魔界の国宝 雷光銃編 小さな怒り
「あれ?凛君はどうしたんですか?」
「あいつは置いて来た。明日から、学校に行くからな」
「でも、置いて来たらまずいんじゃないですか?」
「大丈夫だ」
「置いて行くなんて、酷いじゃないか!」
急に背後から声をかけられる。無論、そこには凛がいるはずだ。確かに、凛はいた。しかし、もう一人別の人物がいた。
「おい・・・・」
「いいじゃん、可哀想なんだからさ。お母さんがね、意識不明の重体なんだって。それにさ、お父さんも不倫相手のところに入り浸っちゃってさ」
「お前、何てショッキングなことを平気な顔で言えるんだ?」
「このお兄ちゃんが、僕達の保護者だよ」
凛は、肩車をしている子供に向かって言う。話が全く読めないのは、俺だけなのか?俺がいない間に、どんな話になっているんだ?
「おい、僕らって誰のことだよ?」
「えっ、僕と、桜っちと、この子」
「だから、何で・・・・」
「だから!」
凛が大声を出し、道端を歩く人達が一斉に振り向く。
「おい、とにかく、一端家に帰るぞ」
これ以上、こんなところで大声をあげられては困る。それに、詳しいことを話すには家の方がいいだろう。
家に帰る道中、俺は何でこんなことになったのか不思議で仕方がなかった。こんな風に、桜木の時も連れてこられて、今に至っている。この子供も、ずっと家にいるんだろうか?
「じゃあ、どんなことになったのか話してみろ」
「だからね、亜修羅が出て行った後、少し話したんだけどさ。そしたら可哀想でさ」
「だから?」
「それだけだよ」
よく、子犬や子猫を拾って来ては、可哀想だから飼いたいと言う子供がいる。しかし、凛はそれよりも性質が悪い。人間を拾って来る。なら、まだ子犬や子猫の方がマシだ。
「・・・・お前はどうなんだ?」
「どうなんだって言われても・・・・。人に迷惑をかけるなって言われてるしさ、一人の生活はきついけどさ、死にそうになったけどさ、迷惑をかけちゃうから」
「・・・・死にそうになったって?」
「うん、お父さんはお母さんじゃない女の人のところに行っちゃって帰って来ないしさ。お母さんは病気で病院にいるしさ」
「孤児院には行かないのか?」
「お母さんと約束したんだ。お母さんが帰って来るまで、家で待ってるって。だから、孤児院には行かない。だけどさ、お金もないし、何も食べられないしでさ、一回栄養失調で倒れちゃってさ」
「・・・・」
俺は、こいつに何をしてやれるんだ?
「お前は何を望んでる?」
「望んでる?」
「ああ」
「そりゃ、お父さんが帰って来てさ、お母さんの意識が戻って来ると嬉しいけど」
そうだ。こいつは、世話をしてもらうことを望んでいる訳じゃない。父さんと母さんを望んでるんだ。だったら、それを叶えてやればいい。
「よし、母さんの件はどうだかわからないが、父さんは連れ戻してやる。それまでの間は、世話をしてやる」
「何、それ?話が全く読めないけど・・・・」
「凛が言っていることよりは、合理が通ってる」
「?」
尚もわからない凛に、小声で事細かく説明していると、子供が不意に言い出した。
「お父さんのことはいい・・・・」
「なんでだ?」
「よくわからないけどさ、お父さん、お母さんのこと捨てちゃったんでしょ?出かける時に、『仕事に行って来る』って言った切り戻って来ないしさ、お母さんもそのことに気がついてて、毎日夜中に泣いてたのもわかってた。だから、お父さんは戻ってこない方がいいのかもしれない。お母さんも、ストレスで倒れちゃって、原因がわからないまま意識が戻って来ないしさ」
「それはダメだ。その父親には、ちゃんと罪を償ってもらう」
「でも、いい!僕とお母さんを捨てた人の顔なんか、見たくない!」
「お前、ケータイ持ってるか?」
「うん」
「父親のケータイ番号知ってるか?」
「知ってるけど、番号を変えちゃったみたいでさ。電話をかけても、この番号は使われてないって」
「そうか」
「そんなの聞いてどうするのさ?」
「いや、じゃあ約束だ。父親が帰って来るまでならいいだろう」
そんな父親は許しておく訳にはいかない。何でそこまで熱くなるのか自分でもわからないが、とにかく許せなかった。なぜだろうか。
「でも・・・・」
「大丈夫、お父さんが言ったんだから、大丈夫」
「おっ、お父さん?」
「いや、こいつが勝手に保護者だと思ってるだけだ。それに、こいつと歳はそんなに変わらない」
「ありがとうございます」
「気にするな」
そうして、俺は子供を受け入れた。なぜ、あんなに熱くなったのかは今でもよく分からないが、取りあえずは受け入れることにしよう。