二つの違い
「あんなに食ったのに、まだ腹がへってるのかよ」
「そりゃね!だってさ、この風呂敷の中、すごくいいにおいがするんだよ。
そうしたらさ、お腹の虫が起きちゃったんだよ」
「・・・・は?」
「だから、今まで眠ってたお腹の虫が起きちゃったんだよ!」
「・・・・」
意味のわからない反応を示す凛に返す言葉が見つからず、無言で視線を逸らす。
すると、凛のいる方向から視線を感じた。・・・・なんなんだよ。
少し前からそうだ。どうしてかわからないが、ずっと俺のことを見て来る。
それは多分、あいつが俺のことを普通じゃないと言い始めた時あたりからだと思う。
最初にそれを言われた時は、「それはお前の方だよ」と返してやろうかと思ったが、
よく考えてみれば少し腑に落ちない部分もある。
例えば、俺の勘のことだ。未来予知とまでは言えないが、
自分の中でも、直感的に働くそれは信用に値するものなのだ。
頭脳種族の族長だからそうなのだろうと思っていたが、
違う可能性があると言われたら、それもまたうなずけるかもしれない。
まぁ、違う可能性と言われても、現時点では全くわからないけどな。
今だからこそ、違う可能性が考えられるのだ。
その理由は、竜達と出会ったこともそうだが、
今回の件で一番大きな影響を与えたのは、神羅だ。
あいつの万里眼も、一種の特殊能力であり、
竜達の持つ能力と同じ部類に属すると思う。
妖怪にも色々種類があるから、
万里眼と似たようなことを出来る奴がいると言えば、いるかもしれない。
しかし、少なくとも妖狐は出来ない。
そうなると、竜達が持つような特殊能力が開花したと言わざるおえないが・・・・
そもそも、妖怪でも特殊能力を持つことは可能なのか?
はっきり言うと、あいつらの能力をフルで活用すれば、
俺達妖怪だって叶わない可能性がある。
妖怪は、人間より能力が優れているとは言え、
ワープしたり物を浮かしたりなんてことは出来ないんだ。
魔術を扱えば別だが、それには妖力以外の力も必要になってくるので、
妖怪でありながら魔術を扱うことが出来る奴なんてそうはいない。
しかし、もし、神羅が魔術の素質があるとしたら、
あれは特殊能力ではなく、魔術と言える。
・・・・ダメだ。答えが出る兆しが見えない。
「何考えてるの?」
「万里眼のことだ」
「ああ、あれ?何か不満でもあるの?」
「不満じゃない。
あいつの万里眼は、竜達の持つ特殊能力と同様のものなのか、
もしくは、魔術の部類に入るのかと言う疑問だ」
「・・・・難しいこと考えてるね」
「だって、そうだろ?
俺は、妖怪が特殊能力を持っている事例を聞いたことがない。
魔術を扱えることなら過去に何件か聞いたことはあるけどな。
だから、あいつの万里眼は特殊能力じゃなくて魔術なんじゃないかって思ったんだ」
「そうなのかな?だって、魔術とかって呪文を唱えなくちゃダメなんじゃないの?」
「・・・・いや、そうとは限らない」
「なんでわかるのさ?」
「・・・・」
俺は、とある人物のことを思い出していた。
それは、俺達が竜と出会う直前・・・・。
とても強い妖気を感じて土手を下りて行くと、そこにいた奴。
比較的直ぐに物事を忘れてしまう俺が、なぜかずっと覚えているあいつ。
あいつは、最後に消える時魔術を扱った。その際、呪文は唱えていなかった。
魔術のことはよく知らないが、呪文を唱えなくても魔術を扱えることは知っている。
「以前俺が出会った奴に、呪文を唱えずに魔術を扱う奴がいた。だからだ」
「おおっ、僕はてっきり、『勘だ』って言うと思ってたけど・・・・
よかった!見直したよ!」
この問題発言は、絶対に馬鹿にしているなと取った俺は、
凛の頭を思い切り殴ると、それ以上話すことをやめた。
一人よりは二人と言うが、
こいつと話すと、二人いても半人前ぐらいにしかならなくなってしまう。
とりあえず、このことについては神羅を交えて話し合うことにしよう。
万里眼を使えるのはあいつだ。
あいつがいなかったら、いくら俺が考えていても答えは出ないからな。
「そう言えばさ、華月さんを追いかけてたのって、
キャンバスから出て来たライオンの件を訊く為でしょ?まだいいの?」
「頃合を見計らっているんだ」
「どうして?」
「あいつは、凄く警戒心が強そうだからな」
「えっ!?初対面に近い状態の僕達を家に上げてくれるんだよ?いい人じゃない!」
「悪い人間ではないと思う。
ただ、能力のことについては中々話してくれなさそうだ。
一番最初に対面した時のあいつの表情を見ただろ?
