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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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おしゃべりペンギン、怒られうずくまる

「失礼しま~す」


出来るだけ音をたてないようにドアを開けると、

二人の邪魔をしないように部屋の隅で正座をする。


物凄く真剣に漫画製作に打ち込んでいるみたいで、

一言も発さずに手を動かしていた。


この場の空気がピンと張り詰めて、何もしていない僕でさえも緊張する。

それは亜修羅も同じみたいで、珍しく黙って僕の隣に座ってる。


「・・・・僕達、どうしたらいいのかな?」


「俺に聞くなよ。

そもそも、お前が手伝いたい!って言うからこうなったんだぞ。

絵を描けないお前に何が出来るって言うんだ」


「そっ、そりゃそうだけどさ・・・・。

でも、絵を描く以外のお手伝いなら出来るかな~っと思ってさ」


「じゃあ、そう訊いてみろよ」

「うーん」


とてもそんな雰囲気じゃない。

むしろ、話しかけないことがお手伝いになってる気がする。

・・・・黙っていよう。


時計の秒針が動く音と、紙とペンが擦れる音しか聞こえない。

二人の様子を伺うけれど、まだまだ先は長そうだ。

・・・・こうなったら、僕のとっておきの話を披露するしかない!


もちろん、その対象は皆さんだ。

この部屋にいるみんなじゃないから、言葉を話さなくても伝わる。

テレパシーみたいだよね。


いやいや、そうじゃなくて、とっておきの話だったよね。えっと・・・・。


自分で自分の首を絞めるとは、まさにこういうことじゃないかと思う。

何も思いつかないまま下手なことを言うんじゃないといつも叱られた。

ダメな奴だなぁ~。


何もすることがない状態で放り出されるのは苦手だ。

それに、頭の中で色々考えたりするのも苦手。

今の僕には不利な条件しか揃ってない。どうしよう・・・・。


このままでは続行不可能なので、亜修羅に代わってもらおうかなと思い始めた時、

ようやく二人が手を止め、ゆっくりと息を吐いた。


「こっちは終わったけど、そっちはどう?」

「何とか・・・・」

「後は、私と兄でやるから。ありがとう」

「いえいえ」


「あっ、そうだ。悪いんだけど、お茶を入れてくれない?いつものでいいから」

「あれっ、確か昨日来た時、きれてなかったっけ?」

「それじゃあ、買って来てもらえる?」

「うん、いいよ~。それじゃあ、行ってきます」


外に出て行く市川さんに手を振ると、ゆっくりと息を吐く。

すると、僕のため息が聞こえちゃったのか、華月さんがこちらを振り返った。


「あっ、あの、そう言う意味じゃないですよ?」


弁解の意を唱えてみると、少しだけ微笑み、手招きをされた。

その様子を見て、「悟られたんだな」と瞬時に理解する。

それは亜修羅も同じようで、凄く真剣な顔で華月さんの正面に座った。


「私の能力について探ってたんでしょ?」


「はっ、はい・・・・。僕は直接見てないんですけど、

修が、あのキャンバスからライオンが出て来るのを見たらしく・・・・」


「そう。それじゃあ、検討はついてるの?」

「ああ」


「・・・・わかった。それじゃあ最後に質問。あなた達は何者なの?

