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想造世界  作者: 玲音
第二章 三つの国宝
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魔界の国宝 雷光銃編 泥棒退治

それからしばらくして部屋に戻ると、桜木は何事もなかったかのように寝ていた。それを見て、ほっとしたのは確かだ。


「何だか、気持ちよさそうに寝てるね」

「ああ、そうだな」


桜木を確認してから、俺達もまた、ベットに入った。しかし、目が冴えて眠れない。それは、凛も同じようで、下から声をかけて来た。


「ねぇ亜修羅、起きてる?」

「ああ」

「僕さ、思ったんだけど・・・・」

「何を思ったんだ?」


そこで言葉を切る凛に聞く。何を思ったのか、はっきりしないんじゃ無理があるだろう。凛の心が読める訳でもあるまいし。


「今日、お寿司食べたい」

「・・・・は?」

「前に言ってたんだ。桜っちがさ、お寿司を食べるのが夢なんだって。だから、明日の戦いの前に、夢を叶えてあげたいなって」

「寿司が夢・・・・」


何だか、とても可哀想な桜木に同情したくなるが、そんなことを言っても、このドームからは出られないし、かと言って、ここに寿司屋がある訳じゃないだろう。第一、学校に行くのに金は持って行っていないから、すっからかんだ。


「僕さ、それを聞いた時、凄く可哀想だなって思ったんだよ。今まで家がないって言う時点で凄かったし。お寿司なんて、夢のまた夢なんだろうなって」

「俺だって、嫌と言うことはない。ただ、金はないし、第一、寿司屋なんかどこにあるんだ?」

「ドームの中の十階にあったよ」


「それって、もはやドームじゃなくて、半球型のビルじゃないか・・・・」

「それに、お金だったら今から取りに行けるでしょ」


俺の呟きを無視し、凛が言う。凛は表現が大げさな上、考えることも無茶ぶりだ。付き合っていて疲れるタイプだが、慣れればそう悪い奴でもないと思える。ただ、ベタベタくっついて来るところだけは直してもらいたい。


「そうだな。丁度眠れない。だったら、家から持って来るか」

「おっ、何だか、今日は僕の意見に素直に従ったね」

「お前の為じゃない。桜木の為でもないが、とにかく、気が向いた」

「奥さんったら、素直じゃないのよねぇ、田中さん」


「おい、おばさんになってるぞ。それに、架空の人物に話しかけてるんじゃない。頭でも打ったのか?」

「そんなこたぁねぇぜ。おやっさん。あっしは元気溌剌でっせ」

「おい、誰だよそいつ。俺、そんな奴の言葉なんか知らないぞ」

「坊ちゃんは勉強が足りないようですね。私がみっちり・・・・」

「いい加減にしろ!行くならさっさと行くぞ」


「痛いなぁ、叩くことないじゃないか。て言うか、どうやって叩いたのさ。下に下りて来ないで」

「ぶら下がってるんだよ。犬神のお前なら簡単だろう」


梯子に絡めていた足を解き、空中で一回転をして、地面に足から着地する。あいつなら、空中で三回ぐらい回転しそうだ。


「まあね、人間の小学生の子でも出来るよ」


そんなことを言っている凛を無視し、今度は部屋の窓(さっき、桜木がいた窓)から飛び降りて、真下にあった家の屋根に飛び降りる。その後から、凛が飛び降りて来る。


「おい、窓の鍵は閉めて来たのかよ?」

「大丈夫、何とか閉めて来た。ちょっと急いだ方がいいかもよ。時計を見た時、三時だったから」

「そうか。まぁ、屋根の上を走って行けば安全だと思うけどな。一応ってこともあるからな」


そう言うことで、屋根の上を走り、誰にも見つからずに家に戻れた。しかし、家の中で何か物音がする。


まさか・・・・泥棒か?


