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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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共同生活二

昨日は、凛がそのまま外にいて、家の主の俺がタンスで寝る羽目になった。本当は布団で眠りたいところだが、あのまま凛を押入れに寝かせておいたら、俺は眠るどころではなかっただろう。ギャーギャー騒ぎまくって、うるさいとアパートの住人に駆け込まれるとめんどうだから、仕方なしに俺の布団を貸すことになった。


「なんか、こう思うと、人間の姿になってても、妖狐のにおいは消えないよね?」

「おい、お前。人の布団で寝ておいて、においをずっと嗅ぎまくってたのか?そんな奴は即、お断りだな。それに、もう俺に近づくな」

「そんなんじゃないよ。僕も、亜修羅同様に鼻がいいでしょ?だから、意識してやろうとは思ってなかったんだけど、自然と鼻ににおいが入って来たんだよ」

「ふん。お前だって、人間のくせに、犬のにおいが強烈だぞ」


鼻をつまんで見せたところ、凛はそれを気にしていたのか、顔をしかめると、自分のにおいをかぎだした。まるで、加齢臭を気にしだした中年みたいだ。


「だよね、一日に五回は水を被るようにしてるんだけど・・・・」


と言うなり、凛は水道の蛇口の向きを無理やり上に曲げると、水道をひねった。もちろん、水は噴水のようにあたり一面に飛び散った。出してあった教科書にも、せっかくやったプリントにも。


それと同様に、凛と俺も水浸し。凛は満足そうだが、俺は怒ったいた。


「おい、何してくれるんだ!せっかくやった宿題のプリントや、教科書が濡れたじゃないか。結構苦労してやったんだぞ、この問題!!それに、これから学校行くって言うのに、制服も、体も、髪も!ビショビショじゃないか!!この髪、乾かすのに凄く時間がかかるんだぞ。三十分かかるんだぞ!!」

「あっ、ごめん。髪を乾かすのに、そんなにかかるとは思ってなかったから」


俺の髪は、普通の人間よりもめんどくさく、乾かすのにも時間がかかる上、そのままほうっておくと、大爆発を起こす。だから結果から言うと、長い時間をかけて髪を乾かさないと、ひどいことになると言うことだ。


「ったく、何てことしてくれる。後五分だぞ」


ブツブツ文句を言いながら髪を乾かす。ここで、決してバサバサと乱雑に乾かしてはならない。めんどくさいが、ブラシで解かしながら乾かさないと、爆発する。


「何か、亜修羅の乾かし方って、少女の乾かし方みたい。髪を傷つけないように、丁寧に、ブラシで解かすかしながらドライヤーで乾かしてるよね?」

「おい、それはお前に言える立場か?自分が髪をぬらしたくせに。ふざけるなよ」

「ごめん、じゃあ僕も亜修羅に合わせて遅刻するよ」


凛は勝手にそう決め、押入れを開けた途端、ドライヤーのうるさい音にかき消されないぐらいの大声をあげて、押入れをバンと閉めると、そのままドアを開けて出て行った。


これはいいチャンスだと思い、鍵を閉めると、また髪を乾かす作業に移った。それからしばらく立つと、ドアをドンドン叩く音が聞こえた。きっと、凛に違いない。


「開けて!開けて!!水をぶちまけたのは僕が悪かったから!」


最初はその言葉を無視して乾かしていたが、あまりにもうるさいので入れてやった。見ると、凛は半泣き状態である。本当に、こいつは犬神なのだろうか。それにしては、かなりの臆病者である。


「何で鍵なんかかけたのさ?僕を追い出すチャンスだと思ったの?」

「そうだ」

「また。何で、人を傷つける言葉を、そう即答で答えるのかな?」

「とにかく、学校行くぞ」

「ええぇ、せっかく休めると思ったのに」


ブチブチ文句を言う凛を引きずり出し、学校に向かう。頭にはせめてもの情けで帽子を被った。それに髪を入れれば大丈夫だろう。


なぜ帽子に髪を入れるのか。それは、ちゃんとした訳がある。人間の姿の俺は、髪がそう長くはないが、妖狐の姿になると長くなる。しかも、黒から金髪に代わるのだ。だから、完全に乾かさないといけないんだ。これは、生乾きの状態でいると起こることだから、普通にしっかりと乾かしていれば、普段の黒髪の短髪でいられる。


凛はやたらしつこく話しかけて来た。女よりもうるさくしつこいのだ。こいつといると、狂うなと思った俺は、通学路から外れた方向から学校に向かうことにした。こうすれば、凛もついて来はしない。