今まで追って来た奴らとは違うものを感じる」


とても真剣な顔で尋ねてくるので、はぐらかしてはいけない気がする。

とは言え、素直に正体を明かしちゃっていいものか・・・・。


悩んだ末、僕は隣を見た。これはきっと、心理戦なんだ。

そう言うのは得意ではないので、任せることにした。


「・・・・人間ではなく、それでいて、人間の特殊能力に免疫のある者」

「・・・・」


華月さんはしばらくの間、僕達の顔を交互に見比べた。

その目を受け止めるように、僕達も彼女の顔を見る。


「・・・・わかった。素直に教える。そのかわり、他言はダメ。

私と兄に関わりのある全ての人に迷惑をかけるから」


「わかってる。絶対に言わない」

「うん!僕達、華月さんの正体を知りたいだけだしね!」


「それならよかった」


そう微笑む華月さんを見て、僕は大きく息を吐いた。

これはため息じゃない。

黙っていたことにより、体の中に溜まりすぎていた空気が、一瞬で外へ出て行ったんだ。

それとともに、胸につっかえてた何かも吐き出され、

僕の心は突然の解放にプカプカと浮き始めた。


「私も兄も、普通の人間よ。私は学校に通って、

兄は家にいてパソコンに向かっていることが多いけど、仕事をしてる。

ちょっと変わってるけど、変な組織に入ってるなんてことはないの」


「そうなのか?」


「うん。検討がついているらしいから素直に白状するけど、

私の能力は、キャンバスに描いた絵を具現化することが出来るの」


「おおっ・・・・」


亜修羅の言っていたことが見事正解だったので、つい声が漏れてしまった。

慌てて苦笑いを浮かべると、先を促す。


「例えば、絵そのものをキャンバスから現実世界に持ってくること。

後は、描いたものの本物を現実世界へ持ってくること。

後者の方は、あなたが見たもの。実践した方が早いよね」


彼女は自分の後ろに立てかけてあったキャンバスを手に取ると、

胸ポケットから不思議なペンを取り出した。

シルエットは普通のボールペンみたいなんだけど、

面白いことに、それは伸びたり縮んだりする。まるで如意棒みたいだ。


「それは?」


「私が描いて作り出したもの。

普通のボールペンを描いて、設定を書き込めば生み出せるよ」


「・・・・それじゃあ、もしかして、リビングの椅子も?」

「うん。硬いのが嫌だったから、クッションがひいてあるみたいに軟らかくしたの」

「・・・・」


華月さんは平然と言いのけるけど、僕達からしてみれば、相当凄いことだ。

って言うか、想像以上?

さすがの亜修羅も、これは想定外だったようで、彼女の言葉に目を瞠って驚いていた。


描いたものを具現化出来るって言うのは想像出来てたけど、

この世に存在しているものだけかと思ってた。

まさか、この世に存在していないものまで生み出せちゃうなんて・・・・。


「描くから、見てて」

「あっ、はい」


驚きでいっぱいになっていた頭を振ってリセットすると、キャンバスに集中する。


「まずは、絵そのものをキャンバスから現実世界に持ってくること」


その言葉の後、さらさらと何かを描いていく。

最初はなんなのかよくわからなかったんだけど、

終盤にさしかかった今、ようやくわかった。ペンギンだ!


でもそれは、リアルなペンギンではなく、ペンギンのキャラクターのようなタッチだった。


ペンギンが完成すると、キャンバスを手に取り、ペンギンをドアの方へと向ける。


「外へ」


その一言を合図に、キャンバスからまばゆい光が溢れだした。

その光は、ある一点に集められたかと思いきや、何やら形を描き始める。

それは、多少のブレや曲がりまでもが描いたものにそっくりなペンギンだった。


全ての線を描き終えたキャンバスは光を放つのをやめた。

それと同時に、光っていたペンギンの輪郭さえも光を失い、

キャンバスに描かれたとおりの色に染まった。


「はいはい、何のご用でしょうか、お嬢?」

「ね?」

「うっ、うん・・・・」


答えを求められて、とっさにうなずくけれど、全く状況を理解出来ていなかった。

驚く出来事がいくつも連なっているせいか、それしか言えなかったのかもしれない。


まさか、ペンギンが話すなんて・・・・。

いやいや、色の塗り方まで忠実だ・・・・。


わかりやすく言うなら、空間にキャンバスの絵をコピーしたって感じかな?

全然わかりやすくないと思うけど・・・・。


「おや、こちらさんは?なんとも間抜けな顔をしておりますな」

「ちょっ・・・・しっ、失礼な!」


「これは失敬。

いやはや、お嬢以外の人間と会話をするなんてことは初めてでして・・・・」


「・・・・」


本物のペンギンじゃなくて描かれたものだけど、

その口は言葉を発するごとに上下に動き、

それどころか、首や目、足などもちゃんと動いてる。

見た目は線画なのに普通の生き物みたいに動くから、なんだか不自然な感じがする。


「次は、あなたが見たほう」

「ちょっと、お嬢、教えてくださいな。何用で?」

「用なんてないわ。静かにして」

「はい・・・・」


ペンギンはシュンとなると、僕達に背中を向け、部屋の隅でうずくまってしまった。

普段なら彼のことを心配する。


でも、今は、次に描かれるものが何なのかととても気になるので、

申し訳ないと思いながらも、キャンバスに目を移した。


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