「おい、家の中からゴソゴソと音がするぞ」

「もしかして、泥棒?」


凄い小声で話しながら、そっと裏に回り、ベランダから中を覗く。カーテンは、幸いなことに開いていたが、あまり好ましくないものを見てしまった。やはり、泥棒だった。


「おい、どうする?」

「もちろん、盗まれる前に捕まえる」

「どう言う手段で?」

「正面突破!」


凛の意見など聞いても無駄だ。大体想像はついたし、(現に、思った通りのことを言った)その言葉への返事も決まっている。だから、自分でちゃんと考えよう。凛に聞くな。


「何?その顔。自分から聞いたくせにさ」

「だからってな、自慢げに『正面突破!』なんて言う奴がいるか?」

「だって、それしか手がないんだもん。それに、相手は人間だし、もし包丁とか銃とかを持ってたりしてもさ、銃の弾は避けられるし、包丁だって、刺さっても死にはしないでしょ」


「言っておくけどな、俺は、そんなに死にそうになってまであいつを捕まえたくはない。第一、凛にとっては簡単なことかもしれないけど、俺は、凛のように戦闘種族じゃない。勘違いするな。俺は頭脳だ」

「とか言っちゃってさ、部類はそう分けられてても、亜修羅ってさ、結構突発的なことばかり言うじゃん」


凛に言われて、確かにそうだとは思う。けれど、凛よりは物事を深く考えて言っているつもりだ。凛こそ、まさしく突発的な発言の仙人だ。そこだけは尊敬する。


ここで、少し種族について話しておこう。


妖怪の種族は、大きく三つに分けられる。戦闘種族、頭脳種族、転生種族だ。戦闘種族は、主に戦いを好み、三つの種族の中では一番戦闘能力が高い。これは、凛だ。頭脳種族は戦闘を拒み、頭脳で対決をする。出来るだけ戦闘は避けるタイプだ。これは、俺。最後に、転生種族とは、死んでも何度でも蘇ることが出来る不死身の種族。凄い種族故に、数が極わずかで、出会った奴は珍しいと言われている。これが、妖怪の三つの種族だ。


その種族は生まれつきに決まり、部類は関係なく決められる。例えば、同じ犬神でも、戦闘種族になったり、頭脳種族になったりもする。転生種族は滅多にないだろう。これは、例えるのも無駄なくらい確率が低い。


「だからさ、行こう」

「・・・・まぁ、この場合・・・・仕方がないのか?」


俺のボヤキを無視し、凛がベランダの窓をソロソロと開けて中に入る。続けて、俺も中に入る。


その時、月の光が入って来ないとわかった泥棒が後ろを振り返った。そして、何もしゃべる間もなく、大きな袋をサンタクロースみたいにかつぎ、ドアをバンッと開け放ち、出て行った。


「ほら、亜修羅が遅いから!」

「俺のせいにするな。あのクソ泥!」


「口悪いって。大丈夫。直ぐ捕まえられるから」


泥棒を追いかけながら、余裕の口調で話す凛。俺は、凛のように余裕にはなれない。


泥棒は車に乗り込み、エンジンを全開にして走り出した。


おい、まだ追いかけるのかよ。車なんて追いつけるとは思えないけどな。


「よし、あれくらいのスピードなら大丈夫」

「お前は平気かもしれないけどな、俺は全然平気じゃないんだぞ!」

「えっ、体力なさ過ぎ」


俺は、イラッとして凛を殴る。俺が変なんじゃない。こいつがおかしいんだ。


「まぁ、取りあえず、こっちは屋根の上を走ろうよ」


凛に窘められ、納得はしないものの、車を追いかける。その車は、今度はコンビニの横に止まり、コンビニの中に入る。あの泥棒は、追いかけられてるって言うのに、まだ盗みを働く気か。それとも、上手く逃げたつもりなのか?