そうして、凛からの機関銃攻撃を何とか避けると、髪のことに気を配りながら、何とか学校に登校した。


「おはよ、伊織君。あれ?どうして帽子なんか被ってるの?」

「・・・・」


靴を履き替えている時に女が聞いて来る。それを無視し、そのまま階段を上って教室に向かう。そして鞄を机の横にかけると、本を取り出し、読み始めた。もちろん、帽子は被ったまま。


「おい伊織。お前、頭がおかしくなったんじゃないか?教室に入って来ても、まだ帽子を被ってるなんてよ」

「・・・・」

「目も悪くなったのか?」

「・・・・」

「おい、聞いてんのか?」


喧嘩っ早い男が俺の襟を掴んで凄んで来た。男は、俺が本から視線をはずし一瞥すると、場の悪い顔をして襟を放すと連れの奴らと離れて行った。


そのまま、襟を直すと席に着く。そして、また本に目を戻す。それが、ほとんどのことだった。俺から手を出すことはない。いや、出さずに終わるんだ。ただ、相手を見るだけで戦意喪失を誘うらしい。それはある意味で、幸を呼んでいるだろう。


しかし、それは、時に不幸を呼び寄せることもある。


「おい、一年坊、ちょっと面貸せや」


いかにも不良丸出しと言う男子生徒が、突然俺の教室に入り込んで来た。その途端、クラスメートは四方の隅に、お互いの身を縮めあっている。


ただ一人、俺だけが平然と読書をしていた。それが不良のプライドを傷つけたのか、俺を殴りつけようとする。それを、取り巻きの一人が差し押さえる。そして、何かを耳打ちすると、不良はおとなしくなった。


「お前か、最近転校して来た一年坊ってのは。しっかし、なんだ。俺の方がよっぽどイケてるじゃねぇか。顔のいい転校生が来たって騒ぎ立てまくってて、楽しみにしてたのによ」


不良は、つぶれたパグ似の顔を撫で回す。そして、取り巻きに鏡を出させると自分の顔をじっくりと眺めだした。こいつ、不良のうえにナルシストなんて、最悪だな。俺の方がよっぽどマシだ。自分でいい顔と言うのは引けるが、このパグのつぶれ顔よりは断然マシだ。


「お前の方がよっぽど不細工じゃないのか?パグとゴリラを掛け合わせたような顔をして。よく、そんな醜い顔を毎日眺めていられるな。いい加減、現実を直視したらどうだ?」

「お前、猿飛さんが一番気にしていることを・・・・」

「何か言ったか、沙山・・・・」


完全に怒っているパグのつぶれ顔。取り巻きの一人をにらみつけてから、さっきとは打って変わっての、殺意も感じられるほどの視線でこちらをにらんで来た。


しかし、こんな弱いにらみで負ける俺じゃない。妖怪でなら、この倍以上のにらみをする奴がいるんだ。


「いえ・・・・」

「パグのつぶれ顔。ここは、お前のクラスじゃないぞ。勘違いするな。俺たち、一年B組の教室だ。お前は、ペット小屋にでも押し込まれていろ」

「お前、猿飛さんをバカにするなぁー」


取り巻きの連中五人が、机や椅子を蹴散らし、拳を振り上げて襲い掛かって来る。俺は、戦うつもりはないが、仕方なしに立ち上がると、少し本気でにらみつけてやった。


すると、さっきとは打って変わって戦意喪失したようで、拳を下ろし、すごすごとパグのつぶれ顔の後ろに隠れた。


これが、妖怪のにらみってものだ。自分達のにらみがどれだけ可愛いものか、これでわかったか。俺にしてみれば、恋する女が相手を見つめる視線と同じくらいに感じたぞ。


さすがつぶれ顔。これ以上つぶれないらしく、何とか持ちこたえたらみたいでこっちを見ている。しかし、さっきまでの殺気すら感じる視線とは違い、今は恐れている様子が手に取るようにわかった。


「お前、なぜ教室内なのに帽子を被っているんだ?」

「パグのつぶれ顔には関係ないことだ」

「まさか、その下はツルツルだったりしてな」

「それは傑作ですね、猿飛さん。早速取って見ましょうか?」


その話を聞いて、クラスの男達の目の色が変わった。さっきまでは、恐れをなしていたのに、急に俺の帽子のことを取ることを目的にしたようだ。


そして、俺は挟み撃ちに遭った。しかし、何とかそれをみんな避け、教室の四隅の一つを後ろに、前を向いてドンドン迫って来る男達から離れようと後ずさる。その時、不意に帽子を取られた感触がした。


後ろを振り返ると、そこには無表情な顔が見える。いつも影が薄くて全然気づかれないのだが、男達にとってはそれが今には一番よかったことらしい。


帽子の中に押し込んでいた髪が、帽子を取られたことにより一気に滑り落ちた。光を浴びて、光るように輝く長い金髪を、その場にいた全員が呆然と眺めることとなった。


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