ、荒々しく息をしている。
「亜修羅!」
「悪い。やっぱり、まだ直ってないみたいだ。とっさになると、人を殺しかねない」
「バカ!!」
「・・・・もう少しで、約束を破るところだった」
「でも、間に合ってよかった・・・・」
約束と言うのは、凛を仲間と認めた日に約束をさせられたのだ。
その時は、もうしないだろうと思っていたから大して気にしていなかったが、今、自分の弱さに気がついて、情けない気持ちになる。
「・・・・悪かったな、助かった。凛が止めなかったら、こいつのことを殺してたと思う。こんな結果になってみると、凛がいてよかったと思う」
「・・・・ちゃんと約束は守ってよね!」
凛はそう言いながら、安堵の顔になる。約束すら守れないなんてな。情けない。自分で自分が情けない。
「あの、早く三人を病院に・・・・」
「ここが病院だよ。とにかく警察に知らせて来ようか」
いつもとは違い、落ち着いた凛に指示を出されて、警察を呼びに行った。