真夜中のコンビニは、人気が少ないと言えども、二、三人の客がいた。しかし、そんなの関係ない。


「強行突破するぞ」

「・・・・僕の言葉と同じにしたくないから、無理に言葉を変えたみたいだね」

「いや、そう言う訳じゃない。もう、コンビニであいつらを仕留める」


「・・・・全く、頭脳種族じゃないって。戦闘大好きじゃん。亜修羅って・・・・」

「何か言ったか?」

「いや、別に。行こうか」


凛の呟きははっきり聞こえたが、あえて聞こえてない風に聞いた。理由なんて、ただムカつくからだ。


コンビニの中に入る前に、中を確認する。すると、二人のうちの一人が、人質を殺すなどと怒鳴り散らし、もう一人は、コンビニのレジを開いている。あいつら、本当にバカだな。同情するぐらいに。


「おい、凛・・・・」

「泥棒!観念して捕まれ!」

「あのバカ・・・・」


凛は俺の言葉も聞かずに、のうのうとコンビニの中に入り、刑事ドラマで言うような言葉を言う。それで、相手にも気づかれたとバレ、こっちもコンビニの中に入る。


「これ以上近づくな・・・・でないと、撃つぞ!」


女の客の首を押さえ込むようにして左手で抱え、右手の銃を凛に向けている。


しかし、凛は笑顔で前にズンズン進むから、逆に怖いらしい。銃を持つ手が震えている。しかも、パジャマだ。・・・・これは関係ないか。


「いいよ。その弾、避けてあげる」

「おい、いくらかっこつけてもな、お前はパジャマだってことを覚えとけ!」

「あっ・・・・」


凛が、今気がついたとばかりにパジャマを見下ろす。そのパジャマは言わずと知れている、ピンクの可愛らしいウサギ柄。俺は死んでも着たいと思わないパジャマだ。それを着ていたら、いくらかっこいいことを言っても、かっこよさがゼロになる。


「俺は人質をどうにかするから、凛は泥棒を頼んだぞ」

「任されちゃった♪」


喜ぶ凛をあえて無視して、人質の方に近寄る。それで何かを聞いたら、心配でたまらなくなりそうだ。


「怪我はないか?」

「あっ、ああ。でも、この姉ちゃんが銃で撃たれた」


男の指差す方に目をやると、確かに、服が血まみれになっている二十代ぐらいの女がいる。まずは応急処置が必要そうだな。


「おい、あのウサギの柄のパジャマの方の奴が銃で撃たれるぞ」


俺が女の応急処置を行っている間、男が話しかけて来る。もの凄くうざいと思うが、不安なのだろうと思い、何とか突き放さずに答える。


「あいつなら大丈夫だ」


その時、銃声が聞こえた。無論、泥棒が凛に向かって撃ったのだろう。凛はそれを素早い動きで交わした後、凄いスピードで泥棒に近づき、人質をつかんでいる方の男の腹を殴り、力が抜けたところで人質を自分の方に引っ張り、そのまま手を離してレジの男の腕に蹴りを一発食らわせた。


あいつは手加減ってものを全く知らず、ボキッと言うような嫌な音がしたかと思うと、泥棒が苦しみだした。それまでの時間は、約一秒。みんなには、何が起こったのかわからなかっただろう。


「その人、銃で撃たれちゃった?」

「ああ、そんな感じだ」


「じゃあこれ。傷口に塗ると治りが早くなる薬」

「・・・・あんたが塗ってやれ」


凛が助けた女の客に、薬を投げてよこす。あまり気が進まない。


「おい、あの泥棒凄い苦しんでるけど、大丈夫なのか?」

「どうなんだろうね、結構優しくやったつもりだけど、骨は折れてるか、砕けてるか・・・・」

「・・・・」


男の顔がサーッと青ざめるのが簡単に見て取れた。当たり前だ。


「おい、いい加減にしろ。俺らはここら辺りで足を引こう。警察には誰かが通報するだろう」

「おっ、お金は?」

「ああ、そうだったな」


盗まれた金を取り戻し、やっぱり手元にあるのが一番だと思って、そのまま持って行く事にした。大金を持っていると危険だと言われるが、それは人間の場合だけだ。妖怪の俺は違う。人間に襲われたって、絶対に大丈夫だ。妖怪なら・・・・。


日が大分明けて来た。そろそろ帰らないとまずいかもしれないと思い、急いで帰った。


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