魔界の国宝 雷光銃編 綺麗な夜空
外は、街灯と月の光で明るい。今日は満月だ。
「と言うか、僕ら、パジャマのままだよ」
「よし、どこかの屋根にでも座るか」
「おっ、ひっさしぶり!」
偶々近くにあった屋根に座り、空を見上げた。曇り空だが、魔界にいた頃のことを思い出す。
すると、懐かしいと言う思いが波紋のように広がった。
「あのさ、桜っちは、僕らのことを結構知ってるけどさ、僕らはあんまり桜っちのこと知らないよね」
「そうだな」
「桜っちはさ、いつも悲しいとか、そんなことを微塵にも見せないけどさ、本当は悲しかったり苦しかったりするのかな?」
「そうだな。俺達と出会うまで、ホームレスだったんだからな。映画にも取られてないぞ。ホームレス小学生なんて」
「ふざけてないの!僕は本気で言ってるんだ。いつもああやって一人で悲しんだりしててもさ、僕らは何もしてあげられないんだよ?」
凛が、いつになく真剣な顔で言って来る。こちらも、何となく泣きそうな顔だ。
「・・・・」
「可哀想だよ・・・・。もっと頼ってくれてもいいのに・・・・」
何かのドラマの役者みたいに、凛の顔がグシャリと歪む。泣くのを我慢しているようだけれど、すでに涙が出ている。
俺は、無言で凛の肩を叩いた。何も言えず、こうするしかなかった。
「・・・・おい、何で俺の気持ちじゃなくて、髪なんだ」
「だってっ・・・・おちっ、つくっ、から・・・・」
「はぁ・・・・泣き止むまでだからな」
今は仕方なく触ることを許したが、それよりも、俺の心を慰めてもらいたい。こいつは、態度も言動も大げさだから、俺も大げさに表現しないと、凛に気持ちが伝わらないらしい。
「ありがとう・・・・」
「おい、そんなにしつこく触るなよ」
「これも、まだ、泣き止んでないから」
凛の言葉に、思わず黙り込む。こいつは、泣いている時でさえ、口だけは達者だ。そして、人の気持ちを考えていない。
俺は、さっき肩を叩いた時に、出来るだけ気持ちを入れたつもりだが、凛は俺の気持ちは無視し、髪を触っている。俺が何を言ったって無駄ってことじゃないかよ。
俺よりも、髪の方がいいと言われてるようなものだ。そう言われると、少し情けないが、いじけてしまう。
「・・・・僕、子供みたいだよね。」
「本当にな。と言うか、泣き止んだなら髪を触るな!」
やっと泣き止んだ凛の手を髪から離させる。こうでもしないと、何時までも離しそうに無いからだ。
「でも、僕は子供なんだから、いいじゃないか!」
「子供だって、いつまでも子供じゃいけないんだ。俺だって、もともとは子供だったんだ」
「そうなんだぁ~~」
俺は、凛の反応に思わずガックリと肩を落とす。
確かに、俺の子供の頃が想像出来ないのはわからなくもない。ただ、子供の頃がないと思っていたとは驚きだ。俺だって、子供の時代はある。
どんな未来生物でも、生長の過程で子供時代は必ずあるだろう。大人から生まれて来る生物を知っているなら、教えてもらいたいぐらいだ。
「とにかく、俺がいいたいことは、俺はお前と歳の差が一つしか違わないと言うことだ。だから、保護者とかって思うなよ」
「何でそんな風に言うのさ?」
「お前も、俺みたいに自立しろって言うんだよ」
「そんなの、当分無理だよ。子供時代を一人で過ごして来たからね」
「・・・・はぁ」
ため息をつきながら凛の方を向くと、何だか悲しそうな顔をしている。今までのふざけた様子はなくて、心からそう感じているようだ。
「僕さ、ずっと一人だったから、亜修羅達に出会えて本当に嬉しかった。誰も、僕の存在を認めてくれる人はいないと思ってたから、亜修羅のことも、利用するだけ利用して、用が済んだら捨てようと思ってた。でも、一緒に過ごすうちに、本当に楽しくて、こんな楽しい思いをしたのは何年ぶりだろうって思うようになって。
亜修羅から見れば、この言葉も嘘だって思われるかもしれないけど、そんなことはないよ。僕は、今の生活に幸せを感じてる。自分を否定しないで、ちゃんと理解してくれる仲間がいて、幸せだと思ってる。・・・・この言葉も信じなくても、これだけは信じて欲しい。僕は、二人に心から『ありがとう』って思ってる」
凛の言葉に偽りがないと言うことは、顔を見て直ぐにわかった。
しかし、凛の言葉を全て受け止める度胸は俺にはない。それに、そんなにたいそうな言葉をもらえるような立場でもない。
ただ、凛の言葉は信じようと思う。俺も、似たような気持ちだからな。
「俺も、似たような気持ちだ」
「それって、ありがとうって思ってるってこと?」
それとは少し違うように感じたが、とりあえずうなずく。すると、かなり嬉しそうにガッツポーズをした。
こいつは、バカみたいに明るいけれど、過去で苦労しているんだなと思った。しかし、それを言葉に出して言うことはしない。なぜなら、上手くはぐらかされるから。
だから、心で思うだけにしておくんだ。