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想造世界  作者: 玲音
第五章 新しい出会い
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トラップハウス

「凄く広い家だね!」

「そんなことないよ。普通」


「いやいや、家はも~っと狭いんだから!人数にそぐわない・・・・」


「どうしたの?」

「いっ、いえ、なんでもないです。はい」


後ろから刺すような視線を感じて、続きを言うのを止めた。

いっつも家のことを言うと怒るんだ。でも、すごく狭いんだもん。


・・・・こう言うことを言うと、

「お前達が勝手に上がりこんで来たんだろうが!」って

とんでもない剣幕で怒られちゃう。


確かに、それは事実だけども・・・・。

栞奈ちゃんの為に一部屋用意してあげたのなら、

僕達だって、一人一部屋なんて贅沢は言わないけど、

二組に分ければいいのにって思う。


そもそも、文句を言ってるのは僕だけじゃない。

亜修羅だって言ってるんだ「狭い!」って。

だったら、僕が考えたとおりにやればいいのにさ、なぜか断る。

お金が足りない訳じゃないのに、なぜか断られちゃうんだ!

そのくせ、「お前の寝相が悪くて眠れない」とか言うんだもん。ひどい話だよ・・・・。


「あっ、あの・・・・」

「どうしたの?」


「狭いって・・・・家族が多いの?」


「え?うん、まぁ、そんなところかな?どうしてそんなこと聞くの?」

「うっ、ううん」


市川さんは慌てて首を振ると、華月さんの方へと歩いて行ってしまった。

その姿を目で追っている時、テーブルの上に置いてあるカップめんをみつけた。

それは、作られてからまだ時間が経っていないもののようで、わずかな湯気が見える。


華月さんは今まで僕達と一緒に行動していて、

帰って来た今も動いていた様子はないから、家族かな?


でも、僕達が玄関に入った時、玄関に靴は一足も見当たらなかった。

この家の玄関はとても広いのに、靴箱がなく、それでいて靴がなかったんだ。

なんだか不自然な気がする。


「あの、そのカップめんは?」

「一度兄が帰って来たんだと思うわ」

「そっ、そうなんですか・・・・」


いたってシンプルな答えが返って来たものの、

この家の中にある不自然さは増すばかりだ。


華月さんはお兄さんがいるって言ってたけど、

部屋を見渡す限り、華月さん以外の人物を感じさせるものがないんだ。

それに、なんて言えばいいのかわからないけど、部屋の中に、生活感がない。


洋服ダンスとか棚とかがあって片付いているならまだしも、

見渡す限りじゃ、それも見当たらない。だから、なんだか不思議な感じがした。


そんな僕の気持ちを察したのか、

テーブルの上に放置されていたカップめんを持って来た華月さんが口を開く。


「靴がないのは、一足しか持ってない靴を履いて出かけているからよ。

洋服や生活用品が見当たらないのは、私達には必要がないから」


「えっ、そうなんですか?」

「うん」


平然と言い切ると、僕の持っている風呂敷を預かって、

カップめんが置いてあったテーブルに風呂敷を解く。


中身は、とても大きい3段の重箱で、そこからはとてもいいにおいが漂って来る。

こんなにいいにおいが漂うなんて、

一体どんなものが入っているのか、大変気になる。


いやいや、そうじゃない!

確かに、重箱の中身も気になるところだけど・・・・。

華月さんの言葉の方が気になるでしょ!


だって、洋服や生活用品がいらないって言うんだよ?

それって、なんだかおかしくないかなぁ~?