忌々しい奴を見るような目だった。
きっと、あんなことがよくあるんだろう。
でなきゃ、初対面であれだけの顔はしない」
「・・・・って言うと・・・・どう言うこと?」
「俺の予想では、あいつの能力は、
描いたものをそのままこの世界に連れて来られるんだと思う」
「と言うことは、亜修羅が見たライオンって言うのは、
華月さんが描いたライオンを、そのままこの世界に連れ出したものってこと?」
「いや、描いたとおりのライオンをこっちの世界に連れ出した訳じゃなさそうだ。
普通のライオンだったからな」
「・・・・って、それ、ヤバくない?」
「ああ。もし、全てのものに応用出来るのであれば、金や銃器なども出せる訳だ」
「だから、よくつけられてるってことを言ってたんだね!」
「そう言うことだ。まぁ、あくまで全ては推測だ。真実とは限らない。
でも、その可能性があるから慎重に行動しているんだ」
「そっか!納得!」
「だから、変なところでぶち込むなよ」
「うん、了解!じゃあ僕は、二人と仲良くなれるように努めるね!」
意気揚々と、前を歩く二人に走り寄ろうとするその肩をつかむと、
ギリギリのところで引き寄せる。
「市川はどうなんだ?」
「え?どう言うこと?」
「あいつも能力持ちなのかって話だ。それによって、話すタイミングがまた変わる」
「うーん、どうなんだろう?
市川さんとはあんまり仲がよくないからわからないなぁ・・・・。
僕は仲良くしたいんだけどさ、市川さんが嫌がるって言うかなんて言うか・・・・」
このまま放っておいたらいつまでも言い訳を続けそうなので、
途中で言葉を制すると、背中を押した。
最初は、こいつが口を滑らせるんじゃないかとこの行動に積極的ではなかったが、
とりあえずはあいつに任せることにした。
人と仲良くなることについては、
俺なんかよりあいつの方が得意だ。よくしゃべるからな。
ただ一つ心配なのは、よくしゃべる故に、口を滑らせて、
本当の目的を言ってしまわないかってことだ。
とは言え、俺が仲良くなろうと話しかけても、下手に意識をし過ぎて
「おかしい」と感づかれる可能性もある。
やっぱり、俺よりも慣れている凛に任せるのが無難だろう。
しかし、そう考えてはいても、やはり心配なのは確かで、
自然と距離を詰めると、三人の会話に聞き耳を立てる。
「・・・・それでね、僕は言ってやったんだ!
『こら!そんなことしちゃダメでしょ!』って。
そうしたら、『ごめんなさい~』って逃げてっちゃったんだ」
「丘本君って、勇気があるんだね」
「いやいや、それほどでも・・・・」
「私も、それぐらい勇気があればな・・・・」
しばらくの間会話を聴いてみるけれど、
なんだか、凛と市川ばかりが話しているように聞こえる。
だから、市川に気づかれないように小声で合図をした。
「わかってるよ!でも、中々話してくれないんだもん!」
「人と仲良くなることが得意なお前だ。やれば出来る」
「わっ、珍しい。褒められたっ!」
「だから、がんばって来い」
「え~っ、そう言うことなのか・・・・。なんだか騙された気分だなぁ~」
口ではそう言いながらも嬉しかったようで、さりげなく華月に話しかけようとする。
しかし、それよりも早くに華月が立ち止まり、口を開いた。
「ここが私の家。どうぞ上がって」
「あっ、ありがとうございます。おっ、おじゃましま~す」
完全にタイミングを見失った凛は何とかそれだけ言うと、俺の方を向いて首を振った。
多分、「自分は悪くない」と言いたいんだろう。
今回ばかりは、俺も怒るつもりはなかった。
「怒らない」との意を込めて自分も首を振ると、
三人が消えて行った華月の家のドアを開けた。