魔界の国宝 雷光銃編 学校で再び・・・・。
「なぁーにやってるの?」
「・・・・」
雷光銃の騒動があった次の日、とりあえず学校に来た。そして、今は五分休みの時間だ。
「ねぇ、何やってるの?」
「・・・・」
「ねぇ、ねぇ」
「うるさい!考え事をしてる時ぐらい、静かにしろ!」
ただでさえ悩まなくてはならないことが毎日増え続けていると言うのに、こう毎時間話しかけられると、うざったくなる。
「・・・・ねぇ、何をそんなに考え込んでるの?」
「・・・・」
尚もうるさく問いただして来る女を無視して、椅子から立ち上がり、男子トイレの個室に入る。
どうして今までここに来なかったのか。ここなら、あの女だってついて来られないと言うことを。
さて、まずは何から始めよう。色んなことがあって、何から考えていいのかはっきりとわからない。
そんな時、個室の扉をドンドンドンドンと勢いよく叩かれた。
「おい、伊織」
「・・・・」
「おい!伊織!」
「・・・・」
「お・・・・」
「なんだ?」
ドアを開けて立っていたのは、クラスメートの男だった。名前なんて、覚えちゃいない。
「『なんだ?』って・・・・。トイレの個室に入りたいって言ったら、一つしかないだろう?」
「・・・・お前も考え事か?」
「違う!とにかく、出てくれ!!」
何をそんなに急かすのか、理由がわからない。余程収集がつかない悩み事でもあるのだろうか?
「訳がないのなら、俺が先にいたんだ。しばらく待ってろ」
ドアを閉めようとすると、必死で止めて来る。訳を言えばいいものを、何も言わないんじゃ、俺だってスッキリしない。
「頼むから出てくれ!」
「ああ」
あまりにも必死に言われたから、仕方なく外に出ると、男は急いでドアをバタンと閉じてしまった。それと同じタイミングで、隣の個室のドアが開く。
「久しぶりだな、妖狐君」
「お前・・・・何でいるんだよ」
個室の中から出て来たのは、雷光銃を奪った妖怪だった。ちゃんと、高校の制服を着ている。
「まぁ、色々とな」
「返せよ、雷光銃」
「ま、その話は屋上ででもしようぜ。ここは、今こいつが入ってるからな」
その妖怪は、親指でトイレの個室のドアを指差し、トイレから出て行く。こいつは一体何が目的なんだ?全くわからない。
「俺は、冬眞って言うんだ」
「そうか」
「お前は、亜修羅って言うんだろ?ずっと見張っててわかった」
「お前の話はいい。さっさと雷光銃を返せ」
「短気だな。とにかく、俺の話しを聞いてくれ。俺は、残り数少ない転生種族の一人だ。お前は、最近魔界に戻って来たか?」
「いや。戻っていない」
とりあえず、冬眞の話しを聞こうと思う。初めから思っていたことだが、こいつはなんだか悪い妖怪には思えなかったのだ。
「今、魔界では種族ごとに言い争いが起きている。きっと、もう直ぐ種族戦争が起こることだろうと思う。それを思った族長が、俺に雷光銃の使い手と共に、雷光銃を持って来いと言って、俺を送り出した。と言うことだ」
「・・・・だからって、お前が雷光銃を持っていいと言うことはないだろう?」
俺の指摘に、冬眞は舌をチラリと見せて、ズボンのポケットから雷光銃を取り出した。
「まぁ、そんなところだ。だから、これは俺が預からせてもらう」
「おい、そんな道理が通じるとでも思ってるのか?」
「まあな、一応国宝として認められる前は、雷光銃は俺ら『転生種族』のものだったからさ。ちなみに、『戦闘種族』は冥道霊閃。『頭脳種族』は烈火闘刃」
「何でそんなに詳しいんだよ」
手すりによっかかり、尚も雷光銃を見ている冬眞から取ろうとするが、左手に持ち返られて失敗する。
それにしても、冬眞が数少ない転生種族だったとは思わなかった。と言うことは、こいつは不死身なのか。
雷光銃にしか意識の向かっていない冬眞を思い切り外側に押し出す。そのまま、冬眞は下に落ちた。
「おい、何すんだよ!一言もねぇから驚いたじゃないか!」
「いや、不死身だとわかったからな。試してみようと思ってな」
かろうじて、手すりにぶら下がっている冬眞を見下ろしながら言う。冬眞は助けてもらいたそうな顔をしているが、助けない。助けないに越したことはないんだ。
「おい、助けろよ!お前が落としたんだろ?腕っ節は弱いんだぞ、俺!」
耐え切れず、悲痛な声で叫ぶ冬眞を無視し、背を向ける。俺だって、凛程力が強い訳じゃない。まぁ、頭は俺の方がいいけどな。でも、そう考えると、転生種族は不死身なこと意外取り得がないな。そう考えると、頭脳種族でよかったかもな。
「何を考えてる!さっさと助けやがれ!この野郎!!」
「助けてもらう人に、その言い方はないだろう?」
「助けて下さい!お願いします!」
「嫌だ」
「おい、ふざけんな!頼むから助けろ!もう、腕がまずい」
そう言う冬眞は、本当に余裕をなくしている。
仕方ない、見殺しにすると、魔界警察庁に入れられるからな。
嫌々ながら引き上げる。校庭では体育の授業をやっていたが、みんな、上を向かない為に、冬眞が落ちそうなところなど見ていなかったのだろう。
「おい、年上をバカにして楽しかったか!?こっちは本気で頼んでるのによ!死ぬところだったぜ」
「そうか、年上には見えないけどな。それに、不死身じゃないのか?」
「可愛げのないガキだぜ」
「お前には言われたくないな。年上って言っても、大して変わらないんだろう」
「・・・・よし。まぁ、何にせよ、助けてくれたことに免じて許してやろう。それで、続きだが・・・・」
その時、授業が始まっていて、もう誰も入って来ないはずの屋上のドアが開き、入って来たのは、この高校の不良達だった。みんな、髪を染めたり、ピアスをしたりと、派手な連中だ。さほど強い訳でもないのに、見た目だけがド派手だ。
「おいおい、そこのお兄ちゃん達、もう授業は始まってますよ~」
「それはそっちも同じだろう」
「いいのかな?人の縄張りを奪った上に、そんなこと言っちゃって。一年B組の伊織修君」
「何で俺の名前を知っている?」
「お隣は、二年C組の加藤涼護君だよね。二人の不良がおそろいで。仲がいいらしいね」
「お前、加藤涼護って言うのか」
「伊織修って言うんだ」
お互いの人間名を知らず、確認してしまった。別にからかった訳じゃないのだが、不良達のしゃくに障ったらしい。
まぁ、こいつらのしゃくがどこにあるのか知らないが。
「おい、とぼけてんじゃねぇぞ!」
早速殴りかかって来た不良達を、一秒もかからずノックアウトし、話しを再開する。こいつらに邪魔されて中断した時間は取り戻せないと言うのに。
「続きは?」
「・・・・それがなぁ、忘れちまったよ。また今度にしてもらいたいんだ」
「そうか」
「怒んないのか?」
「ああ」