お父さんやお母さんだっているはずだから、この殺風景っぷりはどうも・・・・。


「親はいないよ」

「えっ、いないんですか?」


「うん。小さいころに離婚して、私と兄は、お互い父親と母親別々に預けられた。

でも、大きくなって、私が兄のところに来たの」


「それで、現在はお兄さんと二人暮らしなんですか?」

「そう。・・・・どうぞ、座って」


テーブルの椅子を勧められて、言われるがままに座る。

でも、その椅子もなんだか変な感じだ。

木製の椅子だから座り心地は硬いはずなのに、全然硬い感じがしない。

むしろ、クッションをひいてあるみたいにフワフワしてる。


「ねえ、なんでこんなにやらかいのかな?」

「わからない。もしかしたら、木製でもやわらかい椅子があるんじゃないか?」

「そんなことってある?」

「市川に聞いてみたらどうだ。あいつは華月と長い付き合いなんだろ?」

「あっ、そっか」


最もな意見にポンと手を叩くと、

正面に座っている市川さんに身を寄せて聞いてみる。


「あのさ、この椅子、どうなってるのかわかる?」


「この椅子?えっと、確か、普通の椅子にクッションを置いて、

その上から、木目のプリントされた壁紙でカバーしてるって聞いたような・・・・」


「ええっ!?」


どうしてそんなに凝ったことをするのかが不思議だ。

・・・・そもそも、そんなことって出来るのかな?


洋服や生活用品のことは、

亜修羅の予想が正しければ、なんとなくわかる。描けばいいんだもんね。


でも、この椅子のことはさっぱりわからない。

座る部分がフワフワして柔らかいのに、表面は平らだから矛盾してるし、

それに、彼女の言うようなことならば、多少切り貼りした部分が見えるはずなのに

見たところ、そんな様子もない。


それが不思議で、自分の座っている椅子をキョロキョロ見ていると、

それに気付いた華月さんが振り返ったので、慌てて動き回るのをやめる。


彼女は警戒心が強い人だから、怪しんでいることを感づかれちゃダメだからね。


僕が動き回るのをやめると前に向き直り、

シンクの上にある戸棚から小皿と割り箸を取り出して、僕達の前に並べてくれた。

でも、自分の分の箸と小皿はない。


「あれっ、華月さんはいいんですか?」

「うん。おなか空いてないから。先に描いて待ってる」

「それじゃあ、出来るだけ早くに食べ終わるね」


市川さんの言葉にうなずくと、華月さんはどこかへ行ってしまった。


残された僕達はどうしていいかわからずに、渡された割り箸を握り締め、

正面にある重箱を見つめていた。


すると、僕達の行動を、「食べたいのに遠慮している」と取ったであろう市川さんが、

重箱の蓋を開けて机に並べてくれた。


「うわっ、凄い!園田さんのお母さんもお料理上手だね!」


「うん。私はいつも、この味しか知らなかったから、

これを作ってるのが園田さんのお母さんだって知った時はびっくりしたの」


「・・・・あれ?市川さん、園田さんと会うのは今日が初めてなんじゃないの?」


「私は初めてだけど、華月とは随分前からの知り合いみたいなんだ。

華月が帰って来ると、いつもこのにおいがしてたから。

私がここでお留守番をしてる時は、いつも分けてもらって、二人で食べてたんだ」


「あっ、なるほどね、ほうほう、理解しました」

「うん」


彼女はゆっくりうなずくと、豪華なお弁当に手を伸ばした。

それを合図に、僕達もお弁当に手を伸ばす。


タコさんウィンナーや卵焼き、ミニハンバーグなどの定番料理から、

きんぴらごぼうや肉じゃが、煮物など手の込んだ料理まで沢山入ってる。

まさに、豪華なお弁当と言うに相応しい代物だ。


口に入れてみると、においでわかったとおり、とっても美味しい。

やっぱり、においからして美味しいかどうかはわかっちゃうよね!


すっかりこのお重のファンになってしまった僕がドンドン食べ進めていると、

隣でゆっくりと食べていた亜修羅に肩を叩かれ、そちらを振り返る。


「何さ?」

「確信に迫らないように、浅い部分を聞いてみろ」


「華月さんのこと?」


「ああ。せっかくあいつもいないしな」

「・・・・は~い」


実は、僕も思ってたところだった。

でも、この美味しい料理を目の前にして、食べることに夢中になっちゃってたんだよね。

それに、勝手に行動を起こしたら亜修羅に怒られかねないし。


本当は、もう少し食べていたいところだけれど、

直ぐに行動をしないと怒られちゃいそうなので、

一端ご飯を食べる手を止め、比較的ゆっくりと食べている市川さんに声をかけた。


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